【国会議員の目】参議院議員 日本共産党 井上 哲士氏

ODA大綱の精神で本来の役割を
住民合意、温暖化・ジェンダー対策も重要

参議院議員 日本共産党 井上 哲士氏
1958年5月生まれ、広島県で育つ。京都大学法学部卒。代議士秘書、「赤旗」記者などを経て2001年、参議院議員(比例)に初当選し、現在、4期目。党参院幹事長・参院国対委員長。参院外交防衛委員会、ODA特別委員会、倫理・選挙特別委員会に所属。アムネスティ議連副会長、国連人権活動協力議員連盟副会長のほか、国連難民高等弁務官事務所議連、核軍縮・不拡散議連などでも活動。
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※本記事は2022年7月号の掲載記事です

疑問が大きい開発協力大綱
 2015年、かつての政府開発援助(ODA)大綱に代わり開発協力大綱が閣議決定され、日本の外交政策に基づく国益重視の支援が強調されるようになった。ODAの第一の目的は対象国の自律的発展や貧困・格差の解消であり、日本にとっての戦略的重要性などが強調されるのは本末転倒ではないか。ODAの国益重視は世界的な傾向だが、ODA大綱の精神に立ち戻り、本来の役割を果たすべきだ。
 開発協力大綱では、従来認めていなかった軍籍を持つ組織との連携も可能になった。日本は、憲法第9条を持つ国として、平和主義に基づく支援を進める必要がある。ミャンマー支援は、一旦全部、洗い直しを行い、軍の利益になっているものは中止すべきだ。ウクライナ支援も、周辺国の支援も含めて人道支援を積極的に行うべきで、人道第一に徹することが大事だ。

環境社会配慮の徹底図れ
 ODAの実施では、国際協力機構(JICA)などが定めている「環境社会配慮ガイドライン」に従った住民参加や住民合意も必要だ。事業が中止となったモザンビークでのプロサバンナ事業は、小規模農家が多い地域に大規模農業を持ち込むものだった。NGOの要請も受け、国会でも質問したが、小規模農家が土地を奪われ、むしろ貧困化するとの指摘もあった。反対する農民への弾圧や妨害もあったとされる。開発途上国では政府が住民を代表していないことも少なくないので、住民合意を徹底していくことも必要だ。
 バングラデシュのマタバリ火力発電所やインドネシアのインドラマユ火力発電所など、石炭火力発電所をめぐる問題でも住民合意の課題があるが、日本だけがいつまで石炭火力発電所の建設を支援するのかという問題も
大きい。日本政府は新規の支援はしないとしたが、進行中の案件も見直すべきだ。
 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は地球温暖化対策として、2040年までの石炭火力発電の廃止を求めている。インドラマユは2026年、マタバリは2028年の完成予定であり、要請に従えば最長10年余りしか稼働できない。収入が限られ、相手国に借金を残す。

ジェンダー案件で数値目標を
 ジェンダーの問題も重要だ。インド・デリーの高速鉄道案件で女性専用車両を導入するなど、日本政府も取り組んでいる。日本のODAはインフラ案件の比率が高く、教育・保健分野の比率が低い。その下で、広い意味でのジェンダー案件(Gender Informed (Significant)*)の支出額がODA支出総額に占める割合は、2018-2019年の経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)加盟国の平均が約45%なのに対し、2018年は64.8%だ(2019年は32.2%)。一方、ジェンダー平等が主目的の案件(Gender Informed (Principal)*)の割合は、2019年は0.8%でDAC平均の4%を下回り、しかも2011年の2.8%から減った。目標値を設定し、少なくともDAC平均の4%を目指すべきだ。
 参議院ODA特別委員会の海外調査では、教育などの支援に感謝を伝えられることもある。「日本も苦しいときに、なぜ海外か」という声もあるが、国際支援は世界の安定や日本への信頼となり、広い意味での日本の利益にもなる。

 

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2022年7月号』に掲載されています。