日本の人権外交の強化が必要
自民党PTで提言まとめる
衆議院議員 自由民主党 辻 清人氏
1979年東京生まれ。4~17歳の間、カナダで過ごす。京都大学経済学部を卒業し、米コロンビア大学公共政策大学院を修了後、米戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2012年総選挙で初当選。第4次安倍改造内閣で外務大臣政務官を務め、現在は自民党副幹事長、国防部会長代理、人権外交PT事務局長などを務める
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※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2022年1月号』に掲載されています
中南米でも港整備進める中国
―政府開発援助(ODA)の状況についてどう思いますか。
ODAは長い年月をかけて日本の信頼を培い、プレゼンスを発揮するのに役立ってきた重要な外交ツールだ。ところが、常に「削れ、削れ」という予算削減の圧力にさらされている。多い少ないという総花的な議論ではなく、戦略的な見直しが必要だ。
一方、中国が目覚ましい動きを見せ、特にインフラ協力における存在感を増している。私は2018~19年に外務大臣政務官を務めた時、北米と中南米を担当した。ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイなどを何度も訪問したが、各国の沿岸部には日本のODAで建設された港がある。だが、さまざまな経済的要因もあって整備が行き届いていなかった。これに対し、中国は十分に使われていなかった港を再整備し、中国の船が寄港できるようにした。それらは必ずしも民間の船ばかりではない。
こうして中国は中南米から南太平洋にかけて足がかりを築き、安全保障の脅威になりつつある。私は各国の外務大臣ら政府幹部と話す機会も多く、中国がインフラ協力で設置した信号機や監視カメラを通じて自国の情報が収集されていないか、不安がっていた。「日本が以前のようにODAで建設協力をしてくれるなら、その方がありがたい」との声を聞いた。 だが、日本は少子高齢化で国内の経済構造が疲弊し、財政は逼迫しており、さらにコロナ禍で追い打ちをかけられている。さまざまな要因でポリティカル・キャピタル(政治的資本)が吸い上げられており、ODAを増やす余裕がない。それは他の先進国も同様だ。その点、中国は一党独裁で開発協力に安定した資金供給ができる強みがある。
ジェノサイド条約加盟も提案
―自民党外交部会で「人権外交プロジェクトチーム(PT)」の事務局長を務めていますね。
日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想があるが、なぜその国をODAで支援するのか指針を明確化していく必要がある。民主主義や法治、人権といった価値観共有が重要だ。欧米はODAの基準が非常に明確で、時に十字軍的とも言えるほど頑固な対応をする。これに比べ、日本は宗教的な背骨がなく、情緒的で、同盟国の米国がやっているからという消極的理由になりがちだ。
そうした問題意識もあり、2月に人権外交PTを立ち上げ、5月に提言を発表した。主な具体的施策は、①ジェノサイド条約への加盟、②人権侵害制裁法の制定、③ODAによる人権支援メニューの拡充、④中国、ミャンマー、イランなどとの二国間「人権対話」の推進、⑤国際NGOとの人権外交に関する対話枠組みの創設、⑥難民の受け入れ改革、などである。 提言作成で一番苦労した点は、バランスだ。例えば、人権侵害に対応する際も、両方の圧力が働く。強い対応を求める声がある一方、日本はG7の中で唯一のアジアの国でもある。名だたる日本企業の幹部からは「日本は“事なかれ主義”でいいではないか」との声もあった。 ただ、日本は人権問題への意識・関与の欠如が国際的プレゼンスの低下を招き、国益を損なう可能性があることを認識して、人権外交についてこれまで以上に強いメッセージを発する必要がある。政治家としても一層の説明責任を果たしていきたい。
※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2022年1月号』に掲載されています