世界の利益になる新たな日中関係へ
中央アジアなどで第三国連携の積極展開を
衆議院議員 公明党 伊佐 進一(いさ・しんいち)氏
1974年生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業後、科学技術庁に入庁。文部科学省宇宙開発利用課課長補佐、在中国日本国大使館一等書記官(科学技術アタッシェ)、文部科学省副大臣秘書官などを歴任。2012年、衆議院議員に初当選し、現在3期目。元財務大臣政務官。03年、米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号を取得
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※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2021年5月号』の掲載記事です
※当コーナーでは、国際協力に詳しい国会議員が独自の視点から日本の国際協力の在り方を論じます。
中国で科学技術の実態を調査
―在中国日本国大使館に赴任されていた際、『「科学技術大国」―中国の真実』と題した書籍を執筆されています。執筆の背景は。
文部科学省の官僚としてキャリアを積んでいた2000年代、世界の中国に対する見方は「脅威」として捉えるか、「いずれ失敗する」と考えるかに二分されていた。私はかねてから、「もう少し中国を冷静かつ客観的に見る必要があるのではないか」と感じていた。
そうした中、2007年から在中国日本国大使館に派遣されることになった。文科省で宇宙開発政策に携わるなど科学技術の畑を歩んできた私は、この機会に現場を回って、中国の科学技術の実態を調査しようと考えた。それから3年間、ひたすら研究所など現場を訪問して、データを収集し、それらに基づいて執筆を進め、10年に出版することができた。
―書籍のポイントは。
調査を通して、スーパーコンピューターなど、日本を越える分野が必ず現れると感じた。このため、科学技術の面で日本が中国に完全に抜き去られる前に、互いの得手不得手に関して理解を深め、win-winの協力関係を築くべきだと提言した。
当時ですら、中国は日本よりも人材の層が厚く、また最新鋭の研究設備と豊富な研究資金を有していた。一方、日本には長年培ってきた技術力やノウハウがある。日本がコア技術を守りながらも、双方が持つ強みを組み合わせることができるのではないか。詳細は書籍で述べているが、今もその提言は有効な戦略だと思っている。
議員外交で日中関係改善に貢献
―国会議員となった後、「日中次世代交流委員会」を設立するなど、日中関係の発展に努めていますね。
13年に超党派かつ若手議員主体の委員会として立ち上げ、私は設立当初から事務局長を務めている。委員会のモットーは日中関係の良し悪しにかかわらず、毎年中国を訪問し、また地方も訪れて、現状を正確に把握することだ。
設立当時は尖閣諸島の国有化から間もない頃であり、日中関係は決して良好とは言えない中でのスタートだった。両国にとって最悪の事態を避ける最後の砦となるべく、委員会の活動を続けている。14年の訪中時に李源潮国家副主席(当時)と会談した際には、冷え込んでいた日中関係改善の意向が初めて先方から示され、大きな話題を呼んだ。この基調の下、同年11月に3年ぶりの日中首脳会談が実現した。われわれが日中関係改善の橋渡しを担うことができた事例の一つだと自負している。
―今後の日中関係の在り方は。
書籍を執筆した当時と異なるのは、中国がさらなる発展を遂げ、より大国化したことだ。これまで日中両国は「戦略的互恵関係」の概念の下、互いの利益を一つの目的として、関係を発展させてきた。だが、これからは共に責任ある大国として、世界に利益を与えていけるような関係を築いていくべきではないだろうか。
在るべき協力の一つは、第三国連携だ。例えば、中国が影響力を持ちながらも親日国が多い中央アジアにおいて、中国が学校建設を行う傍ら、日本は日本式の教育を輸出するなどが考えられる。このほか、気候変動など、グローバル課題の解決でも手を携える時ではないか。今までの対立を乗り越えた多面的な関係強化を望んでいる。
本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2021年5月号』に掲載されています