イスラム教の聖典コーランは、女性は顔と手以外を隠して近親者以外に目立たなくするよう教えていて、
ミンダナオ島のイスラム地域バンサモロでも、「ヒジャブ」(スカーフ=アラビア語)を被った女性たちを見かけます。
当地ではタガログ語で「ベロ」、マギンダナオ語で「テンドゥン」と呼びます。
ヒジャブを被るかどうかは個人の裁量らしく、
普段は何も被らずお祈りの時だけ被る若い女性もいれば、
全身すっぽり包んで眼だけ出した“本格派”もいますが、
少なくとも既婚者、あるいは一定以上の年齢の女性は例外なくヒジャブを被っています。
もちろん、マドラサ(イスラム学校)では女子生徒は全員、制服の一部として着用します。
ミンダナオ紛争が終結し、イスラム教徒が主導する自治政府樹立に向けた和平プロセスが進む中、
「イスラムのアイデンティティの高まりなのか、むしろ以前よりヒジャブの着用が増えている」という話も耳にしました。
コタバトにイスラム・ファッション専門店が並ぶ通りがあり、品定めする女性客で賑わっています。
そうした店で聞くと、ヒジャブは綿ないしシルク製が多く、
値段は1枚100~500ペソ(約240~1,200円)程度。
フィリピンはカトリック教徒が大多数を占める国なので、ヒジャブは国産よりも
周辺国のマレーシア、インドネシアからの輸入が多いようです。
20代の女性は「カラーやデザインが異なるヒジャブを12枚持っています。普段使いのほか、結婚式用や葬儀用もありますよ」と話します。
熱帯の島でヒジャブを被るのは、いかにも暑そうですが、
むしろ彼女たちは日々の気分で違う色合いのヒジャブを選び、ファッションを楽しんでいるようにも見えます。
日本の女性がお出かけ前にどの服を着るか迷うのと同じことかも知れません。
イスラム原理主義のタリバンがアフガニスタンを握っていた頃、
全身を覆う「ブルカ」が女性の人権抑圧の象徴として欧米諸国で批判されたのを思い出します。
最近もフランスで公立学校でのヒジャブが禁止されたり、
全身を包む水着「ブルキニ」のビーチでの着用が禁じられたりして、論争を巻き起こしています。
様々な歴史的経緯や文化的背景、それぞれの社会の在り様が異なるので、
ことの是非を軽々に論じるわけにはいきませんが、
少なくともバンサモロの街中や村々では、
イスラム女性たちのヒジャブが数少ない“いろどり”になっている気がします。
*「Mindanao便り」は月刊『国際開発ジャーナル』にて連載中です