決意新たに 「これからが麻薬との闘いの正念場」
吉田 実 氏
元・JICAコーカン特別区麻薬対策・貧困削減プロジェクト専門家
JICAはミャンマーの麻薬対策として、ケシの代替作物にソバを導入し収入向上につなげる協力を1997年より展開している。99年から昨年10月まで8年間に渡り北シャン州コーカン特別区で麻薬撲滅と貧困削減に取り組んできた吉田実氏が、12月6日、ケシ栽培撲滅の経緯や、ソバの普及に向けた取り組みについて帰国報告を行った。この地区には、農業や生活改善、保健、教育など包括的なアプローチにより農民がケシ栽培に戻ることを防止する協力も05年より始まっている。
儲からなければやらない
タイ、ラオス、ミャンマー三国の国境地域は「黄金の三角地帯」と呼ばれた麻薬地帯だ。タイとラオスは国際社会の支援を得て80~90年代にケシ栽培を追放。しかし、中国共産党の支援を受けるビルマ共産党の支配下にあったミャンマー(当時ビルマ)のコーカン地域は、中央政府の行政サービスも機能せず、政治的にも地理的にも隔離されていた。アヘンの税収で学校や病院、水道を建設し軍を維持していた彼らに、政府も自治権を認めるなど懐柔策をとり、96年に和平協定が締結。ようやく麻薬撲滅に乗り出す体制となったため、97年の予備調査を経て99年にプロジェクトが始まった。
麻薬対策とは、需要を減らすか供給を減らすかだ。供給を減らすには、①法規制と②代替作物普及、の2つの方法がある。①の法規制は国軍や警察、中央麻薬統制局委員会が担当し、②の代替開発は少数民族開発省と中央開発局が担当する。ケシの代わりにソバを栽培し日本へ輸出するこの事業は、②に当たる。
現地に適した代替作物も分からない中央政府は、この事業を「少数民族側と麻薬撲滅を交渉する切り札になる」と歓迎。両国の象徴的な事業としてメディアにも取り上げられた。日本という中立的な支援が受け入れやすかったこともあろう。少数民族のトップも、05年までに麻薬を撲滅するとの決議に賛成した。
だが、順風満帆ではなかった。「なぜケシを撲滅する必要があるのか」、「ソバがケシと同じぐらい儲からないと作物替えはしない」とも言われた。正直なところ、ケシほど儲かる作物はない。地道な説得を続けるしかなかった。政府側も、「時間をかけて話し合う」、「中南米のように武力で制圧すれば、この国は再びバラバラになる」と繰り返し吉田氏は語っている。
続きは『国際開発ジャーナル』2008年2月号「NEWS&TOPICS」(P56)に掲載!