遠山清彦 参議院議員「内政志向型政治からの脱却を目指せ」[2008.6.8]

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公明党 参議院議員
遠山 清彦 氏

“GNI比0.17%”の意味

 07年の日本のODA実績は、DAC諸国中、第5位へと転落した。TICADⅣやG8洞爺湖サミットが日本で開催され、MDGsの達成やアフリカ開発問題で旗振り役を務める年に、このような数字が発表されたことは相当な痛手だ。

 5位転落よりも深刻なのは、日本のODA実績がGNI比で0.17%にまで落ち込んだことだ。国際社会がMDGs達成のためGNI比0.7%のODA量確保を目指している。日本経済が伸びていないなかでGNI比率が落ちているということは、日本経済の落ち込みを凌ぐペースでODAを削減してきたということになる。これはさすがにまずい。

 MDGsが出された当時、日本のODAはGNI比0.25%程度。それを維持しながら総額として落ち込んでいるのならまだ説明がつく。GNI比で見ると日本はDAC22カ国中、20位。日本より後ろにいるアメリカは、絶対額で1位を確保しているという意味で面目を保っている。1位から5位へ転落し、GNI比でも後ろから3番目の日本は、国際社会から“開発援助をやる気がない”と受け止められても仕方がない状況だ。

増額に向けた工夫

 当然、このままでいいはずがない。そのために何をするべきか。その一つに、一般会計予算を増額するという話がある。ただ、これは非常に難しい政治決断が必要になる。「骨太の方針2006」では、2011年までに基礎的財政収支を黒字化すること目指し、ODA予算については、毎年、2から4%削減することになった。この国民に対する約束を覆すことが必要になる。

 こうした“足かせ”があるなかで、福田首相や高村外務大臣らは、「ODA増額反転させなければならない」と発言している。私個人としても、公明党としても、この発言をサポートしていきたいと考えている。そのために必要なのは円借款の有効活用ではないか。

 毎年、円借款の回収金として6,000億円ほど戻ってきている。原資の多くが政府の財政投融資からの借り入れであり、回収金は国庫に返納するのが前提となる。しかし、もとはODAとして拠出したお金であり、それを再度ODAに還流させるというのは、アイディアとして悪くはない。ここを拡充していくのも一つの方法だ。また、円借款の相手国を増やすことも重要ではないか。返済能力のない国に貸し付けはできないが、“円借款を使える国にするための援助”という考え方も必要だ。

 他方、税制の見直しを進めるべきだとの議論もある。途上国援助に熱心に取り組むイギリスやドイツの消費税率は17、18%程度。日本より格段に高い。タバコやガソリン税なども同様だ。日本でも早ければこの12月に、税制の抜本的改革が始まる可能性がある。もちろん社会保障費の財源を確保することが第一の目的だが、そこにODA予算の議論も入れ込んでいくことが重要だ。社会保障費の規模は数兆円。数千億円程度のODA増額が、「こんなにメリットがある」ということを、国民に訴えていかなければならないだろう。

外交の武器としての位置付け必要

 ODAが増えない根本的な要因は、日本の政治が内向きなところにある。日本は、内政課題を外交課題よりも重視する傾向が非常に強い。戦後の日本が世界でも類を見ないクオリティ・オブ・ソサエティが高い国となった点は、この内政志向型政治のよい点だった。しかし不幸なのは、グローバリゼーションの進展にともない、内政の失敗に起因しない外交の問題が、日本経済に大きな打撃を与えるようになった。原油高やサブプライムローン問題などがそうだ。こうした世界情勢と密接に経済が連動する現代においては、外交の重要を再認識する必要がある。

 9.11以降、多くの国がODA増額に転じているなか、日本は内政志向型政治から脱却できていない。国際社会のなかで繁栄していくためには、世界の平和と安定が重要であり、日本として具体的に貢献できる手段はODA以外にはない。今、論じられなければならないのは、日本の国益とODAの関係である。ODA増額実現には、その議論が国民に根付いていくことが重要だ。

『国際開発ジャーナル』2008年6月号掲載記事