ASEAN中進国で進化する「日本の知」 日本と連携する国際協力を

 昨年11月から正月返上でASEAN中進国といわれるシンガポール、マレーシア、タイを2週間ぐらいの日程で訪ね、30~50年ほど前に日本が協力(政府開発援助)したプロジェクト、プログラムを追跡しながら、そこに今も「日本の知」、「日本の情(文化)」がどのくらい残存しているのかを調べる仕事(JICA調査)をしました。

連携協力の誘い
 シンガポールは「生産性向上プログラム」、マレーシアは「工業標準化研究プロジェクト」、タイは「モンクット王工科大学」です。結論からいって、すべてのプロジェクト、プログラムには現在も「日本の知」が発展する形で組織や人びとの中で進化中です。私たちは逆に提案されました。お師匠さんと連携して今度はASEANの遅れた国々、他のアジアの国々やアフリカに「日本の知」を伝達しましょうと。

「人脈形成」がナショナル・インタレスト
 これからの日本にとってASEAN中進国は身近な補完関係を有する国々だと思います。補完関係とは、共生の思想です。少子高齢化の日本にとって彼らは頼もしい国々です。これからは、逆に「彼らの知」を借りることも考えられます。
 私は、かつて日本が国造りに協力した身近なASEAN中進国との交流(とくに人脈形成)を大切にする「連携型国際協力」を政府開発援助の一環として活発化すべきだと思います。モノ、カネの時代からヒトの時代に入っています。ヒトがモノ、カネをつくる源泉ですよね。ヒトを通した日本のナショナル・インタレストをもっと積極的に追求すべきだと主張します。

「曖昧」、「混沌」のアジアと日本
 「日本の情(文化)」は仕事の進め方、計画の立て方、研究の方法、組織のつくり方等々に浸透していて、それが時に日本の文化だと感じていない人もいます。無意識のうちに同化しているのですね。私があえて「日本の情」といったのは、ヨーロッパ人との比較において、「差別感」が少なく、時に合理的でない発想などを指しています。
それは「曖昧」というか、「混沌」といったアジア的感覚に類似しているかもしれません。「同じ作業服を着て一緒に働く日本人」、「一緒に同じ部屋で同じ種類のフトンで寝る日本人」(日本の温泉旅行の経験)など、忘れられない日本人観として今も彼らの心の奥深く残っているようでした。だから、ASEAN諸国と日本は共生できるのです。

いつまで米国の真似をするのか
 シンガポールの経団連会長は語気強く言いました。
 「米国の経営は金融破たんに見られるように、崩壊したのです。私たちはかつて日本から学んだ労使協調の経営を大切にしています。それなのに、日本は米国流のレイオフ(首切り)経営を真似ている。解雇は経営を社会問題化することです。それでは経営の意味がない」。
 リー・クアン・ユー元首相はたしかにLook Japanといって、日本の労働倫理観に感銘した国家指導者です。それにしても、シンガポールに良き時代の日本が今も生きているとは、私たちはもっと自信をもって、更なるアジアのリーダーを目指すべきでしょうね。今や、私たちはアジアから学ぶべき時代を迎えているといっても過言ではないでしょう。