日本経済界の新しい時代認識「グローバルサウスとの連携強化」|羅針盤 主幹 荒木光弥

注目すべき提言

日本経済団体連合会(経団連)は、4月16日付で「グローバルサウスとの連携強化」(北側の先進国と南側の開発途上国との連携)に関する提言を発表した。

その内容は⑴国際情勢と日本の課題、⑵グローバルサウスとの連携強化の必要性と留意点、⑶連携強化のためのツール、⑷主要国・地域別の方針策定などである。ここでは日本経済界の時代認識に注目しながら、「国際情勢」と「日本の課題」「グローバルサウスとの連携強化」などに焦点を当てようとしている。

それでは、その提言を追ってみよう。現在、国際情勢に関しては、世界は対立、分断を余儀なくされていて、グローバルサウスと称される途上国・新興国地域でも大きなマイナスの影響を与えているとしている。

他方では、地球温暖化による自然災害、環境汚染や乱開発などによる生態系の破壊も進行中としている。

そうした中で、グローバルなパワーバランスがグローバルサウスへと傾斜し、経済協力開発機構(OECD)や加盟国が世界経済に占める割合は、冷戦終結後の1990年(24カ国)の82.2%から、2022年(38カ国)には59.0%にまで低下。他方、2050年にはGDP上位10カ国中の3カ国が、2075年には6カ国がグローバルサウスの国々になると予測されている。

重視されるカーボンニュートラル

次に、日本に焦点を当てると、人口減少などで国内市場が縮小していく中にあって、サプライチェーンの分断、外国による経済的威圧行為などの経済安全保障上のリスクに適切に対処することが求められ、次いでカーボンニュートラルの実現などに取り組みながら、特定国・地域に過度に依存しない形での“リ・グローバリゼーション”を進め、自由な貿易・投資を通じて海外の活力を取り込むことが不可欠であるとしている。

ここで、もう少し「カーボンニュートラル」や「リ・グローバリゼーション」について、その意味するところを深掘りしてみたい。カーボンニュートラルは直訳すると「炭素中立」である。周知のように、世界の気候変動は、二酸化炭素(CO₂)の排出増加を問題にしている。その増加の大きな要因は、石油や炭素など化石燃料の使用にあるとされている。化石燃料は、燃焼によってエネルギーが得られるが、その過程で化石燃料中の炭素(カーボン)が大気中の酸素と結合してCO₂となり、大気中に放出される。そしてCO₂は主要な温室効果ガスとなることで大気中のCO₂は純増する。

現代社会では、至る所でCO₂が大気中に排出されている。ところが、そのCO₂を減らすものも存在している。それは森林などの植物である。植物は光合成を通じて大気中のCO₂を酸素に変換することで、大気中のCO₂を減らすことができる。

このようにCO₂には「増やす側」と「減らす側」が存在する。この双方が均衡した状態、つまりCO₂排出の差し引きゼロの状態を「中立的である」と言い、その状態を「カーボンニュートラル」と言っている。カーボンニュートラルであれば、大気中のCO₂は増えないので、気候変動対策として非常に重要な意味をもつ。
周知のように、気候変動は地球規模の問題であり、その対策が急がれており、各国政府や企業がカーボンニュートラルを目標に掲げている。

リ・グローバリゼーション

次は、「リ・グローバリゼーション」の問題であるが、提言では日本にとって特定国・地域に過度に依存しない状態、いわゆる“リ・グローバリゼーション”を進めることによって、出来得る限り自由な貿易・投資を通じて、海外の活力を取り込むことが不可欠だとしている。

また、食料、資源、エネルギー(石油など)の安定的な供給を確保する観点から、サプライチェーンの強靭化に向けた連携の輪をグローバルサウスの国々にも広げていく必要があるとしている。その時、日本の政府開発援助(ODA)が重要な役割を果すとは述べていない。恐らく建前上、日本の経済安全保障上でODAが重要な意味をもつとは言えなかったものと推測するが、現実には、ODA、経済協力が、そうした日本の国益に対して、大きな役割を果していることは明白である。

提言では「日本の知見と経験をグローバルサウスの直面する社会課題の解決に活かしていく必要がある」としているが、これは、言うまでもなく日本のODA、国際協力の役割を期待した提言の一節だと言えよう。

それは、提言の「グローバルサウスとの連携強化の必要性と留意点」で明白に述べられている。第一点が連携強化の必要性である。それは、第一に日本の国益という視点から、第二に国際秩序の維持・強化という視点から、第三にグローバルサウスの直面する社会課題の解決という視点から明らかに示されている。

例えば、グローバルサウスとの連携強化の必要性では、第一点が「日本の国益確保」、第二点として「国際秩序の維持・強化」、第三点として「グローバルサウスが直面する社会課題への協力」などが提示されている。最も重要な要素である国益確保については、経済安全保障が最大のテーマであるが、例えば主要な穀物では、トウモロコシ26%、大麦は93%の輸入のうち15%をグローバルサウスに依存している、鉱物資源ではリチウムの34%、ニッケルの30%、原油は100%近くを輸入に依存し、約40%をグローバルサウスからの輸入に依存しているとしている。

第二点が国際秩序の維持・強化という点で、グローバルサウスとの連携が重要とされている。第三点はグローバルサウスの直面する社会課題の解決という視点。これは主にODAの役割に期待されるところが大きいが、本提言ではODAの言葉一つも見当たらない。政府との役割分担をはっきりさせたい意図が見受けられる。

しかし、現実は経済的課題と社会的課題が深く関係しているので、民間側の経済活動という視点から、ODA部門にも一歩足を踏み込んでもらいたかった。民間からのODAへの注文は、途上国の経済社会開発にとって重要な意味をもっているからである。政府と民間との総合的な取り組みが、途上国の社会経済の発展にとっていかに大切かを再確認してもらいたいものである。

※国際開発ジャーナル 2024年7月号掲載

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