日本財団 連載第8回 
ソーシャルイノベーションの明日 

写真:武装勢力の本拠地に自ら赴き武装勢力リーダーに対話を促す笹川陽平ミャンマー国民和解担当日本政府代表(日本財団会長)

 

ミャンマー和平と日本 -国際協調に基づく“The Nippon Way”の実践

 

植民地政策により生まれた対立構造

 現在、ミャンマーには約135の民族がいると言われている。だが1948年の独立以降、国軍と少数民族武装勢力との間では内戦が続いている。
内戦の火種は、1824年から始まった英国の植民地政策まで遡る。当時、英国は人口の多数を占めるビルマ族とそれ以外の少数民族を切り離して分割統治を行った。その結果、両者の間には互いに敵対感情が芽生え、英国から独立後も70年近く戦闘を繰り返している。

 2011年の民政移管以降、テイン・セイン大統領(当時)は平和を構築することが国政の最重要課題の一つであるとし、少数民族武装勢力との対話を推し進めた。しかし、彼らの政府に対する不信感は根強く、当初は対話の機会を設定することすら困難であった。

 他方、1976年から同国を支援してきた日本財団は、山岳の少数民族地域を中心としたハンセン病制圧活動や学校建設を通じ、政府と少数民族の双方から信頼を得てきた。これらの関係を基に、近年は停戦と和平の実現に向けて「対話の場づくり」「紛争被害者支援」「文民統制への理解促進」を3本柱に多角的、重層的な取り組みを実践している。

対話による信頼醸成の機会を提供

 第一の柱である「対話の場づくり」は、政府と少数民族武装勢力との間の信頼醸成を目的に、2012年から日本財団が仲介役となる形で両者の要請に基づき政府閣僚・高官と、武装勢力リーダー・幹部などとの対話や会議の機会を作ってきた。仲介役として重要なのは、「ミャンマー和平は国内問題であり、解決方法はミャンマーの当事者が協議して決める」という大原則を尊重することだ。あくまでも対話機会を提供することに徹し、対話の内容には干渉しないという姿勢をとっている。時には交渉が決裂する事態も発生するが、その度、粘り強く両者に対話継続の重要性を説き、この5年間で100回近く対話の機会を設けた。

 成果も見え始めている。15年10月15日に8つの少数民族武装勢力が、18年2月13日には新たに2つの少数民族武装勢力がミャンマー政府との全国停戦合意文書へ署名したことは、その一つだろう。合意文書には、国連代表と欧州連合(EU)代表、ミャンマーと国境を接する主要3カ国以外で唯一、日本が証人として招かれ、日本財団会長の笹川陽平がミャンマー国民和解担当日本政府代表として署名した。これは、日本財団と日本政府が協力して行ってきた信頼醸成に向けた取り組みが、ミャンマー政府と少数民族武装勢力の双方に受け入れられている証左である。今後も未署名の少数民族武装勢力に対して、対話の機会を提供し続けていきたい。

紛争被害者支援を通じた相互連携

 第二の柱は、長年の軍事衝突で発生した100万人とも言われる「紛争被害者への支援」だ。少数民族が居住する地域は山岳地帯が多く、主食のコメに加えて基本的な生活物資が不足しており、人道支援の必要性は政府・少数民族武装勢力とも認めている。

 日本財団は、日本の外務省、在ミャンマー日本国大使館、日系NGOと協力し、ミャンマー政府・少数民族武装勢力の双方の要請に基づき、主に少数民族武装勢力が支配・影響を及ぼす9つの州・地域で、食料支援をはじめとする人道支援を12年から実施している。支援額は約21億円に上り、延べ100万人の紛争被害者に「和平の果実」を届けてきた。

 また、16年からは人道支援の次の一手として、ミャンマー南東部を中心に35億円規模の復興支援も行っている。これは、内戦により住む場所を追われた紛争被害者が元の場所に帰還できるよう、再定住環境を整備するものだ。これら人道・復興支援では、政府と少数民族武装勢力が対話を通じて事業を計画したり、連携して事業を実施したりするよう促している。こうした協力の経験は支援を円滑に進めるだけでなく、両者の信頼関係の構築という副次効果が期待できるからだ。さらには、これら支援を通じて紛争被害者が「和平の果実」を実感することで、国全体における和平への期待感が高まり、停戦に合意していない少数民族武装勢力のリーダーへの無言の圧力にもなる。

国軍に文民統制への理解を促す

 第三の柱である「文民統制への理解促進」は、ミャンマー国軍を対象に行っている。内戦が続く同国では、議員定数の4分の1が国軍司令官の指名による“国軍枠”となっており、民政移管後も国軍は政治に強い影響力を有する。ただ、文民統制へと体制が変わっていく中、国軍もこれからの軍隊の在り方を模索しつつあり、それを探る上で日本との防衛交流に強い関心を示している。というのも、ミャンマー国軍は、旧日本軍に多大な影響を受けて創設された経緯があるからだ。

 日本財団は、日本の防衛省や自衛隊と協力して、これまで国軍司令官をはじめとする40人近くの将官を日本へ招聘し、「民主国家における軍の役割」をテーマに防衛交流を積極的に支援してきた。招聘した将官の多くは、ミャンマー和平に関係する機関・委員会の主要メンバーとしての職責を担うことが多く、日本が協力するミャンマー和平への取り組みを推進する原動力となっている。

 以上のように、日本財団はミャンマー和平に向けて官民さまざまな組織と協調しながら、ミャンマーを主体にした取り組みを実践している。この手法は、“The Nippon Way”として日本が目指す国際協調主義に基づく積極的平和主義のモデルとなり得るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

profile

日本財団  国際事業部 国際協力チーム   中安 将大氏

 慶應義塾大学を卒業後、デンバー大学ジョセフコーベル国際研究大学院で修士号を取得。2009年に(公財)日本財団に入職し、国際協力グループで主に東南アジアにおける人材育成や知的交流、障害者支援などを担当。14年1月より2年半、日本財団ミャンマー駐在員事務所へ赴任し、ミャンマーの紛争被害者を対象とした食料支援や再定住環境整備に従事。16年7月に帰任後も、国際事業部にて引き続きミャンマーの平和構築支援に関する業務を担当。
お問い合わせは:cc@ps.nippon-foundation.or.jp

『国際開発ジャーナル』2018年4月号掲載

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