日本財団 連載第17回 
ソーシャルイノベーションの明日 

写真:「東京アルビニズム会議」にはアフリカ等9か国から当事者や専門家らが集まった

 

アフリカ「アルビノ狩り」の現実明るみに ―日本初「東京アルビニズム会議」が問う多様性の意味

 

狙われる身体

 「襲撃してきた隣人は、私の右腕を切り落としました。そして、外で待ち受けていた男にその腕を投げ渡しました」。今から10年前に自らの身に起きた襲撃事件の生々しい一部始終を語るのは、タンザニアの36歳の女性、マリアム・スタフォードさんだ。当時2歳だった息子と就寝中、突然、隣人を含む4人の男たちに襲われ、両腕を切り落とされる重傷を負った。狙われたのは、彼女がアルビニズムだったからだ。

 アルビニズムとは、メラニン色素合成の減少や欠損が原因で、民族や人種、性別に関わらず出生時から皮膚、毛髪、目の色が薄くなる遺伝性疾患である。日本では白皮症、先天性色素欠乏症、アルビノなどと呼ばれる。一般的に、アルビニズムの人々は白い肌と髪を持ち、弱視などの視力障害を伴う場合が多い。また、直射日光に弱いため、日焼け止めなどで肌を守ることが必要とされている。日本では6,000人が、北米や欧州では1万7,000人に1人がアルビニズムと推定されているが、アフリカのサハラ砂漠以南の地域(サブサハラ)ではさらに多く、特にタンザニアでは1,400人に1人がアルビニズムであると言われている。

 その外見から、世界各地で誤解や偏見の対象となることも多いが、特に深刻なのがサブサハラ だ。この地域では、古くから「アルビニズムの人々は幽霊」だと信じられてきた。近年ではさらに、その肉体が幸運を呼ぶとして、呪術に使用する目的でアルビニズムの人々の身体の一部を切断したり、誘拐や殺害したりする事例が数多く報告されており、大きな問題となっている。冒頭でマリアムさんが襲われたのも、彼女の両腕を売って利益を得ようとした者たちによる犯行だった。

 このような状況を受け、国際社会では問題解決に向けた取り組みが進められている。国連は2015年、独立専門家を任命し、世界のアルビニズムの人々が直面する問題や現状についての報告と対策への提言を求めた。また、毎年6月13日を「国際アルビニズム啓発デー」とすることが決まり、欧米を中心にこの深刻な人権問題に取り組もうという気運が高まりつつある。しかし、日本国内では、アフリカで起きている事態も、アルビニズムという疾患についても、あまり認知されていないのが現状だ。

教育や正しい知識の普及の重要性を認識

 そこで、日本でもこの問題を知ってもらおうと2018年11月9日に開催されたのが、「東京アルビニズム会議」だ。日本財団が主催し、国連独立専門家のイクポンウォサ・イロ氏の協力の下、タンザニア、マラウイ、モザンビーク、ケニア、ナイジェリア、南アフリカなどアフリカを中心とする世界9カ国から、当事者、支援者、専門家ら14人が登壇した。登壇者はそれぞれ、自分たちの国の状況を報告し、持続可能な対策についての議論が行われたが、人が「狩られる」という非人道的な現状に対して、教育、正しい知識や情報の普及、啓発が重要であるという共通の認識が示された。

 独立専門家によると、過去10年でアフリカ28カ国において報告された襲撃件数は700件にも上り、その被害の多くは女性や子どもだという。アルビニズムの子どもを産んだ母親と生まれてきた子どもは、家族や地域の人々の無知により、困難な生活を強いられ、襲撃の対象となりやすい。また、学校教育においても、教師たちの理解不足により、視力の弱い子どもたちは適切な教育を受けられないまま落第してしまうことも多い。そのような背景から、大人になっても職業の選択ができず、脆弱な存在であり続けることが、襲撃のリスクをさらに高めている。まずはこの悪循環を断ち切る必要がある。そのためには何が必要か。持続的な取り組みのために私たちには何ができるのか。会場の参加者が深く考える機会となった。

尊厳を持つことの大切さを問う

 会議には、日本人当事者として立教大学の矢吹康夫助教、国際協力機構(JICA)職員の伊藤大介氏も登壇した。アフリカと状況は違うが、アルビニズムの人たちが直面する問題は万国共通だという話に、各国から集まった当事者たちが共感した。

 最後に、会場の日本人女性が質問した。「(アルビノとして)私はずっと、普通になりたい、人と違う自分は社会に受け入れてもらえないのか、と思って生きてきました。でも今日、皆さんのお話を聞いて強くてすてきだなと思いました。自分に自信を持てるようになるにはどうしたらいいですか」。

 この問いに、世界初のアルビニズムのモデルでジャズシンガーのコニー・チュウさんは、「私は両親からずっと『私たちは皆、1人の個人、皆違うし、皆ユニーク』と言われて育ってきた。だからあなたも、自分を信じて、自分に投資して。あなたから自信を奪うような人たちからは離れるといいわ」とアドバイスした。「東京アルビニズム会議」は、アルビニズムという特定の問題だけでなく、人種や国籍も超え、私たち一人ひとりが多様性を尊重し、尊厳をもって生きることの大切さを問う場となった。

 国連では、「持続可能な開発」のための「誰一人取り残さない社会の実現」というゴールに基づき、アルビニズムの問題について、2021年までの地域行動計画をまとめている。また、関連する取り組みについてはオンラインプラットフォーム(https://actiononalbinism.org/)で情報を得ることができる。まずは、これら情報を積極的に共有し、日本国内の関心を喚起すると共に、今後の関わり方を検討していきたい。

profile

日本財団  特定事業部 特別事業運営チーム   田中 麻紀子氏

 米国カリフォルニア大学サンディエゴ校 国際関係大学院修了後、2007年に日本財団に入会。海洋事業部、国際事業部を経験し、現在はハンセン病制圧関連事業を行う特別事業運営チームにて、主に広報業務を担当

『国際開発ジャーナル』2019年1月号掲載

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