大学の国際化最前線|広島大学大学院人間社会科学研究科「ザンビア特別教育プログラム」

大学で初めてJICA協力隊と連携
ザンビアで理数科教育を実践

協力隊経験を活かし修士論文が書ける

 広島大学大学院人間社会科学研究科には、大学として初めて国際協力機構(JICA)と連携した教育プログラムがある。2002年に始まった「ザンビア特別教育プログラム」だ。

 同プログラムは、同研究科の学生のままJICA海外協力隊に2年間参加し、理数科教員としてザンビアの学校の生徒を指導したり、同国で教材開発やフィールドワークを行ったりするものだ。所定の単位も与えられる。希望者は博士課程前期(修士)在学中にJICAの選考試験を受ける(定員は年に3人程度)。合格したら渡航までの間に、講義に加えて、体験者による大学内の勉強会や、JICAの派遣前訓練を受けて準備する。同プログラムを主導する馬場卓也教授も、また協力隊の経験者だ。同教授は同プログラムについて、「協力隊活動と研究を並行して行えるため、経験を活かして修士論文が書ける。指導教員はメールで参加学生を指導するほか、年1回、現地に出張して集中講義を行ってくれる。博士課程前期の学生の場合は標準3年6カ月で修士号も取得できる」と利点を強調する。ザンビア大学と共同研究や合同セミナーを行ったり、ザンビアの学生や教育関係者が広島大学大学院へ留学したりと相互交流も盛んだ。年1回の合同セミナーでは両大学の教員だけでなく、学生にも研究発表の機会がある。

学生と教員が20年間改善を重ねた

 同プログラムが創設された背景には、1990年代後半から大学の国際教育協力活動参画への期待が高まったことや、ミレニアム開発目標(MDGs)で基礎教育の重視がうたわれたことがある。国際協力分野の人材育成の強化を図っていた広島大学は、派遣者への支援体制が充実していたJICA青年海外協力隊(当時)との連携を模索し、JICA側と検討を重ねた。派遣国をザンビアとしたのも、協力隊員としての資格要件や現地の環境を検討した結果だ。

 2022年3月には、同プログラム開始から20周年を迎えたことを受けて、人間社会科学研究科とJICAの共催で成果報告会を兼ねたシンポジウムが開かれた。馬場教授は成果報告にあたり、「教育は愛情を持って、教える側を理解することが重要だ。しかし、国境を越えて実践するのは並大抵の苦労ではない。われわれ教員も学生と共に悩み、少しずつ改善や工夫を重ねてきたおかげで、このプログラムを続けてこれた」と語っている。

 新型コロナウイルスの世界的流行に見舞われた2019~21年は、いったん全員が帰国した後、相手国の状況に気を配りながら、協力隊員(学生)の派遣先をウガンダなど近隣国に変更したりして、再開しつつある(42ページの写真を参照)。

 広島大学は、算数教育、幼児教育、教師教育分野での研修を受け入れるなど、途上国の教育向上に貢献し続けている。JICA協力隊と連携した「ザンビアモデル」が今後、他の大学に普及するかどうかも見逃せない。

 

※グローバル化の時代、大学・大学院など高等教育の現場でも国際化が進んでいます。このコーナーでは、アジアをはじめ世界とのさまざまな「知的交流」に向けた取り組みや国際協力を学べる大学を紹介します。情報提供お待ちしています。

 

『国際開発ジャーナル2023年1月号』掲載

(本内容は、取材当時の情報です)

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