アジアで羽ばたく法の実務家を育成
グローバル目指す学生のニーズに対応
世界経済のグローバル化に伴い、国際社会に通用する「法」や「ルール」の高度化・複雑化が進んでいる。その一方で、日本の法学教育は、いまだに法学研究者と日本国内の法曹の養成に主眼を置き、国際社会で活躍できる実務家を育てる環境が十分に整っているとは言い難い。
そんな中、日本の法学を牽引する人材を多数輩出してきた早稲田大学法学研究科が、画期的なコースを2018年4月からスタートさせる。その名も「現代アジア・リージョン法LL.M.コース」。研究者や法曹の養成ではなく、国際公務員や海外に展開するビジネスパーソンとして働く「法のエキスパート」を育成することが狙いだ。
「LL.M.コース」とは、もともと欧米の法学系大学院が設けている修士課程の一つであり、法学の基礎教育を受けた学生が、短期間で専門性を高めるコースを指す。早稲田大学が今回新設したコースも、全て英語の授業を通じて1年間で集中的に法の専門知識と分析能力を培うことができる。
プログラムコーディネーターを務める中村民雄教授は、「アジアのグローバル化が進む中、日本国内で法律家を目指していた学生たちも、より国際的な仕事を求めるようになっている。このコースでは、こうした学生の新たなニーズに応えていく」と話した。
法の観点からアジア経済に貢献を
「現代アジア・リージョン法LL.M.コース」のカリキュラムには、他のLL.M.コースにはない独自性がある。国際法や国際経済法など、国際関係を規律するさまざまな法分野を理論と実践の両側面から学びながらも、特に「アジア地域」に軸足を置いた授業を提供することだ。中村教授は、「必須科目を通じてアジアと他の地域を比較するほか、アジア市場で生じるさまざまな法的な問題を分析します」と話す。
その狙いについて、同教授は「EUなどと異なり、アジアは政治的な統合を通じて共通の法やルールをつくるというシナリオを描くことが難しい。しかし、アジア経済は日に日に緊密化しており、その過程で、政府に代わって企業が経済活動に関する基準やルールを現地に根付かせる役割を担っている」と指摘。その上で、「こうしたアジアの特性をきちんと分析できるスペシャリストを育てたい」と話した。
同コースは初年度、日本人と留学生あわせて10人程度を募集している。教授と学生が対話しながら一緒に学ぶ「ソクラティック・メソッド」を本格的に導入し、密度の濃い少人数制の教育を提供する予定だ。中国の存在感が高まる昨今、アジアの問題を「権力」ではなく、「法と正義」で解決する人材を育てる意義は計り知れないと言えよう。
※グローバル化の時代、大学・大学院など高等教育の現場でも国際化が進んでいます。このコーナーでは、アジアをはじめ世界とのさまざまな「知的交流」に向けた取り組みや国際協力を学べる大学を紹介します。情報提供お待ちしています。
『国際開発ジャーナル2017年10月号』掲載
(本内容は、取材当時の情報です)