SDGsを機に開発コンサルタントの新たな役割の追求を
2015年9月の国連持続可能な開発サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、現在、(一社)日本経済団体連合会(経団連)の「企業行動憲章」にも盛り込まれるなど、国際協力の世界だけに留まらず、日本社会でもSDGsへの取り組みはますます熱を帯びている。そこで、ソフト系開発コンサルティング企業の(株)コーエイリサーチ&コンサルティングに民間企業から転職し てきた若手コンサルタントを中心とした4人が、SDGsについて語った。
出席者:(株)コーエイリサーチ&コンサルティング
写真左から 保健・医療開発部 山本 侑氏
保健・医療開発部 林 朝子氏
金融・ガバナンス部 貝瀬 秀明氏
保健・医療開発部 佐野 太悟氏
司会進行:本誌・企画部 田中信行
官と民をつなぐ架け橋に
―政府開発援助(ODA)に長年携わってきた開発コンサルタントとしては、SDGsをどのように捉えていますか。
佐野:
SDGsの前身であるミレニアム開発目標(MDGs)の時は、対象が途上国で課題も明確だったので、社内や業務の上でも頻繁に話題にしていた。SDGsにおいては、ODA業界以外の人たちとの会話の中で出てくることが増えてはいる。しかし、開発業界としては今の日本社会で話題になっているほど新しい概念として捉えてはいないような気がする。 開発コンサルタントの仕事は、そもそもが開発途上国の社会課題の解決を目的としている。SDGsが採択される前からSDGsで掲げられている全ての目標の達成を目指してきたので、正直なところODAの現場であえてSDGsを意識する場面は少ない。実際、私が現在、取り組んでいるモンゴルの医療従事者の能力強化を行う日本モンゴル教育病院運営管理の案件もSDGsが登場する2015年以前より調査や相手国との協議を進めており、SDGsが起点となっているわけではない。
山本:
SDGsをきっかけに多くの民間企業が途上国に目を向け、ビジネスとして参入しようとしており、これは、開発コンサルタントにとってはチャンスでもあり、ピンチでもある。というのも、企業が途上国へ参入し、今まで公的資金で行っていた部分を企業が担うようになれば、開発コンサルタントがこれまで果たしていた役割が小さくなる可能性があるからだ。逆に、これを契機に企業との連携を今まで以上に進展させ、公的な動きと民間の動きをつなげる役割を担うことで、開発コンサルタントの存在感を高めることができるかもしれない。
貝瀬:
私は過去に、IT企業で働いていたことがある。そこでは、私のように途上国の社会課題の解決につながるビジネスをしたいと思う社員もいた。そうした社員は社会課題の解決につながる事業アイデアを企画するが、利益を追求しなければいけない一般の民間企業では、「企業として取り組む必要性はない」という反発も多い。 だがSDGsが日本社会で浸透しつつあることで、企業が途上国で社会課題につながるビジネスを展開することの意味や意義を、社内外に説明しやすくなってきている。ビジネスの起点が技術から社会課題に転換されつつあるという意味では、影響力の強いワードだ。 これからは、SDGsというスローガンのもとで企業の途上国へのビジネス参入がどんどん進むだろうし、そうなればいずれは企業が途上国の発展を支えるメインアクターになるだろう。そうしたことを考えた時に、開発コンサルタントとしてもどのような価値を提供できるか、考えておかなければいけないと感じる。
山本:
現在、開発コンサルタントがこれまで培ってきた途上国での経験やネットワークを生かして、途上国への水先案内人のような役割を担っていることが多いように思う。だが今後はそれだけでなく、開発コンサルタントが現地のニーズを見つけ、主体的に企業にアイデアを提案していくのも良いのではないかと考えている。
林:
開発コンサルタントが企業にSDGs達成に向けた具体的なアクションを起こすよう導くこともできるかもしれない。SDGsはブームになる一方で、既存の企業活動にSDGsの目標を当てはめて見せ方を工夫しただけで何も行動をしない「SDGsウォッシュ」も出てきている。SDGsは世界中の社会課題を包括的に捉え、17の目標と169のターゲットが掲げられているので、企業も何かしらの企業活動をそれらの目標やターゲットに簡単に紐づけられる。せっかくならば、きちんと行動が伴うよう、開発コンサルタントが企業を導いていければいいと思う。 また、途上国の経済発展が進めば、市場として進出を考える民間企業も増えるだろう。そのために民間企業のニーズとSDGsの本来の目標をマッチングさせる仕組みが必要なのではないだろうか。
課題はビジネス感覚の低さ
―企業との連携を進めていく上で、重要なことはありますか。
佐野:
民間企業の中でも中小企業と開発コンサルティング企業の相互理解が深まれば、連携の可能性は大いにあると思う。大企業は開発コンサルタントを使わずとも自社のリソースを活用すれば海外展開を図れてしまう。しかし、中小企業は限られたリソースの中で途上国の市場を新規開拓するのは困難だ。そこで、途上国の現場を知る開発コンサルタントが、途上国でのビジネス展開への道筋を指し示す役割は大きい。
貝瀬:
中小企業との連携は、今後の可能性を大いに感じている。現在、私が従事しているルワンダでのICT(情報通信技術)を活用して新規ビジネスを立ち上げるための環境を強化する案件において、現地企業と日本企業とのマッチング支援を行っているのだが、日本から中小企業の方々が現地を訪れても、「何から着手していいのか、誰に会えばいいのか分からない」というケースが多い。そこでわれわれは、現地のカウンターパートをはじめとした重要人物や現地コミュニティーとのネットワークを活用し、こうした中小企業に的確な人物や現地企業などを紹介し、ビジネス展開への架け橋役になっている。
林:
大企業となら、彼らのCSR活動の後押しを通じて連携ができるのではないだろうか。民間企業のCSRは利益を生み出す事業ではないが、昨今はCSV(共通価値の創造)などの概念も生まれ、事業との関連性を持たせて、途上国などの社会課題に取り組もうとしていることから、CSR活動と の連携から事業への影響も与えられるのではないだろうか。
山本:
ODA業界は少し閉鎖感を感じる部分があり、民間企業との連携を進めていく上でネックとなるのではと危惧している。例えば、民間企業で当たり前に使われている最新技術がODAの現場では導入されていなかったり、そもそもODA関係者がそうした技術について疎かったりする。
貝瀬:
確かに、開発コンサルタントが主体的に民間企業との連携を図る上では、途上国の現場を知っているだけでなく、途上国の課題解決やニーズに応えられる技術やノウハウを持っている民間企業について把握し、積極的にアプローチしていくことは重要だ。
佐野:
加えて、ODAとは異なるスピード感や変化の激しい市場の把握など、民間企業のビジネス感覚も養っておかないと、彼らへビジネスアイデアを提案することはできないだろう。
世界共通言語を目指して
―今年はG20大阪サミットや第7回アフリカ開発会議(TICAD7)があり、来年には東京オリンピック・パラリンピックが控えています。そうした中で、皆さんは今後のSDGsをめぐる動きはどうなっていくと考えていますか。
林:
林:当社では「平和構築」「教育」「保健」「経済・金融」「ガバナンス」といった分野に強みを持っている。各分野で「SDGs」を今後どう活用するのか考えるのは、その後の広がりまでは分からないが面白いとは思う。
貝瀬:
途上国の現場で感じていることだが、現地の人はSDGsというワードをあまり口にしない。今のSDGsは先進国の人ばかりが強調しているワードになってしまっている気がするので、今後は、途上国の人々も巻き込んで、世界共通言語として取り組めていけるかが課題だろう。
<Voice>
(株)コーエイリサーチ&コンサルティング 代表取締役社長 神山 雅之氏
座談会に参加した4人はみな30代前半の社員です。当社は30代が全社員150名の3割を占めていることから、座談会における発言に共感する社員は多いと思います。ここ数年、当社のキャリア採用では異業種からの転職者が多く、若い世代が国際協力に寄せる熱い思いを垣間見ることができます。さまざまな職歴をもつ社員が増えることにより、かつて「援助村」と揶揄されたODA業界はますます多様性に富んだ人材を擁する風通しの良い業界になっていくことでしょう。人材の多様化が進めば企業内にはさまざまな価値観が生まれます。ただし、企業活動において個人の価値観のみで行動しては、大きな成果は期待できません。企業価値を醸成し浸透させていく努力が必要です。
当社では、SDGsを「共感できる企業価値を創発するための指針」と位置付けています。SDGsは先進国をも含むすべての国に適用される普遍性を有する開発目標です。すなわち、SDGsは私たちも受益者であることを求めています。当社では本業である開発コンサルティング事業に加えて、企業経営における優先課題をSDGsと紐づけし、中期経営計画の重点施策に据えています。具体的には、①社員の自己啓発と活躍の推進(働き方改革、女性社員の活躍、人事評価制度の改善)、②イノベーションによる成長市場への参入(ソーシャル・イノベーション・ラボの立ち上げ、日本型医療サービス・教材開発の民間事業化、社会保障分野の市場開拓)、③ パートナーシップの育成と活用(Global Compact Network Japanを通じた異業種との連携、外国コンサルタントとの協働)などであり、個々の施策に対してはタスクフォースを立ち上げ、社内外での活動を続けています。
上記に加えて、(一社)海外コンサルタンツ協会(ECFA)の最近の取り組みをご紹介したいと思います。これまで開発コンサルタントは、業務を通じて得た知見や成果を発表する機会は限られていました。業務契約上の守秘義務があるからです。他方、グローバル化が急速に進む中、本邦コンサルタントの国際競争力の向上は喫緊の課題です。ECFAでは有識者の参加を得てODA事業における守秘義務のあり方を見直す一方、コンサルタントによる国際コンサルティング・エンジニア連盟(FIDIC)や学会などを通じた対外発信を後押しする活動に取り組んできました。 JICA、大学、コンサルタントがオープンな連携を通じて、SDGsを活用しながらODA事業の魅力をさらに広く国内外へ発信していけることを願っています。
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