コンサルタントの展望 vol.1
日本工営のトップに聞く

日本工営(株) 代表取締役社長 有元 龍一氏
法政大学法学部を卒業後、1977年に日本工営(株)に入社。経営管理本部長兼人事・総務部長、取締役常務執行役員、経営管理本部長兼人事部長を歴任後、2014年9月から現職。(一社)海外コンサルタンツ協会(ECFA)の会長に就任

 

 
  

技術と資金調達でマーケットの需要に応える

  
 
新連載「コンサルタントの展望」は、開発コンサルティング企業のトップに経営の今後のあり方をはじめ、今の政府開発援助(ODA)への展望を語ってもらうリレー連載だ。第一回目は、開発・建設技術コンサルティング企業である日本工営(株)代表取締役社長の有元龍一氏に語ってもらった。(聞き手:本誌編集主幹・荒木 光弥)

 

早急な技術革新が必要

―開発コンサルタントをとりまく環境をどう見ていますか。

 近年、海外コンサルタントの市場は随分と変わってきており、開発コンサルタント企業はすでに政府開発援助(ODA)の業務だけで会社経営をできるような状況ではなくなっている。環境が激変している大きな要因は、グローバルに進む技術革新だ。猛烈な勢いで進んでおり、開発途上国は官民ともに最先端の技術を活用したインフラ整備を望むようになっている。しかしながら、日本のインフラ整備は伝統的な技術が用いられており、日本側は先方の要望に応えられていない。実際、日本の技術はすでに世界一とは言えなくなっており、途上国側は他に選択肢をいくつも持っている。日本側は早急に技術革新を行い、最先端の技術をもって案件形成を実施する必要があるのではないか。
 そして、自らの技術を売り込みに行くマーケティングの強化も継続的なビジネス展開において、必要不可欠だろう。 技術革新やマーケティング強化に加えて、資金調達も重要だ。つまり「資金と技術を基にマーケットの需要にどう応えていくか」ということだ。その場合、国内だけ ではなく、海外からも案件に資金を出してくれるパートナーを探し出すことも必要だろう。

―貴社としてはどのような事業展開を進めているのでしょうか。

 海外コンサルタント事業、国内コンサルタント事業、電力事業だけでは安定した経営はできないと考え、2016年7月に都市空間事業部、18年4月にエネルギー事業部を立ち上げた。グローバル化を最大のテーマに掲げ、組織再編を行ったが、現在は市場の変化に対応するため、組織のあり方を再度、見直す局面に立っていると感じている。われわれがお客様に対して、どうワンストップ・ソリューションを提供できるかが課題だ。

―現地法人の設立など、世界各国にネットワークを広げていますが、海外拠点との連携については。

 成功例もあれば、失敗例もある。国際機関のプロジェクトの場合、基本的に日本勢だけでは利益が出ないので、案件に応じて現地法人を活用し、コスト削減を心がけている。ただ、今までグローバル化を意識して現地法人を設立してきたが、各地域の特徴を活かしつつ、地域間で連携する「リージョナル化」を推し進めた方が適切な経営ができると考えている。

 

STEPでは事前の政府間交渉を

―質高インフラ輸出では、日本政府は2020年までに輸出額を30兆円、10年と比較して3倍の規模にまで拡大させようとしています。

 この目標の達成は難しいだろう。一つの要因として、本邦技術活用条件(STEP)が必ずしも相手国に歓迎されていない点が挙げられる。現状では、大型案件における一者入札が増加傾向にある。他方、国土交通省の幹部人事(2019年7月1日付)を見ると、四国地方整備局長の平井秀輝氏が、海外プロジェクト審議官に着任した。平井氏以外にも同省内で配置換えがあり、これは質高インフラ輸出を同省で推し進めようとするサインであると見ている。同省は開発案件の実施機関として豊富な経験を持っているので、インフラ輸出の進め方についてわれわれと共同歩調を取ることが期待できる。

―STEP案件を効果的に実施していくためには、何が必要でしょうか。

 コントラクターの調達支援をする上で、開発コンサルタントは中立を守らなければならない。仮に「日本政府やJICAの意向に配慮して調達価格を設定するなどのコンサルティング業務を行っている」と見られてしまえば、お客様の意見を聞く姿勢がないと判断されてしまい、コンサルタントとしての信頼を損ないかねない。われわれは最終的に相手国政府に雇われて案件を実施している訳であるから、常に中立の立場は堅持する必要がある。それ故、STEP適用案件において、現在、開発コンサルティング企業が担っている事業費積算業務において、応札企業の状況に応じて、事業費を積み増す必要性が生じた場合、相手国政府との交渉や議論は、政府間で行ってもらいたいと考えている。  また、途上国における税金は、租税条約が締結されていない国においては日系企業が不利であり、納税手続きにグレーゾーンがあるため、応札時だけでなく実施段階でも業務コストが大きな負担だ。STEP案件では極力免税措置を適用することにより、コンサルタント、コントラクターにとって案件参画への判断がより容易になる。そして、今後もオールジャパンで質高インフラを行っていくのか、議論が必要になってくる。安くて良い技術は日本企業だけでなく、途上国の企業も持っているからだ。場合によっては、日本の技術と途上国の技術を組み合わせて、案件を実施する必要もあるだろう。

―政府系機関との連携も考えられますね。

 (株)国際協力銀行(JBIC)や(株)日本貿易保険(NEXI)といった政府系機関との連携も一案だ。これらの機関と連携して、案件を組成すると、案件に対する信用力も高まってきて、われわれにとっても、相手国政府に対しても、ポジティブな効果が生まれると考える。官と民でうまく協調しながらSDGsのプロジェクトとして案件形成をするなど、柔軟な発想による官民連携が求められている。

―今後取り組みたい事業はありますか。

 インフラにおいては、「スマートシティ」の建設に取り組んでいきたい。現在、世界人口の65%は都市に居住しており、環境問題などさまざまな課題を抱えている。これらの解決の一助になるのが、「スマートシティ構想」だ。 この構想は情報通信技術(ICT)を基に、環境に負荷をかける生活様式を変え、住み良い街づくりを目指している。スマートシティの建設を、ODAだけではなく、民間の資金も入れた官民連携の形で実現したい。官が旗振り役となって、民が資金を提供し、当社が全体をコーディネートするといった考えだ。そうなると、当社の中でも国内と海外、土木・建築・エネルギーとあえて分けて考える必要もなくなる。代わりに、当社の職員は皆、それぞれの専門性をどう統合していくか、真剣に考えるようになるだろう。当社は関係者が一丸となった事業を推し進めるコンサルタントでありたい。

『国際開発ジャーナル』2019年9月号掲載
#コンサルタントの展望 #日本工営

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