SDGsを「使う」という提案 ~実効性ある戦略の可視化を

写真:インドネシアの人々に「大崎システム」の内容や経験を伝える大崎町職員(大崎町提供)


「持続可能な開発目標」(SDGs)の機運は、日本の自治体にも広まりつつある。採択から約3年半。なぜ今、自治体はSDGsに注目するのか。元市役所職員で自治体におけるSDGsの取り組みを推進する髙木超氏が現状と課題について語る。(SDGsと地方自治体・上)

求められる社会構造の変革

  2018年は、「SDGs元年」という言葉が使われるほど、日本国内の自治体で急速に持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みが広まった(本誌2018年9月号でも筆者の寄稿を掲載)。

 その大きな要因は、政府が推進する「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」だ。SDGs未来都市は、省庁横断的な支援を受け、成功事例を国内外へ発信することができる。また、自治体SDGsモデル事業には、上限4,000万円(2019年度は上限3,000万円)の補助金が交付される。モデル事業に選定された10都市のうち、神奈川県からは3自治体(神奈川県、横浜市、鎌倉市)が選定された。地域的な偏りがあるようにも見えるが、これはむしろ、地域全体がSDGsに積極的に取り組んでいることを示していると言える。

 神奈川県では昨夏、鎌倉市の由比ヶ浜に打ち上げられたシロナガスクジラの胃の中からプラスチックごみが発見されたことを契機に、「かながわプラごみゼロ宣言」を掲げた。県内の飲食店やコンビニエンスストアなどと連携して、プラスチック製ストローやレジ袋の利用廃止・回収に向けて動き出している。こうした取り組みが全国各地に広まれば、SDGsの達成期限である2030年にはプラスチック製ストローの使用やレジ袋に入った商品を受け取る光景は過去のものとなるかもしれない。

 他方、SDGs未来都市やモデル事業に選定されていない自治体でも、取り組みが活発化している。例えば鹿児島県大崎町は昨年、第2回「ジャパンSDGsアワード」でSDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞した。同町は、20年以上にわたり住民と自治体職員が力を合わせて、焼却に頼らない徹底した分別による低コストのごみ処理方式「大崎システム」を構築。全国平均の4倍ものリサイクル率を達成し、埋め立てや焼却が主流となっていた自治体の廃棄物処理に変革をもたらした。このシステムは国際協力機構(JICA)との連携の下、インドネシアでも導入され、現地のゴミの減量化・資源化に貢献している。SDGsの達成には、このような社会構造の変革が必要とされている。

鍵は正しい認識とローカライズ

 とはいえ、大半の自治体は未だにSDGsをどのように活用すればいいのか戸惑いを感じているようだ。実際、明治大学公共政策大学院が昨年末に開催した「評価を活用した地域コミュニティーにおけるSDGs達成に向けた効果的な実践とは」と題した特別セミナーには、自治体担当者を中心に応募が殺到し、募集開始数日で定員の150名に達した。

 彼らが抱える懸念としては、SDGsを自治体の総合計画に反映させる過程で、従来の計画で既に設定されている目標とSDGsの17目標との整合性や、防災や環境といった分野別に存在する各種計画との二重規範(ダブルスタンダード)になってしまう、といったものがある。さらに、これらの計画が「SDGsを反映させている」という説明責任を果たすことだけを主眼に置いた結果、職員に浸透せず、実際の現場では使われない、という懸念もある。

 SDGsの17目標やターゲットを自治体の施策とつなげる際、単に事業を分類し、そこに明確な根拠なくSDGsの目標を紐付けすることは、「見せ方」に時間と労力を割くだけで、地域課題の解決には結びつかない。自治体は、「見せ方」だけに気を配るのではなく、目標から事業に至るまでの因果関係を意識した実効性ある戦略を可視化することが必要だ。

 そのためには、まずSDGsの特徴を理解することが大切だ。その中には、目標を達成するための手段も混在している。例えば、目標17「パートナーシップで目標達成を」は、その他の目標を達成するための手段を示しているし、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のように、状況によっては目標を達成するために必要な手段として機能する目標もある。

 ただ、SDGsのグローバルな指標をそのまま地域で使おうとしても、大半の指標は日本国内の状況には即していない。その場合、指標を地域の状況に即したものに読み替えるか検討を要するが、その際も指標を作ることが目的化しないよう注意する必要がある。指標は何らかの戦略の改善に活用するための根拠となるデータである。

 そのため、目標を達成するための具体的な戦略体系を可視化し、それを効果的に実行するにはどういった指標が必要かを検討するという順序で考えなければならない。そして、指標の達成度を測るだけで満足するのではなく、期待していた水準と指標の達成度のギャップなどに含まれた情報を引き出し、それらを基に戦略を改善していくことが必要である。

慶應義塾大学
政策メディア研究科 特任助教
高木 超 氏
整理、点検、共有の観点で

 SDGsを自治体でツールとして活用する際には、「整理」「点検」「共有」という3つの機能に着目すると分かりやすい。

 まず、システム思考で課題や目標のつながりを意識し、これまで自治体が取り組んできた政策や施策をSDGsという枠組みの中で整理してみる。すると、これまで行ってきた取り組みの価値を再評価できるだけでなく、他の部門と協力して取り組むことで相乗効果を得ることができる戦略を見出すことができる。

 次に、SDGsを活用したこれまでの取り組みの中で欠けているものがないか、グローバルな視点で点検する。例えば、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の視点で公共施設を概観し、女子トイレだけにおむつ交換台が設置されていたとしたら、育児は女性がするものという固定観念が表れていると言える。こうして、これまで見えなかった地域の課題を顕在化させ、改善に繋げることができる。

 最後に、自治体の地域課題の解決に向けた事例をSDGsという193の国連加盟国に共通する枠組みで他の自治体に共有すれば、互いに知見を学び合うことができる。

 SDGsは、自治体の「これまで」と「これから」をつなぎ、複数の自治体を結ぶような役割を果たすことができる。次回は、そうしたSDGsの機能を生かし、地域の課題解決に取り組もうとしている自治体を紹介したい。

(つづく)

『国際開発ジャーナル』2019年3月号掲載
#SDGs #自治体 #鹿児島県大崎町
SDGsと自治体・中  SDGsと自治体・下

コメント

タイトルとURLをコピーしました