コンサルタントの展望 vol.5
八千代エンジニヤリングのトップに聞く

八千代エンジニヤリング(株) 代表取締役/社長執行役員 出水 重光氏
東京教育大学農学部農業工学科を卒業後、八千代エンジニヤリング(株)に入社。取締役大阪支店長、常務、専務総合事業本部長、代表取締役副社長を経て、2016年から現職

 

 
  

誠実さを軸に 丁寧なODAを

  
 
連載「コンサルタントの展望」は、開発コンサルティング企業のトップに今後の戦略をはじめ、政府開発援助(ODA)への展望を語ってもらうリレー連載だ。第五回目は鉄道を始めとしたインフラ事業に強みを持つ八千代エンジニヤリング(株)の代表取締役社長、出水重光氏に今後の事業戦略を聞いた(聞き手:国際開発ジャーナル社 社長・末森 満)

 

鉄道分野のODAが減少

―ODAの現状をどう見ていますか。

 国際協力機構(JICA)の資金ショートの問題は開発コンサルタント業界全体に悪影響を与え、当社も受注額がかなり落ち込んだ。だが、日本が手掛けるODA事業の受注総額のうち、「当社がどの程度のシェアを確保しているか」の方が大事であると考えている。当社のシェアは7、8年前と比較し、ここ1、2年低下していることを危惧している。シェア下落の要因は鉄道事業にある。当社は鉄道とダムから興った会社で鉄道関連の技術者の質は国内トップクラスにもかかわらず、海外での鉄道案件には対応できていないため、今後、拡大を図りたいと考えている。

 

―2018年度の実績では、総売上高205億円に対し、海外売上高は25億円程度です。

 2018年に長期経営方針を策定し、27年時点でグループ会社も含めた総売上高を330億円にまで伸ばすという目標を掲げた。そのうち、官公庁を含めた海外案件で60億円を目指したい。そのためには、海外事業における粗利率の低さを改善する必要がある。海外案件では日本から技術者を送り込むための渡航費を含め、直接経費の額が非常に大きい上、直接経費は実費清算になる。今の環境で勝負するには、受注額を上げなければならない。ただ、このように厳しい状況にあるとはいえ、悲観はしていない。国連が掲げた持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、日本の開発コンサルタントが貢献できる部分は大きい。17ある目標のうち11の目標は、われわれの事業と密接に関わる分野だ。かつ飢餓や衛生、エネルギーなど6つの目標は、特に日本が貢献できると考えている。
 海外案件を実施するにあたって、適切な人材配置は重要であると思っている。現在、社員数1,100人超のうち、海外事業部の技術者は140人程度いる。27年には約200人体制にし、60億円の売上高を達成したい。

 

無機質な競争に未来はない

―世界の開発コンサルタント業界の売上高は、計7.2兆円と言われています。このうち日本企業が占める割 合は1%程度です。

 「規模や投資額が大きければ、非援助国に歓迎される」とは限らない。日本政府も含め、「“質の高いインフラ”や技術の海外展開にあたっては日本の丁寧なものづくりや誠実さをもっと大事にしながら、ODAを推進することが肝要と思う。

―今後、ODA関連事業ではどの分野に注力する予定ですか。

  当社の業務は、防災、廃棄物、電力、通信、上下水道、教育、そして鉄道事業の7つに集約できる。これらの事業に関連したODAに取り組んでいく。 特に今後はソフト面も含めた総合的なコンサルティング業務に力を入れたい。例えば、当社は2003年から、バングラデシュの首都ダッカ市でJICAとともに廃棄物管理改善の支援事業に従事している。廃棄物管理局の設立から住民の意識向上までを手掛け、ごみ収集率は約85%にまで増加した。ごみ処理の習慣を身につけてもらうには時間がかかったが、行政はもちろん住民にとっても魅力的なプロジェクトになったと考えている。

―海外における、民間事業についてはどう考えていますか。

 官民連携(PPP)事業を積極的に手がけたい。2020年まではPPPの準備期間と捉え、海外での人脈構築に力を注ぐ。現在、マレーシア、タイ、フィリピンなど、東南アジアの大学において、現地政府や企業とのコネクションが豊富な大学教授の支援を仰いでいるところだ。人脈を広げ、新規事業創出の機会を生み出したい。並行して、社員の人材育成も行う。海外留学を志す意欲的な社員には、海外における法務や財務、商慣習のスキルが身につくよう積極的に支援したい。ODAの傘の下から出て、相手政府や民間と直接仕事をするには、こういったスキルが必要だ。人材育成を疎かにした状態で、むやみに事業を進めるわけにはいかない。

―海外事業を拡大する上で、現地企業とのアライアンスや買収も視野に入れていますか。

 当社は堅実な経営姿勢を第一に事業を推進し、合併・買収(M&A)は一切やってこなかった。しかし、グローバルに技術が急速に進歩する状況下で、当社独自で最先端技術に追いつくのは大変であり、手間もかかる。現状を踏まえ、M&Aやアライアンスは必要不可欠だと考えるに至り、2019年に主な外注先をグループ会社化した。こうした動きは当社では初の試みだった。今後は、海外においてもM&Aやアライアンスを模索したいと考えている。ただ、同業他社は現地法人を立ち上げたりする一方で、当社は人材面でまだ力不足だ。リスク軽減のためにも、「体力をつけてからやった方がいい」というのが、私の持論だ。

 

新事業創出イベントを開始

―国内では、2019年から外国人人材の受け入れが加速しています。

 数年前まで、当社に入社した海外人材の多くが、出身校の大学教授からの紹介だった。新卒で一般応募してくる人もいたが、以前は採用しなかった。当時は終身雇用の考え方が根強く、海外人材はいつか母国に帰ってしまうだろうとの思いがあったからだ。しかしながら、最近は考え方を変えている。海外人材がいつか母国に戻ったとしても、そこで新たなネットワークができればいい。今では一般応募してきた外国人も日本人と同じ土俵で評価・採用し、現在は約10名の外国人が働いている。

―組織の活性化にも積極的です。

 最近始めたのが、新規事業創出のための「zero-ichiピッチイベント」だ。優秀なアイデアを提案したチームや社員には賞金を出している。 若い社員の中には、積極的な人が少なからずいる。私が長らく関わっている「日本大ダム会議」でも、当社の若手技術者が発表したりしている。若手社員には是非、さまざまな機会を捉えて、意欲的にチャレンジしてほしい。

『国際開発ジャーナル』2020年2月号掲載
#コンサルタントの展望 #八千代エンジニヤリング

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