当事者の“心”に届く平和構築支援を

写真:紛争被害者の雇用について現地企業代表と協議


紛争影響地域の課題解決に豊富な経験を有する(株)コーエイリサーチ&コンサルティング(KRC)。同社が目指すのは、人々の心に希望を育む社会の実現だ。執行役員の山本幸生氏と平和構築・社会開発部のコンサルタントに、KRCが考える平和構築支援とその展望を聞いた。

紛争国の多様なニーズに対応

(株)コーエイリサーチ&コンサルティング(KRC)の掲げる経営理念「志と創造力」には、世界中の誰もが平和に、安全に、不自由なく暮らせる社会を築くことへの決意が込められている。紛争・災害が引き起こす恐怖と欠乏から人々を守ることは、開発コンサルタントの最も重要な取り組みとして位置づけられている。

 同社はこれまでアフガニスタンや南スーダン、ルワンダなど、13の紛争影響国・地域で計81のプロジェクトを展開してきた。その内容は、生計向上や職業訓練を通じた紛争被害者の社会復帰支援をはじめ、保健医療、農業、情報通信技術(ICT)強化など多岐にわたる。さらにソフトからハードに至る幅広い領域をカバーしており、紛争影響地域の多様なニーズに対応している点に特長がある。

高度なマネジメント力が強み

 KRCが2015年から政府開発援助(ODA)として手掛けている「ダルフール3州における公共サービスの向上を通じた平和構築プロジェクト」は、同社の強みが特に発揮されているプロジェクトの一つだ。

 スーダンでは2003年に政府軍と反政府勢力の武力衝突を発端にダルフール紛争が生じ、現在も和平実現に向けた努力が続いている。

  同プロジェクトは保健、給水、雇用、公共事業評価の4分野、全21の公共サービスモデル事業を実施し、これを通じて人々の生活改善とサービス提供者である政府への信頼回復を支援している。このように、1つの案件で複数の分野を統合的に支援する上では、多数の関係者の能力を最大限に生かすための高度な調整力・管理力が不可欠だ。

 また、紛争地域の事業運営は特殊なノウハウを要求されることがある。特徴的なのは、日本人の現場渡航制限により他地域から事業を運営する“遠隔操作”が求められることだ。KRCが実施したアフガニスタンの識字教育プロジェクトは、ICT技術などを利用した遠隔での事業実施でありながら、高度なマネジメント力を発揮し、通常のプロジェクトと変わらない良質で広範な裨益を達成した。これによりカウンターパートの厚い信頼を得たことが評価され、現地政府責任者と共に総括が2018年度JICA理事長賞を受賞した。

希望と自立心を引き出す支援

 同社は豊富な現場経験から、平和構築プロジェクトでは紛争の影響を受けた当事者自身が立ち上がること、その力を引き出すためには“希望”が不可欠なことを強調する。

 主任コンサルタントの志賀圭氏は、バングラデシュでのロヒンギャ難民支援の経験から、「長年紛争の影響を受けてきた人々は“人道支援慣れ”から自立への意欲を失ってしまうことが少なくない。彼らに必要なのは“自分にもできることがある”という自信だ」と話し、支援の対象者一人一人に寄り添い、彼らの潜在能力を引き出すことが重要と指摘する。

 前述のダルフール案件で紛争予防配慮担当として活動する田島健二氏は、職業訓練に自尊感情を高める指導法を取り入れている。訓練生の自尊感情の変化はデータ化され、訓練の指導法にフィードバックする仕組みだ。この訓練に参加した女性の一人は障害を抱え、積極的な社会参加を躊躇していた。訓練を通じて“自分にも、おいしいビスケットが焼ける”という自信がわき、卒業後に菓子製造のビジネスを開始。ビジネスで得た利益でベッドを購入し、家族の喜ぶ姿を見て彼女の自尊心がさらに高まるというサイクルが生まれた。

 田島氏は、このような一人の人間の変化ぶりに喜びを隠さない。KRCの平和構築支援では、こうした人間の安全保障の概念に基づく「個人」の幸せを追求しつつ、「社会」の平和の基盤を再構築するアプローチを重視している。


写真:障害を乗り越えてお菓子ビジネスを始めた女性訓練生

生計向上×平和構築

 KRCは今後、生計向上分野を起点に平和構築支援の幅を広げていく方針だ。紛争影響地域では、住民を含め多方面から異なるニーズや課題が発生し、それらは時間の経過に伴って変化していく。

 一方で、行政が十分に機能していないことから、課題の解決には住民の積極的な参加が不可欠である。その参加意欲を促す鍵は、住民自身の「一日も早く生活を立て直したい」という気持ちである。同社では、住民の気持ちを尊重しつつ、自社の持つ総合力を生かした支援の展開を目指している。

 執行役員の山本氏は、今後、KRCが展開する平和構築支援のポイントとして「付加価値の追求」、「説明責任の強化」、「パートナーシップ」の3点を掲げる。

 1点目の付加価値の追求とは、前述のような住民の心の変化を事業の成果として認める仕組みを構築することであり、2点目の説明責任とは紛争影響地域で求められる、すべての関係者から信頼される公正で透明性のある行動を指す。紛争影響地域では、紛争当事者を始め、さまざまな背景を持つ人々の社会的統合が求められる。紛争構造の理解を基礎に説明責任を果たしつつ行動することは平和構築支援として最低限の条件となる。この観点から、「スフィアや人道支援の必須基準(CHS)など人道支援に係る行動基準は開発に携わるコンサルタントにも普及させるべきだ」と同氏は語る。

 3点目の異なる強みを持つ個人・組織とのパートナーシップは、多様かつ変化するニーズに対し有機的なつながりを持った支援を提供する上で欠かせない。2018年、政府機関やNGO、大学、コンサルティング企業に所属する有志により未来の平和構築支援を考える研究会が立ち上げられ、KRC社員もこれに参加している。「社員が現場で感じた小さな気づきやアイデアは貴重な財産です。研究会でこれを練り、新しいアプローチを生み出すことで、人間と社会の復興につなげてもらいたい」と山本氏は期待を寄せる。

新たな一歩を踏み出すために

 KRCが強みとするマネジメント力。現場で磨かれるその力の源泉となるのは社員一人ひとりの思いである。KRCで平和構築支援に従事する社員らは、人々の目の輝きや言葉の端々に表れる小さな変化を感じる瞬間に支援の喜びがあると口をそろえる。平和構築・社会開発部の井川真理子課長は、「人々が新たな一歩を踏み出す姿を見たい̶この初心を胸に、人の可能性を広げる社会の実現に向けたコンサルティングサービスを提供したい」と熱く語る。

『国際開発ジャーナル』2018年11月号 分野別特集「平和構築」掲載
#コーエイリサーチ&コンサルティング #平和構築

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