東京農工大学|炭素循環型社会実現のためのバイオエコノミーイノベーション研究拠点|国際協力が学べる大学・大学院

オール農工大で炭素耕作型社会を目指す

 東京農工大学は、その名前の通り農学と工学に特化した国立大学法人だ。バイオテクノロジー、バイオエコノミーなど農工連携の研究・教育を軸として設立され、産学共同研究でも多くの実績をあげてきた。

 その農工連携の利点を生かして、「オール農工大」で持続可能な開発目標(SDGs)の達成に取り組むのが「炭素循環型社会実現のためのバイオエコノミーイノベーション研究拠点」だ。大学をはじめ起業、地方自治体などさまざまなステークホルダーを巻き込んで、SDGsに基づく到達可能な未来の社会像を設定し、研究開発と産学共創システムの構築を一体的に推進する「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の一つとして、2021年10月に科学技術振興機構(JST)によって採択された。

 研究拠点が目指す未来の社会像について、拠点リーダーの養王田正文卓越教授は「従来の化石資源に依存した狩猟採集型炭素社会から脱却し、バイオマス燃料の開発やCo2 の固定による炭素耕作型社会にへの『産業革命』を実現します」と語る。農工大を代表機関として、東京都の他、早稲田大学、産業技術総合研究所などの研究機関や食料・農業・科学・燃料などの多様な分野の企業が研究拠点に入っており、今後は共同研究も積極的に行う方針だ。

 開設したばかりで学生の直接的な関与はまだないが、農学・工学の教員が多数参加し、学生に知識をフィードバックしている。

わが大学がめざす2030年

 炭素耕作型社会を目指すアプローチとしては、「バイオマスの材料となるものを効率のいい形でつくる」「石油由来のプラスチックをバイオマスの材料に置き換え、海洋汚染を減らす」「森林破壊や環境破壊を伴わない、持続可能な耕作方法を確立する」などがあります。日本だけでなく、パーム油の生成で環境に悪影響を与えている東南アジアや、森林破壊が深刻なブラジルなどでも受容されるのが目標で、すでにインドネシア大学やバンドン工科大学とも連携しています。

 バイオマスの材料は「モンスター農工大」という品種の稲、藻類や材木を想定しており、空気中のCO2を固定した上で燃料などに活用することで、カーボンニュートラルを実現します。

稲や藻類からバイオマス燃料を生み出す

養王田正文先生(拠点プロジェクトリーダー/大学院工学研究院 卓越教授)

養王田正文先生(拠点プロジェクトリーダー/大学院工学研究院 卓越教授)

 「藻類から燃料をつくる」「農作物の活用できない部分を燃料化する」など、バイオマスの研究は各所で進んでいますが、食糧自給率の低いわが国では効率が悪く、コストがかさむという問題もあります。研究拠点では、福島県でバイオマス用の稲を育てて震災後の地域活性化にもつながるようにしたり、炭素耕作のフロンティアとも言える海で微細藻類を育てたりして、CO2を増やさないエネルギーを効率よく生み出すために奮闘中です。

 もともとバイオマスの研究は農学・工学の両方で行っており、両者の相乗効果が本学の強みです。今、できないことも明確にして「正直バイオマス」をモットーに研究しています

使って!この授業・この制度

 研究拠点のプロジェクトは「オール農工大」で取り組んでいるので、参加した教員が適宜、得た知識をフィードバックすることで、バイオマスや地球温暖化に興味を持つ学生の期待に応えています。同プロジェクトに関する学生向けの勉強会も始まり、福島県で稲を植えて研究に役立てている学生もいます。

 また、以前からカリフォルニア大学デービス校(米国)、コーネル大学(米国)やミュンヘン工科大学(ドイツ)と共同でバイオテクノロジー関連のワークショップを開催し、学生も参加しています。そうした機会を活かすのも良いと考えています。

学生(卒業生)の声

稲収量予測モデルで温暖化対策

宮下大輝さん(大学院農学府 農学専攻 生物生産科学コース 生物生産科学プログラム 修士1年)

宮下大輝さん(大学院農学府 農学専攻 生物生産科学コース 生物生産科学プログラム 修士1年)

 もともと生物が好きで、農業を学べば地方再生や流通といった社会課題の解決にもつながると思い、茨城大学農学部から本学の大学院に進みました。気候変動についても、大学在学時から身近な課題と捉えて、解決に貢献したいと思っていました。

福島県で水田のあぜ道の雑草を刈る

福島県で水田のあぜ道の雑草を刈る

 現在は、細胞中の遺伝子発現の情報である「トランスクリプトーム」を使ったバイオマス予測モデルの改良と検証の研究をしています。良食味米のコシヒカリと、高温耐性・多収のタカナリを掛け合わせた100種近い系統を育てて、それらの光合成や草丈を測定しています。農工大は圃場が大学の敷地内にあるので、行き帰りの際や講義の合間に植物の様子を見られます。研究設備も充実しているし、先生方からも丁寧で質の高い指導を受けられます。

稲の遺伝子発現量を分析するため葉を採取

稲の遺伝子発現量を分析するため葉を採取

 地球温暖化の影響が強い地域で味が良く、収量も多い稲が生産できれば、食糧問題の解決につながるでしょう。また福島県の農家とも協力しており、稲の残渣からプラスチックを生み出すなどカーボンニュートラルを意識した構想もあります。東南アジアや中国の留学生も刺激を与えてくれます。

学校データ

・名称:東京農工大学|炭素循環型社会実現のためのバイオエコノミーイノベーション研究拠点
・取得可能な学位:なし
・所在地:〒184-8588東京都小金井市中町2-24-16
・Tel:042-388-7008
・Mail:tuat_coi-next-groups@go.tuat.ac.jp

 

『国際協力キャリアガイド22-23』掲載

(本内容は、取材当時の情報です)

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