日本海に面し、誰もが知る砂丘を有する鳥取県。東部に位置する鳥取砂丘は、今でこそ観光名所として知られているが、かつては「不毛の地」とされ、農業が営める地ではなかった。そこで戦後、砂丘地を農業に利用しようと立ち上がったのが鳥取大学だ。地域の農家と協力して、砂丘地の農業開発研究を続け、スイカなど鳥取を代表する農産物を次々に生み出してきた。
地域の課題を地域の人々と共に考え解決し、その過程で得られた知見を広く社会に発信していく伝統は、今も学内に脈々と受け継がれている。特に砂防造林や砂丘農業の研究は、地域課題の解決や科学の発展だけでなく、世界の乾燥地へと拡大。学内に乾燥地研究センター、国際乾燥地研究教育機構を設立し、大学挙げて海外の乾燥地の問題解決に大きく貢献している。
2017年、持続性社会創生科学研究科に「国際乾燥地科学専攻」が設置された。鳥取大学のレガシーである乾燥地研究を背景に、地球規模の課題解決に貢献する人材の養成を目指す。
カリキュラムは、土地管理、環境保全、灌漑、排水、気象、医学など、乾燥地の農業や持続可能な社会づくりのために必要な幅広い専門領域からなる。
また、世界の第一線で活躍する研究者による講義「トップサイエンティスト・レクチャ」を通じて、より高度で実践的な知識を修得する。
日本語で学べるコースと英語で行われるコースがあり、留学生と日本人が学び合う場面も多い。多国籍の研究者が集い、データの分析や実験を行う「ラボワーク」や現地調査を通じて、多様な文化や生活に触れるチャンスもある。
先生に聞きました!
国際乾燥地科学専攻長・乾燥地研究センター長・教授
山中 典和先生
緑化学分野(乾燥地における植物の生態学と生態系の修復)を専門とする。
地球の陸地の約4割は乾燥地です。その乾燥地で20億人が暮らしていることをご存じでしょうか。乾燥地の問題は、一見日本とは縁遠いように感じますが、エネルギー資源や食料などを海外に依存する日本にとって、他人事ではありません。国連砂漠化対処条約批准国としての貢献も求められています。
このため、鳥取大学では乾燥地科学分野で国際的に活躍できる人材の育成に力を入れています。修士2年生を対象にした海外フィールドワークである「海外実践演習」では、モロッコにある国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)の研究プラットフォームで持続的な農業などについて学習します。さらに、「鳥取大学インターナショナル・トレーニング・プログラム(TU-ITP)」では、提携する海外の研究機関で、約2週間講義を受講し、その後約9カ月かけて野外調査や論文作成を行います。派遣先は、中国科学院西北生態環境資源研究院(NIEER)やイタリアのバーリ地中海農業研究所(CIHEAM)など六つの研究機関。TU-ITPに参加した学生たちは、異文化のなかで、研究者としても、人間としても、大きく成長します。
私は、中国・黄土高原やモンゴルなど主に東アジアの乾燥地に適した樹木や植物を植えて生態系を修復し、地域に緑を取り戻す仕事を続けてきました。激しい気温差や、時には砂嵐が襲うこともある乾燥地での研究は容易ではありませんが、研究者の好奇心と問題の解決が一致した時の充実感は、他では味わえません。
乾燥地の現状と植生を把握するための調査は、長い年月をかけてコツコツと積み重ねていくものですが、世界が抱える課題の解決に挑戦するダイナミックな仕事です。ぜひ日本の学生にも世界に挑んでほしい。
鳥取大学では、海外調査をはじめ、学会発表や実験器具の整備、英文論文の校正などをサポートし、経済的な心配をしなくても研究に専念できるような環境を整えています。
学生さんに聞きました!
連合農学研究科博士課程 国際乾燥地科学専攻 国際乾燥地科学連合講座2年(取材当時) 松永 幸子さん
高校生の頃から世界の食糧問題に関心があり、鳥取大学農学部を経て修士課程では国際乾燥地科学専攻、博士後期課程では大学院連合農学研究科に進学しました。現在、高温乾燥地帯でのコムギの開発について研究しています。世界的に珍しい砂の圃ほ 場じょうや最先端の機械を活用しながら、研究に集中できる環境が魅力です。
研究の経過や成果を学会で発表する機会が多く、2019年の中国地域育種学談話会では、優秀発表賞を受賞しました。修士課程では授業の一環でモロッコを訪れたり、世界各国の留学生と日々議論したり、国際色豊かなキャンパスに身を置き、英語でのコミュニケーションも臆することなくできるようになってきました。また、フィールドワークで2週間、スーダン農業研究機構に派遣された際には、現地の人々と一緒にコムギを育成し、チームで研究を進める面白さも実感できました。将来は、国際機関で働くことも視野に入れつつ、世界の食糧問題の解決に貢献できるような研究者になりたいです。
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