日本財団 連載第14回 
ソーシャルイノベーションの明日 

写真:少数民族地域カレン州トリポキ村で行った食糧配給

 

国や企業では出来ない大胆な戦略を ―ミャンマー平和構築支援から見る第3セクターの国際協力

 

繊細な領域で存在意義を発揮

 第3セクターとは、以前は民法第34条に規定され、現在は公益法人制度改革関連3法と特定非営利活動促進法を根拠として設立されている非営利団体を指す。つまりは、公益的な目的のために活動する“公益民間非営利セクター”のことである。社団、財団、NPOや市民団体などがそれにあたり、公益財団法人日本財団もここに属している。

 第1セクターである国・政府は、国益を代表する役割を担う一方、急な変化への対応が出来ず、大胆な発想力や行動力、リスクを伴う先進的な活動が難しい。第2セクターである企業などの民間営利セクターは、独自の発想で機動的な動きが可能であるものの、営利を伴わない、もしくはリスクの高い革新的な活動はしにくい。

 その点、第3セクターには国のような制約はなく、営利を目的とする必要もない。このため、先進的な活動に対してより柔軟かつ素早く対応でき、公益性の高い活動やリスクの高い革新的で大胆な活動に向いている。特に国際的な問題において、人権や民族、難民問題のような、国が主体となりにくい繊細な領域に対しては、利用するチャネル、発想と対応の柔軟性、行動の機動性など非常に優位な存在意義を発揮し得る。多様化した現代社会では、常に新しいアプローチが必要であり、その機能の一端を担う事が第3セクターの使命である。斬新な政策提言や革新的な事業を実施し国や社会に影響を与えうる存在であり、それは単純に人道的な活動を行うという事を超え、非常に意義のある事だと思っている。

 先進国、特に欧米諸国では、第1セクターだけでなく、第2・第3セクター含めたさまざまな主体が国境や民族の壁を越え、グローバルな活動を展開している。その一方で、市場経済・民主政治の面で発展途上の段階にある国々では、依然として第1セクターのみが主要な行動主体となっていることが多く、そこに国際協力において包括的な動きが可能な第3セクターの活動が求められる。

 このセクターに属する活動主体は、従来の国家間による支援活動に留まらず、人道的観点において国家や民族の壁を超えた世界的な活動を展開する可能性を秘めており、現在の国際課題を包括的に解決に導く重要な役割を担っている。

復興支援を通じて武装勢力に和平モデルを提示

 国際協力における第3セクターの役割を示す事例の一つとして、私が現在携わっている日本財団のミャンマーにおける平和構築支援事業がある(本誌2018年4月号で関連記事を掲載)。2011年の民政移管以降、同国では民主化・経済自由化・国民和解を中心とした改革が推し進められており、中でも70年近く続いているミャンマー政府と少数民族武装勢力との紛争の終結は、政府にとって最重要課題の一つとなっている。一刻も早い全土停戦に向けて武装勢力と協議を続けており、2015年10月15日、武装勢力主要21グループのうち8グループと全土停戦協定が締結された。18年2月13日には、新たに2グループが協定に応じたものの、紛争が長引く中で深まった両者の間にある不信感は簡単には拭えず、依然として停戦・和平交渉は難航している。そうした中、紛争被害者はミャンマー国内だけでも80万人を超えると見られており、その多くは住んでいた場所を追われ、避難を繰り返す生活を余儀なくされている。彼らは生活の糧を得る事も難しい過酷な状況にあり、十分な支援は行き届いていない。

 日本財団は、欧米諸国がミャンマーに対する経済制裁を実施していた間も40年以上にわたり保健、教育などの分野で支援を行ってきた。その実績と信頼を背景に、政府と武装勢力双方からの要請を受け、ミャンマー国軍も含めた3者からの信頼の下、平和構築支援事業を進めている。活動の柱は、政府と少数民族武装勢力との間の信頼醸成、紛争被害者支援、ミャンマー国軍に対する文民統制への理解促進の3つだ。内政干渉は避け、現地からの要請に基づいて対話の場を提供し、長期的な当事者間の信頼関係を促進する事によって和平の進展を図っている。

 政府・軍・武装勢力が絡み合う一国の内紛問題は、外交の枠では仲裁が難しい。長期的な視野における当事者間の信頼関係の醸成という試みも、日本政府ましてや企業が行うのは難しいだろう。国益や営利に左右されず、情勢を俯瞰し、ミャンマーの人々の民族の壁を越えた協議を長きにわたり見守り、彼らの意思で復興を成し遂げるという民主的な和平プロセスを支えるこの支援は、第3セクターである日本財団だからこそ可能だったと言える。

 時として武力衝突も起こり得る少数民族地域での紛争被害者を支援するのも、国ではできない第3セクターならではの活動だ。さらに、われわれは停戦合意後の地域において食糧支援や再定住環境整備といった復興支援を実施し和平の恩恵を届けることで、停戦合意前の少数民族武装勢力に対し和平のモデルケースを示し、全土停戦、ひいては和平の達成をも目指している。こうした新しいアプローチこそ、第3セクターによる国際協力の真骨頂だと言える。とはいえ、第3セクターはあくまで補完的な役割であり、繰り返し同じ課題に取り組み続けるものではない。第3セクターが示した試みやモデルを国や企業が引継ぎ、取り入れることで、より抜本的な解決に繋がり、成果を最大化できるのである。

 ミャンマーが和平に向けて動き出している今、日本財団は第3セクターとしての役割を全うし、今後も活動を続けていく。これまで支援が届かなかったすべての場所へ和平の果実が届く日が、そう遠くない将来に訪れることを信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

profile

日本財団  国際事業部 国際協力チーム   緒方 敬氏

 民間企業に勤務した後、青年海外協力隊員としてナミビアへ赴任。帰国後、広島平和構築人材育成センター勤務、英マンチェスター大学院留学を経て、NPO法人国境なき医師団で紛争被害者への人道支援活動に従事。ヨルダン、ナイジェリア、マラウイでは現地でプロジェクト管理に携わる。2016年8月に日本財団へ入会。国際事業部にてミャンマー平和構築支援事業を担当

『国際開発ジャーナル』2018年10月号掲載

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