日本財団 連載第16回 
ソーシャルイノベーションの明日 

写真:パラオの広大な海と島々。違法操業などの課題が山積みとなっている

 

太平洋島嶼国の持続可能な開発を ―ミクロネシア3国の海上保安能力を強化する

 

違法操業と観光客が急増する海

 北太平洋の真ん中、ミクロネシア地域に浮かぶ3つの小さな島国、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島。国土はそれぞれ488㎢(屋久島とほぼ同じ)、700㎢、180㎢ほどしかない。一方、領海から200海里までの海域を指し、沿岸国に管轄権などが認められている排他的経済水域(EEZ)は、3カ国合わせて約560万㎢に及ぶ。これは、世界で6番目の広さを誇る日本のEEZ(約450万㎢)よりも広い。

 この海域は、日本人も食するキハダマグロやカツオなどの好漁場として知られ、これらの魚種に限れば世界の漁獲量の実に60%近くが捕獲されている。豊かな水産資源が現地の人々の食卓を潤し、この海域に訪れる外国漁船の入漁料は観光収入と並ぶ国の貴重な財源だ。外国漁船の数は近年、世界的な人口の増加、より良質な水産資源を求める国際的な需要の高まり、捕獲技術の進展や船の大型化、流通販路のグローバル化などが相まって、急増している。

 それに伴い深刻化しているのが、「違法・無報告・無規制(IUU)漁業」の横行だ。世界では、IUUによる経済的な損失が最大23億米ドルに上ると言われている。そうした中で、世界の海では水産資源の約9割が限界近く、あるいは枯渇状態で捕獲されているという。こうした状況は、ミクロネシア地域の海も例外ではない。

 にもかかわらず、この海域を管理する体制はあまりにも脆弱だ。日本周辺の海は、船艇や人員の数を含め世界有数の組織規模を誇る海上保安庁が常に守ってくれている。しかし、それよりも広大なミクロネシア地域の海は、10人ほどの職員が1、2隻の小型船で監視している程度だ。

 また、IUU漁業だけでなく、中国人を中心とした外国人観光客の増加も、近年は海洋環境の保護において大きな課題となっている。パラオでは、この10年間で観光客の数が約3倍の15万人に膨れ上がり、ホテルが相次いで建設され、ごみの量も増加した。だが、ごみや汚水を処理する施設の整備は追い付いていない。さらに、気候変動の影響も加わり、海洋環境は大きく変化しつつあり、サンゴ礁などの生態系の維持も危ぶまれている。

巡視船の供与から燃料費の補助まで

 島嶼国として持続可能な発展を促していくためにはどうすべきか。一つの方策として、マーシャル諸島のリトクワ・トメイン大統領は2008年4月、日本財団の笹川陽平会長にパラオとミクロネシア連邦を含む3カ国を対象とした海上保安能力の強化に向けた支援を要請した。これを受け、日本財団は(公財)笹川平和財団と「ミクロネシア3国に対する海上保安能力強化支援プロジェクト」(総支援額:約47億8,000万円)を開始した。

 この3国は、海洋の地政学上、重要な地域に位置する。このため米国やオーストラリアは長年にわたりこれらの国を支援しており、特に豪政府は1980年代、3国を含む太平洋島嶼国の海上保安・監視能力を向上させるためのPacific Patrol BoatProgramを開始し、中型巡視船の供与や監視・取り締まりに関する人材育成などを幅広く手がけているという。

 そこで、日本財団と笹川平和財団は2010年3月、米・豪の両政府に日本政府も加えた3カ国とミクロネシア3国の計6カ国を招き、官民共同会議をパラオで開催した。会議では、日本財団による支援の具体策について討議や意見交換を行い、合意した。これにより、12年以降、環礁などの浅瀬が多い島嶼国ならではの沿岸でも監視・取り締まりができるようにするための小型パトロール艇の供与や乗組員に対する人材育成、衛星通信装置の整備、さらには小型艇の燃料費や通信費の補助まで総合的に支援している。小型パトロール艇はすでにパラオに3隻、ミクロネシア連邦に1隻、マーシャル諸島に2隻供与された。

 他方、先述の外国人観光客の増加に伴う問題を抱えるパラオには、より持続可能かつ総合的な支援が必要であるとの観点から、日本財団は2015年2月、パラオとの間で海上保安やエコツーリズムを柱とする「21世紀における日本―パラオ海洋アライアンスに向けた覚書」を締結した。翌16年2月には、この覚書に基づいた具体的な支援策が合意され、海上保安に関しては40m級の中型巡視船の供与やパラオ海上法令執行庁の新庁舎の建設、乗組員の人材育成が盛り込まれた。エコツーリズムに関しては、ホテル建設に対する陸地や沿岸水域の利用制限、有害物質やごみを制限するインフラ整備、エコツーリズム確立に向けた調査研究や人材育成が挙げられている。巡視船と新庁舎は、2018年2月に引渡し式が開かれ、式にはパラオのトミー・E・レメンゲサウ・Jr.大統領も臨席した。

カギは米豪含む国際連携と協調

 海の広さや問題の複雑さを考えると、一国のみで海の問題を解決できないのは自明の理だ。組織や分野、国の枠組みを超えた新たな連携や協調が必要だ。ミクロネシア3国に対する海上保安能力強化支援プロジェクトは、日本財団をはじめとする民間団体とミクロネシア3国の政府が中心となって、日米豪の政府といった多様なステークホルダーを巻き込みながら推進しており、国際的な海の問題の解決に取り組む先鋭的な連携事例であると言える。このプロジェクトを通じて多様な関係者が有機的につながることにより、島嶼国が直面する海の課題が効果的に解決される規範となることが期待されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

profile

日本財団  海洋事業部 海洋チーム   有川 孝氏

 海外人材育成事業など国際的な海洋問題に対する取り組みを中心に担当している。自身も人材育成事業の一つであるIML(I マルタ)で学んだフェローの一人。海上保安庁、民間の船会社を経て、2013年、日本財団の一員となる

『国際開発ジャーナル』2018年12月号掲載

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