途上国の現状見つめ
国際的視野を備える専門家目指す
SDGs達成を多彩な切り口で追求
東京女子医科大学は、女医の吉岡彌生氏が1900年に創立した「東京女医学校」を母体とし、医学・看護学教育を通じて女性の地位向上に貢献してきた。女子教育に特化した医科大学は、世界でも珍しい。
国際環境・熱帯医学講座は、93年に寄生虫学教室を改組する形で誕生した。近年は持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す国際的な視野を持った次世代リーダーの育成のため、社会学、開発学、経済学など医学に留まらない多彩な切り口で研究や教育を行う。学生も医師を志す者だけでなく、途上国支援に強い意欲を持っている者も多い。高校生の時からカンボジア、フィリピンなどでボランティア活動を行い、高い英語能力を備えた生徒もいる。
途上国や東京五輪にも活動を拡大
同講座で2016年から教鞭をとっている杉下智彦教授(講座主任)は、自身も中学生の時にエチオピアの大飢饉の報道を見て衝撃を受け、医師としてアフリカの人々を救うことを志した。1995年に青年海外協力隊としてマラウイに赴き、その後は国際協力機構(JICA)の専門家としてアフリカ諸国など世界20カ国以上で保健システムの構築・強化に尽力。その功績により2016年に「第44回医療功労賞」を授与されている。
同講座では、医学教育に社会課題解決手法や海外フィールド調査を取り入れて、次世代のリーダー養成を始めている。その理由として、杉下教授は「SDGs、特に地域保健に関する問題の解決を追求するには、学生自身が開発途上国の現状を見ることが不可欠」と語る。「座学だけでは途上国の本当の悲惨さはわからないし、医療の視点だけでも十分とは言えません。私は授業の一環で学生たちをラオスに連れて行くのですが、日本ではありえない深刻な貧困を目の当たりにして、ほとんどの学生がショックを受けます。現地の人から『助けて欲しい』と懇願されても戸惑うものですが、帰国後の学生は明らかに目の色が変わり、その後の学修に精を出します」。
また、学生たちは研究だけでなく、欧米の医科大学への交換留学や、来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて外国人の診療や通訳を行うNGO「チーム・メディックス」への参加を目指すなど、活動の幅を広げている。中には、1~2年次から春や夏の長期休暇を利用して途上国の医療支援プログラムに自主的に参加する学生もいるという。「日本の医科大学の中で、本学は最も国際協力に熱心と言っていいでしょう。途上国へ飛び出して現地の健康課題を解決したい、日本を訪れる外国人を治療したい、と切実に思う人の入学を待っています」と、杉下教授は期待を込めて強調した。
※グローバル化の時代、大学・大学院など高等教育の現場でも国際化が進んでいます。このコーナーでは、アジアをはじめ世界とのさまざまな「知的交流」に向けた取り組みや国際協力を学べる大学を紹介します。情報提供お待ちしています。
『国際開発ジャーナル2019年10月号』掲載
(本内容は、取材当時の情報です)