海外への開放性と融通性高めて交換留学生獲得を促進
106科目の英語化を実現
1875年に森有礼が開設した商法講習所を起源とし、著名な政治家や経済人を多く輩出してきた一橋大学。今なお社会科学系における国内最高峰の大学として大きな存在感を誇っている。
国際化に関しても、2005年にオーストラリアでの1カ月の研修プログラムを立ち上げたのを皮切りに、これまで多様な取り組みを進めてきた。特に近年、注力しているのが、交換留学生の増加を狙い、英語で学べる科目と初級日本語科目を充実させた「Hitotsubashi University Global Education Program(HGP)」である。
同プログラムが始まった2010年以前は、一橋大学の講義はほぼすべて日本語で行われていたため、中級以上の日本語を習得した留学生でなければ、受け入れができなかった。しかし、グローバル化の進展による国際共通語としての英語の存在感の高まりを受け、HGP創設後は、一定の英語力さえあれば受け入れ可能とした。そして、10年度には英語で受講できる授業を40科目設置。16年度にはこれを106科目にまで拡充した。
またHGPは、日本語科目の充実も図ることで、「日常会話ができればいい」から「上級レベルを身に付けたい」、「短期間で徹底的に学びたい」まで、交換留学生のさまざまなニーズに応えられる日本語の学習機会を提供している。
こうした取り組みが奏功し、09年度に47人だった協定校からの留学生は、16年度には140人近くに増え、協定校の数自体も、09年の20校から、16年には76校へと増加した。
グローバルスタンダードへの対応を
しかし、HGPを運営する国際教育センターの太田浩教授は、日本の大学の国際化の現状に危惧を抱いている。「アニメのようなソフトパワーから高度に整備されたインフラ施設まで、日本には独自の魅力が数多くあるが、海外の学生に日本で学ぶ機会を十分に提供できていない」とというのがその理由だ。
例えば近年、秋入学やクォーター制の導入といった学事暦の改革、カリキュラムを体系化するための科目ナンバリング制の導入などに取り組む大学が増えているが、実際これまでは日本特有の大学の制度や仕組みが海外との学生交流の大きな妨げとなってきた。太田教授は、「日本のように高等教育が成熟した国では、制度改変が難しいのは事実。だが、諸外国の教育との接続性を高めるため、大学のシステムをグローバルスタンダードに近付けるよう努力しつつ、海外に対する開放性や融通性を高めれば、留学生の受け入れ数の増加につながり、学内の多様性の向上が図れるはず」だと指摘する。
HGPを通して講義の英語化を図ることで、さらなるグローバル化対応の第一歩を踏み出した一橋大学。今後の展開が注目される。
『国際開発ジャーナル2016年11月号』掲載
(本内容は、取材当時の情報です)