NTCインターナショナル(株)代表取締役社長 森 卓氏
京都大学大学院 農学研究科(土壌肥料学専門)を卒業後、2000年から2年間、青年海外協力隊員としてチリで活動。
03年に(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナル(当時)に入社。05年、旧太陽コンサルタンツ(株)に移籍。19年2月から現職
NTCインターナショナル(株)の新社長に森卓氏が就任
今年2月1日付けで、農村開発と平和構築を主軸に開発コンサルティングサービスを手掛けるNTCインターナショナル(株)の新社長に森卓氏が就任した。森社長に、今後の会社像と経営方針について聞いた。(聞き手:本誌社長・末森満)
“仕事が楽しい”が第一
―まずは、経営に当たっての抱負を教えてください。
社員が、困難な業務の中でもやりがいや達成感を見出し、楽しいと思える組織を目指している。 私自身も駆け出しのコンサルタント時代、プロジェクトにのめり込んでいた経験がある。パラグアイへの円借款に対する案件実施支援調査に参画した際のことだ。小・中規模農家の生産基盤強化の支援や設備投資の資金を供与する大規模な円借款だったが、期待通りに進行せず、調査団として知恵を絞ってプロジェクトの再生策を練った。
あれから14年、現在統括を務める国際協力機構(JICA)のパラグアイ開発調査案件で、再び当時のカウンターパートと協働することになろうとは夢にも思わなかった。わが社の社員にもこうした仕事の魅力を体験してもらいたい。このほか、ボランティアスピリットを大切にする組織にもしていきたい。社員の約3割が青年海外協力隊OBということもあり、対価ありきではなく、探究心・好奇心を原動力とする精神を大事にしたい。
事業の多角化が必至
―どのような事業に注力していきますか。
当社は地域開発・コミュニティー開発、農村開発、水資源・灌漑開発、平和構築・復興支援、行政組織強化、人材育成(研修)の6分野の開発コンサルティング事業を展開している。このうち、農村開発分野では創設以来、ハード・ソフトともに実績を重ね、特にアフリカ地域への協力で知名度も獲得してきたと自負している。また、平和構築については他社に先駆けて同分野に特化した部署を創設し、人材・ノウハウを蓄積してきた。この2分野を当社の両輪とし、付随して地方行政サービス向上や国内研修事業などに取り組んでいく。
―第7 回アフリカ開発会議(TICAD7)にも参加されますね。
中国を筆頭に、アフリカ支援を強化する国が増えている今日、アフリカ諸国にとってTICADは数あるフォーラムの一つに過ぎない。だからこそ、TICADでは日本の支援の優位性を発信することが重要だ。現地社会に長期的に貢献し、人々に日本の活動を理解・評価してもらう。その成功を支えるプレーヤーとしての一翼を担いたい。
―民間資金が開発に果たす役割が増しています。
民間企業向けに開発途上国へのビジネス展開を支援するコンサルティング事業を拡大していきたいと考えている。ただ、現地の情報に対する需要がある反面、企業独自のルートでお金をかけずにある程度の情報収集が可能な場合も多く、現状は開拓中と言わざるを得ない。コンサルティング業としてどう成立させていくかが課題だ。
―長期的には中進国・先進国向けの事業展開の可能性もありますか。
視野には入れているものの、具体化には至っていない。援助卒業間近の国々への支援は、殊に政府開発援助(ODA)の場合、賢い資金の使い方が求められる。南南協力や三角協力の側面支援はその一つの可能性だろう。私が2000年から青年海外協力隊として活動したチリでは既に、国際協力庁が自国の専門家を近隣諸国に派遣していた。そうした潮流にアンテナを張り、新たな支援の形を模索していく段階にきていると考える。
―経営面での展望を教えてください
当社が受注しているJICA業務は、技術協力プロジェクト業務、調査業務、無償資金協力の設計業務の3種。有償資金協力のコンサルティングサービスは、ここ10年実績がない。有償資金協力は事業スパンが比較的長く、経営の安定性確保につながるため、受注を復活させたいところだ。
ただ、資金ショート問題以降、新規発注が滞っているため、手持ち業務が終了すれば経営の綱渡りは免れず、他社も含め、真の影響は今年度以降、降りかかってくると考えている。専門家やボランティアも然り、我々のような現場で活動する黒子なしにODAは成り立たない。にもかかわらず、“やればやるほど赤字”で撤退を余儀なくされる状況では業界の未来はどうなってしまうのか。折に触れて問題提起していく必要がある。この荒波に耐えるためには、ODA/JICA業務の一辺倒を見直し、事業の多角化を図ることが不可欠だ。その難しさも重々承知している。これからが正念場だ。
多様性に富んだ人材を拡充
―採用・人材育成の方針は。
開発コンサルティング企業にとって、人材は唯一かつ最大の資源だ。当社では毎年、新卒も若干名ずつ採用しているが、「即戦力」と「若手育成」のジレンマがある。経験の浅い若手社員は、業務を通じて技術力を身に付けていくものであり、受注への貢献という意味では必ずしも収益に直結しない。
ただ、これを問題視して採用をやめてしまえば、人材の空白ができるどころか、中堅社員がいつまでも若手の仕事を兼務しなければならない状況をも生んでしまう。こうした背景から、国内業務を扱うグループ会社と連携して、当社の若手社員に国内で経験を積む機会を提供する育成プログラムを開始している。社員が身に付けるべきエンジニアリングの基礎技術は国内・国外を問わず共通であるためだ。現在は試験的な実施の段階だが、今後制度化していきたい。
―御社は厚生労働省の女性活躍推進企業認定も受けていますね。
現在、社員の男女比は約2対1で、もちろん性別による採用人数の設定もない。インフラ事業が国際協力の中心だった時代は、概して女性には縁遠い業界と考えられてきたが、支援分野の広がりとともにそれも過去の認識となった。特に農村のコミュニティーに入っていくことが求められる業務における女性コンサルタントの活躍は目覚ましい。対象地への理解と人々との信頼関係に裏打ちされた活動を展開するために、現地の文化や言語を学び、コミュニティーに溶け込もうとする努力には脱帽させられる。女性がライフイベントを理由に仕事を諦めざるを得ないことのないよう、引き続き社内制度を整えていく。
人材の多様性の広がりは組織の強みだ。近年は、従来の土木工学だけでなく、文化人類学に通じた人材などの採用も増え、女性の活躍と同様に、特にアフリカの農村や部族社会の残る地域での活動の助けとなっている。また、外国籍の社員が複数名活躍している他、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」で留学中のインターン生も積極的に受け入れている。
こうした中、若手が臆せずに意見できる環境があったからこそ、私も心から仕事を楽しめた。その風土と併せて、もう一つ大切にしたいことがある。それは、われわれの最終的なクライアントは業務発注者の先にいる途上国の住民であるということだ。常にその意識を胸にまい進していく。
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