「産業」としての認知と拡大を

 
  

開発コンサルティング業界、その危機の本質は何か

  
 
(株)パデコ代表取締役社長/CEO 本村 雄一郎氏に聞く
国際協力事業の最前線を支える開発コンサルティング業界。その経営環境は一段と厳しさを増しており、業界を去る技術者も後を絶たない。(一社)海外コンサルタンツ協会(ECFA)の会長経験もあり、ソフトとハードの一貫実施に努める(株)パデコの本村雄一郎社長に業界が抱える“危機の本質”を聞いた。(聞き手:本誌・和泉 隆一)

 

波及効果の大きい“頭脳産業”

―平成の時代が始まる頃から、開発コンサルタントが担う重要な役割に認識が深まり、その社会的ステータスも高まっていくはずだと多くの関係者は見ていた。令和という新しい時代が始まったが、開発コンサルタントを取り巻く環境は一段と厳しさを増しており、その社会的位置づけはむしろ“退行”しているような感じを受ける。何故でしょうか。

本村:開発コンサルタント、あるいは開発コンサルティング業界というものが、今だ「産業」として認知されていないことが最大の問題だ。公共事業は、幕藩体制時代より官庁が直接実施にあたり、その意識が基本的な枠組みを作った。その後、徐々に民間に委嘱されるようになってきたものの、その位置付けはあくまでも“お手伝い”。国内よりも厳しい条件である開発途上国で展開される政府開発援助(ODA)にしても、現場の最前線で仕事をしているのは開発コンサルティング会社であるにもかかわらず、その名前すらほとんど出てこない。
 それは何故か。お手伝いを表に出すという意識が、そもそも国にも社会にもないからだ。要するに「産業」として認知されていないのである。しかし、国としてこの意識は変える必要があると思う。私たち開発コンサルタントの仕事は波及効果が大きく、しかも“頭脳産業”であるという特性を持っている。日本がこれから生き残っていく鍵は、まさに頭脳にしかない。その重要な一翼を担う開発コンサルティング業界を「産業」として認知しないということは、日本国の将来にとっても決して良いことではないだろう。

―海外の実力コンサルタントとの格差も拡大する一方にある。

 本村:2018年度の財務省予算執行調査では「日本のコンサルタントは高い」との指摘があったが、それは20年も前のバブルの頃の話だ。今や日本の開発コンサルタントの賃金は明らかに低い。本来なら、低賃金であることが競争力を高め、比較優位の要件になるはずなのだが、現実はそれすら適わない。低賃金、かつ高コストという二重苦に見舞われているのが開発コンサルティング業界と言えるだろう。これでは海外コンサルタント会社との格差はますます広がるばかりだ。
 ただ、この低賃金・高コストはコンサルティング業界だけの話ではなく、日本全体の問題である。日本全体の賃金水準は他の先進国に比べ、かなり低い状況になってしまっており、低賃金・高コストの悪循環が全体を覆ってしまっている。

 

ODA依存体質からの脱却を

―「産業」として認知させるためには、開発コンサルタント側自らも大きく変わっていく必要がありますね。

本村:くり返しになるが、開発コンサルティング業界は日本の将来にとって欠かせない頭脳産業であり、かつ波及効果の高い産業であることを国は真剣に考えるべきだし、開発コンサルタント側もそういう意識を持って取り組んでいかなければならない。
 まず、これまでの“ODA依存”体質から脱却していかなければ「産業」として認知されることはないだろう。世界のコンサルティング市場を見てみると、計画から最後の運転・運営まで一貫して実施して下さい、という大型発注が増えている。しかも、スピード感をもってやってもらいたい、と。その背景には経済成長のテンポがある。かつて1~2%だった途上諸国の経済成長率は、いまでは5%以上も珍しくない。一昔前とは成長のテンポが全然違う。
 成長のテンポが早いということは何を意味するのか。やらないことによる、あるいは遅れることによる利益の機会損失が大きいということだ。極論すると、多少質は悪くても早くやってしまわないと、遅れることによる損失の方が大きくなってしまう。伝統的な方式で細かい手続きを踏みながら、ゆっくりやっていた時代とは全然違う局面に入っていることを認識するべきだ。意思決定部門を含めて、どうやったら迅速化できるのか。実は、その部分を担っていくのも開発コンサルタントの本来の役割なのだ。迅速化に加え、工事遅延が少なく、完工後直近の運転も事故や故障による損失が低く、結局は利益が高いことを示すべきだ。

―脱ODA、ODA依存からの脱却というテーマは、実は古くから問題意識としてあったと思います。開発コンサルティング会社の多くの経営者も「脱ODA」を以前から口にしていた。口では言うものの、経営実態に大きな変化は見られなかった。

本村:ODA依存から脱却しようとする時、主要なターゲット市場とされるのが国内外の民間部門だ。しかし、民間は本来、ブランド志向が強く、実績が豊富で市場に認められているところに発注する。民間にはじっくり時間をかけて発注先を選んでいる余裕はないからだ。ODA依存で仕事をしてきたから、そもそもブランドは確立できていないし、“さあ、次は民間だ”と言っても簡単に道を切り拓くことはできない。お客さんが買ってくれない以上、商売は成り立たない。そうすると、マーケットメカニズムから離れた世界、すなわちODA方式に基づいた“生き残れる世界”で食い繋いでいくしかない。それでは、成長・発展は望めないだろう。したがって、開発コンサルタントは組織であれ、個人であれ、とにかく量の面でも質の面でも実績を積み上げ、それをお客さんに示していくしかない。これまでのODA経験を生かし、海外でのブランド力を高め、世界と戦っていくしかないだろう。この意識と実績が「産業」としての認知にもつながっていくはずだ。

 

世界市場で戦う

―パデコ社の中長期的な経営戦略についてお聞きしたい。

本村:当社も、とにかく実績を積み上げ、それをお客さんに示していくしかない。先ごろ、中期計画を策定したが、厳しい経営環境を踏まえて手堅い計画にした。方向としては、ODA依存からの脱却をさらに進め、新しい世界を目指していく。パデコは国内の認知度は低いが、世界ではブランド力はある。それをテコに民間部門にも国際機関にも積極的に取り組んでいく考えだ。
 こうした取り組みの中でさらにブランド力を高め、世界市場で戦う開発コンサルティング企業を目指していく。海外での認知は国内にも波及し、業界全体にも良いインパクトを与えるはずである。

 

『国際開発ジャーナル』2019年7月号掲載

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