<無償資金協力>
首都郊外の人口集中地域に母子保健の拠点を建設
スーダン
ハルツーム州郊外保健サービス改善計画
コンサルティング:コーエイリサーチ&コンサルティング
設計事業部 次長 西山謙太郎氏
本プロジェクトは、30数年ぶりのスーダンにおける建築分野の援助案件として実施された。
2018年11月に現地で開かれた施設の引き渡し式から戻ったばかりのプロジェクト業務主任、西山謙太郎氏に話を聞いた。
―まずはプロジェクトの内容についてお聞かせください。
西山:ウンバダというハルツーム州の中で最も人口が多いローカリティ(郡)で、2階建ての母子保健病院を建設しました。病院として適切な環境の下、産後検診からから分娩、手術、産後のケアまですべてを行えるもので、これら機能に応じて機材も納入しています(施設概要と納入された機材は別表を参照)。この施設は、医学生の研修にも活用される予定です。
ウンバダ郡には、220床を有する唯一の総合病院がありましたが、構造上の問題で建物が崩壊寸前となり運営を停止していました。このため2014年の現地調査時には、この地域に総合病院が一つもありませんでした。当郡の年間分娩数は約45000件と推測され、医療施設で安全に分娩することが求められる中、産科を診る病院が一つもないのですから、母子保健病院の建設は最優先の緊急課題でした。
―産科病院としてはどのようなレベルになりますか。
西山:第二次医療施設という位置づけですが、手術室や集中ケアの出来る新生児室を有し、年間5000分娩に対応できますので、日本なら断然全国一の規模です。隣郡のオンドゥルマンには国トップの母子病院があるのですが、そこでは年間3万6000人の赤ちゃんが生まれます。
1日約100人。すごいですよね。
また、現地からは「日本が造る清潔感のある、他と比べて質の高い病院にしてほしい」という期待を受けていましたので、それも心掛けています。ハルツームの住民は「少し遠くてもより整備された信頼できる病院で出産したい」と病院を選択するのが普通です。また、医者もいい環境で仕事ができた方が意欲が増しより長く働いてくれる可能性もあります。ですので、患者にとってだけでなく、医療従事者にとっても、「魅力ある病院」であるというのは大事なことです。
―そのための設計や施行の段階で留意したことはありますか。
西山:妊婦のための病院という事で、段差のないバリアフリーとし、かつ検診や出産は1階の平面移動でアクセスできるよう安全性に配慮しています。また、医療従事者も患者もほぼ女性であることから、女性のための控室や便所など十分なスペースを確保しています。さらに高温で乾燥し砂ぼこりの多い気候に対して、維持管理コストの少ない外壁の仕上げを行い、待合スペースでは通風ブロックを用いた自然換気を採用しています。
医療機器は、スーダン側保健省や現地の医療従事者が望んだこともでもありますが、ほとんど日本製です。日本の機材に対する信頼性は非常に高く、37年ほど前に日本の無償資金協力で整備されたイブン・シーナ病院では、当時の機材を今でも大事に使い続けています。当時は施設資材もかなり日本製品を採用しており、建具などは全く壊れていない。丈夫であるべきところは、日本や欧州の質の良い材料を使うべきだと思いました。
―このプロジェクトの意義はどこにあるでしょうか。
西山:ハルツーム州全体の分娩需要の25%を占めるウンバダ郡に、近代的な母子病院施設が出来たことで、州全体の母子保健医療サービスの範囲拡大と質が底上げされ、他地域の病院混雑の緩和など地域格差改善につながっていくことが期待されます。
『国際開発ジャーナル』2019年2月号掲載
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