アイ・シー・ネット 代表取締役社長 百田 顕児氏
早稲田大学法学部を卒業後、シンクタンクでODA事業に従事。2004年にアイ・シー・ネットに入社。
コンサルティング事業部 マネージャー、コンサルティング事業本部ODA事業部 部長、副社長を歴任後、19年4月から現職
アイ・シー・ネット(株)の新社長に百田顕児氏が就任
4月1日付けで、アイ・シー・ネット(株)の新社長に百田顕児氏が就任した。
同社はソフト系の開発コンサルティングや人材育成など、多岐にわたる事業を展開している。百田社長が描く会社像と今後の事業展開について聞いた。(聞き手:本誌社長・末森満)
次のステップへの正念場
―まずは、経営にあたっての抱負を教えてください。
この度、5代目の代表取締役を拝命した。昨今は国際協力機構(JICA)の予算問題の影響で、どうしても開発コンサルティング業界全体が縮み思考になっている。当社は今後も既存の政府開発援助(ODA)事業をベースにするものの、10年~20年先の成長を見据え、事業展開をどうするのか、模索しているところだ。開発途上国での事業では、ODA事業を受託するだけではなく、開発途上国における社会課題の解決案を自ら提案し、ステークホルダーを巻き込む形での取り組みを重視していくつもりだ。
他方、日本国内に目を向けると、地方創生という課題もあれば、急速に進む外国人人材の流入という現実がある。外国人人材は労働力不足を補う存在としか見られていない現状があるが、本来は日本人労働者と同様の研修・待遇を提供し、日本社会に統合させるような取り組みが必要であるはずだ。
こうした日本の地域コミュニティーと外国人労働者との共生といった課題には、これまで文化の異なるさまざまな国で事業展開してきた当社の経験をそのまま生かすことができるはずだ。例えば、当社はトルコのシリア難民やバングラデシュのロヒンギャ難民問題で、ホストコミュニティーと難民の共生を目的としたワークショップを開催しており、こうした事業地での経験・知見は日本国内でも生かせるだろう。国内事業で培ってきた地方自治体や企業とのネットワークを生かして、取り組んでいきたい。現在、ODA事業とその他事業の売上比率は8:2であるが、今後5年間でODA事業のボリュームは増やしつつ、比率を7:3にすることが目標だ。
教育機関向けの事業展開も
―スタートアップ支援に積極的に取り組んでいますね。
スタートアップに関連した事業として、(1)経済産業省の「飛びだせJapan!」、(2)農林水産省の「INACOME」(イナカム)、(3)当社主催のビジネスコンテスト、の3つに取り組んでいる。(3)は、グローバル人材育成の“場づくり”としての意識も強く、社会起業家向けと高校生向けコンテストの2本立てとなっている。特に最近は、高校生向けコンテストの反響が大きい。
このコンテストは、文部科学省の「スーパーグローバルハイスクール」に指定されていた高校などが、「夢を持った考え方ができる人材を育てたい」と考えていたことに応えて始めたものだ。いわゆるバックキャスティング思考を取り入れたワークショップを行うことで、保守的、優等生的になりがちな高校生に改めて夢を持って取り組むことを考えてもらう契機になっており、良い影響を与えていると自負する。
当社としても、このようなコンテストをテコに、教育機関の学習プログラムの中に途上国の社会課題解決に関する授業を組み入れるようサポートするなど、複合的に事業を展開したいと考えている。
実際、学校が海外志向の人材を育てる際、途上国に関する教育を提供したくても、どこに依頼したら良いか分からず困っているという話はよく聞く。最近だと、ビジネスコンテストに参加したある高校から、社会課題解決型のワークショップを組み入れた修学旅行の企画を受託した。現在、企画準備中だ。
―持続可能な開発目標(SDGs)達成への取り組みも積極的に行っていると伺っています。
SDGsに関連した当社の取り組みは、大まかに(1)人材育成事業、(2)地方自治体との協働、(3)ODA事業、に分けられる。 (1)では、日本国内で実施するワークショップなどでSDGsを取り上げている。例えば、SDGsに紐付けて、ビジネスアイデアを出してもらうといった具合だ。
(2)ではSDGsの切り口で地方創生や地場産業の育成をしてもらおうと、コンサルティングサービスを提供している。地方自治体はSDGsに対する認知度が高くなく、具体的に政策に落としていく経験もあまりない。当社がアドバイスして、SDGsを政策に反映させていこうとしているところだ。
(3)は、SDGsのどの目標に該当するか考慮した上で取り組んでいる。だが、これは今となっては当たり前だ。今後は、今までの社会課題や持続的に取り組むべきことを整理し、事業展開に反映させていくつもりだ。
―ODA以外では、どのようなプロジェクトに携わっていますか。
世界銀行やアジア開発銀行(ADB)といった国際機関のプロジェクトも対象に、さらなる受注を目指している。過去半年だと、競争入札を経て、世界銀行から通商障壁に関するジェンダー問題調査の案件とミンダナオのアグリビジネス案件を受注した。ジェンダーなど、当社の知見がある事柄であれば、競争で負けないと自負している。
海外人材の確保も視野に
―人材確保の方針は。
売り上げを現在の30億円から50億円へと押し上げたい。それに伴って、社員数は現在の150人から200人程度にまで増加させる必要があると考えている。しかし、人材を日本国内だけで確保するのは限界に来ており、海外人材を採用して、グローバル企業への転換を考えないといけない時期に来ている。例えば、ビジネスコンテストを海外で実施して、優秀な参加者をリクルートする、当社の海外拠点を立ち上げる際に、立ち上げメンバーを募るコンテストを開催するのも一案だ。
今のODAコンサルティング業界は絶対的な待遇などでは他業種との比較優位性がない。この環境下で組織の求心力を高めるには、夢やビジョンなどをしっかり持って体現することが肝要となる。この点を意識した組織運営をしていきたい。
―これら事業計画を実施する上で、何か障壁はありますか。
JICAの予算執行問題の後遺症が残っている。経営環境に対する影響にとどまらず、開発業界を志す人に対しても、未来のない業界というネガティブなメッセージとなった実感がある。むしろ中長期のダメージはこれから来るのではないか。
もっと開発コンサルティング業界に人を集めるためにも、業界団体の会合や社長が集まる場などではもっと前向きで夢のある話を発信するべきだ。タフな環境で業務を行う開発業界で夢や思いの部分がなくなってしまうと、人が集まらず、開発業界の地盤沈下は免れない。
加えて、社会課題を解決したいという思いを、日々の仕事の中で常に振り返りながら仕事をしていかないと、新たな考えに基づいたビジネスなど不可能だ。私は夢・思いを当社の中で広めて、ビジョンとして体現し、業界全体の共通認識となるようにしていきたいと考えている。
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