コンサルタントの展望 vol.4
アルメックVPIのトップに聞く

(株)アルメックVPI 代表取締役 石本 潤氏
1972年、(株)アレアを設立。1991年、アレアの後身である(株)アルメックの代表取締役に就任し、(株)アルメックVPIへの商号変更後も現職。(一社)海外コンサルタンツ協会(ECFA)の副会長も務める

 

 
  

海外の企業・コンサルと連携促進へ 営業力や情報収集能力も強化

  
 
連載「コンサルタントの展望」は、開発コンサルティング企業のトップに今後の戦略をはじ め、政府開発援助(ODA)への展望を語ってもらうリレー連載だ。第四回目は、都市計画や交通計画で強みを持つ(株)アルメックVPIの代表取締役、石本潤氏に今後の事業展開の方向性を聞いた(聞き手:国際開発ジャーナル社 社長・末森 満)

 

高まる保守管理のニーズ

―政府開発援助(ODA)の現状をどう捉えていますか。

 開発コンサルティング企業にとって、ODAの位置付けが変わってきている。昔はODAだけで収益を上げていたが、今ではそうではなくなりつつある。しかしながら、ODAは国際社会において日本の存在意義を示す手段だ。ODA案件を手がける意義は大きい。 昨今の国際協力機構(JICA)の動きを見ていると、国益を重視し、開発途上国への配慮が二の次になっている感がある。一方で、現場で働く人たちは明らかに途上国益を考えている。当社としては、社益も必要だが、国益や途上国益とのバランスを取るのも会社の役割だと考えている。日本のODAは技術力をベースに世界に貢献すると言われてきたが、今後もこの“常識”が通用するかどうかは危うい。昨今は途上国や中進国においても、国際社会で活躍できるコンサルタントが育ち、技術力も向上している。われわれの技術力が中進国に劣ってしまうようでは事業が成り立たない。技術革新を続けることが必要だ。当社は国内外の都市・地域開発計画と各種交通計画を中心に政策立案から事業計画までを幅広く手掛けているが、この先は事業計画策定後の段階にまで踏み込んで事業を展開する必要があるだろう。例えば、最近、インフラの保守管理を手伝ってほしいとのニーズをよく耳にする。当社はソフト面を中心にやってきたが、現地政府や民間企業とのネットワークを生かして、運用・保守(O&M)をともに手掛ける案件は増えていくだろう。

 

企業の海外進出支援に注力

―受注先や顧客層に変化は。

 海外案件については、日本の民間企業からの受注が増えている。特に中小企業や中堅企業から、海外に進出したいとの声をよく聞く。彼らは海外展開を図らなくては生き残れないと考えているようだ。海外で継続的に事業に取り組むには、まとまった資金や人的資本の投下が必要となる。さらに現地政府や現地民間企業との直接契約だけで海外進出するのはリスクも伴う。当社としては、過去の経験と蓄積を生かしながら、海外進出を狙う企業をサポートする事業を積極的に手掛けていきたい。ただ昔と同じように、目の前の業務を頑張っていれば展望が開ける時代ではない。もっと言うと、JICAの案件だけで食べていく時代は終わった。新たなマーケットを自ら切り拓いていくことが喫緊の課題だ。それには技術力の向上のみならず、営業力や情報収集力も求められる。

―海外市場で、日本企業はスピード感に欠けるとの指摘があります。

 海外企業はアイデアがあれば即、自己資金で市場に出てくる。先行投資をしても、利権を得られればいずれ採算が取れるとの発想からだ。日本企業の課題は「計画段階でいかに資金を投入できるか」だ。スピード感を持って判断し、行動に移さないと国際競争に勝てない。また、日本企業は海外で事業をやりたいとなると、「まずはJICAで調査をしてくれないか」という発想をしがちだ。だが、近年はそもそもJICAによる開発調査があまりにも少なくなっており、日本企業は一歩を踏み出せていない。加えて、各プロジェクトが良い成果を生み出すには開発調査が重要だが、JICAは開発調査を省略し過ぎている。昔に比べて、短期間・低コストで同等以上の調査結果を出すことが可能になっているにもかかわらずだ。例えば、今はほぼすべての国がデータを蓄積している。それらを活用すれば調査をより効率化できる。もっとITやビッグデータを駆使すべきだろう。

―海外ではマニラとハノイに事務所と現地法人、ウランバードルに事務所を構えています。

 マニラとハノイに現地法人を設立したのは、以前より、現地の役所や企業から小規模な仕事を発注したいとの話を複数もらっていたからだ。現地法人化することで業務の受注が可能になり、海外政府ともコミュニケーションを密に取りやすくなった。現地法人はローカルの社員を主体として運営され、日本からはプロジェクトベースで人材を送り込む形を取っている。過去に手がけたODAの実績をベースに現地で新規事業を手掛けており、事務所の経費を十分カバーできる利益を生み出そうとしている。今後は現地政府や地方自治体だけではなく、海外の民間企業やコンサルタントとのネットワーク構築が重要だろう。国によっては、地元の開発コンサルタントとの協業や連携も必要だ。

 

JICAとの信頼回復が不可欠

―国際協力の現状と今後は。

  JICAに関して言えば、中央官庁の方ばかり見ながら動いているようにも思える。開発コンサルタントのことはあまり考えていないのではないかと懸念される。JICAと開発コンサルタントとの関係は、ここで一旦見直さなくては破綻する心配がある。 以前JICAは「開発コンサルタントはパートナーだ」と言っていた。だが今は、互いに信頼感が失われかけている。プロジェクトを実施しても、「契約書に書いていない」「契約書通りにやってない」と指摘し合う関係になっており、これでは良い成果を出せないだろう。これからはビジョンを共有し、同じ目標を目指す環境づくりが不可欠だ。そのためにも、まずは互いの信頼を取り戻すことが最優先だと考える。開発コンサルティング業界は、今まさに生き残りをかけた変革期を迎えているところだ。再編・統合が進み、ここ数年で業界の地図も変わっていくだろう。

―人材採用・育成面での課題は。

 会社を継続的に発展させていくためにも、世代交代を進めていかなくてはならない。ただ懸念されるのは、途上国での活動に情熱を持った人や「任せろ」と言う人が少ない点であるが、当社には次の会社を担う後継候補となる中堅社員も多くおり、新しい時代の開発コンサルタント会社を作っていくことを期待している。一方、業界のことを見ると、社会における認知度が低く、いかに高めていくかは課題である。当社は微力ながらインターン生を積極的に受け入れている。採用に直結しているわけではないが、少しでも開発コンサルティング業界について知ってもらうきっかけになればと考えている。

『国際開発ジャーナル』2019年12月号掲載
#コンサルタントの展望 #中央開発

コメント

タイトルとURLをコピーしました