(株)レックス・インターナショナル 代表取締役 橋本 強司氏
東京大学工学部建築学科を卒業後、米南カリフォルニア大学で環境工学の修士号、コーネル大学で水資源計画の博士号を取得。国際応用システム分析研究所(在オーストリア)、(財)国際開発センター、日本工営(株)を経て、1995年に(株)レックス・インターナショナルを設立
第三の極から開発課題に挑む
連載「コンサルタントの展望」は、開発コンサルティング企業のトップに今後の戦略をはじめ、政府開発援助(ODA)への展望を語ってもらうリレー連載だ。第六回目は都市・地域開発および農業・農村開発を中心業務とする(株)レックス・インターナショナルの代表取締役、橋本強司氏に今後の事業戦略を聞いた(聞き手:国際開発ジャーナル社 社長・末森 満)
先進技術の途上国への適用を
―創業から今年で四半世紀になります。事業の現状は。
創業時から、「開発コンサルティング業界の競争環境を改善したい」との思いを抱いてきた。当時、業界内では抜きん出ていた大手2社が競い合いつつも、重要な戦略案件になるとジョイントベンチャー(JV)を組んでいた。その中で「他社や個人のコンサルタントを糾合しながら、第三の極を作らなくてはいけない」と考えていた。その核となるために、社員数50人、売上高20億円という目標を掲げた。現在、ようやく社員数30人、売上高10億円に到達した ところだ。これまで大型案件に幹事会社として携わったり、本命とされていた大手を打ち破って案件を受注したりすることにより、業界内でそれなりの貢献をしてきたと自負している。昨今、第三の極を作る必要性は再び高まっている。背景には民間の開発案件の重要性が増している点がある。さらに持続可能な開発目標(SDGs)への貢献が不可欠 になっている事情もある。特に、開発途上国の民間事業においては、企画から計画・設計、実施・運営までを一括して手がける開発コンサルタントの存在が不可欠だ。当社はマルチセクター連携による開発案件を得意としており、この経験を今後も生かしていく考えだ。SDGsが求めているのは、開発パラダイムの転換だ。それには、人類が直面する課題を開発途上国の立場から検討し、解決策を出さなくてはいけない。途上国の歴史や社会文化、環境要件などを知った上で、開発パラダイム形成を支援するのがわれわれの役割だ。
―そのために必要なものは、エンジニアリングの技術でしょうか。
技術以上に、構想力が欠かせない。途上国が持つ伝統や知恵を掘り起こし、先進技術と融合させていく発想がとても重要だ。地球環境問題や感染症といったグローバルな開発課題は、途上国で顕著に現れている。これらの解決には、先進技術を用いなくてはいけない。しかしながら、先進国で開発した技術をそのまま途上国に持って行っても通用しない。一工夫加えて、現地の社会文化との適合を図ることが欠かせない。われわれにとって技術革新以上に重要なのは、途上国への適用性を見定めることだからだ。情報通信技術(ICT)をはじめ、技術革新は日進月歩だ。各技術がどんな性質を持ち、どこに落とし穴があるかをわれわれは見極める必要がある。トップダウンで出てくる大規模インフラ案件をエンジニアリング中心でこなすだけでは、展望は描けない。
―開発コンサルティング会社のあるべき姿とは。
地球規模の課題が山積みで、人類が危機に直面している中、今こそ途上国での案件形成を通じて、先進国も学べる課題解決モデルを作ることが重要だ。欧米のように、高みに立って教えを垂れる形では、新たなパラダイムは構築できない。他の先進国の動きはさておき、日本は途上国と一緒にやっていくのがよい。途上国と良好な関係を築ければ、日本は安泰だ。彼らと同じ目線で、共に課題に取り組むことこそ、日本型開発コンサルタントのあるべき姿だ。
新会社の売上高3,000万円近くに
―ODAの現状と課題はどう捉えていますか。
当社は創業以来、日本のODAによる開発計画策定に貢献しつつ、民間事業も視野に入れていた。国際協力機構(JICA)の予算逼迫問題によって、改めてODAには技術協力で関わりつつ、民間案件に挑戦する方針を定め、2018年にD・レックス(株)という新会社を設立した。JICAが提供する中小企業・SDGsビジネス支援事業のスキーム活用をはじめとして、民間案件を掘り起こしている。設立から2 年足らずで売上高は3,000万円近くに達し、少しずつ実績を上げている。今後はJICAのマルチセクター開発計画案件に主体的に取り組む中から民間事業を形成していくのが現実的であると考えている。現在実施中の「モンゴル国家総合開発計画策定プロジェクト」も、ICTを適用する案件や自動車のリサイクル産業推進などを視野に入れている。開発計画や報告書を作って終わりではなく、民間事業につながる案件を提案し、うち1つでも2つでもいいから実施まで協力したいと考えている。
―開発コンサルティング業界の展望は。
大いにやる気を出すならば、この業界の展望は明るい。特にSDGsは人類が直面する課題を開発コンサルティング企業が解決する絶好の機会になる。途上国の視点で着想することは、開発コンサルティング業界の他にはほとんどできない。途上国がSDGsを達成できるよう、開発コンサルティング企業が途上国独自の開発パラダイムを形成するよう関与できれば、自ずと道は開かれるだろう。開発コンサルティング企業はこの先、知恵の勝負に直面する。勝ち進むには人材育成が必要不可欠となる。昨今、途上国ではデータの整備が急速に進んでいる。従来のように、データ収集のために何度も途上国に足を運ぶ必要はなくなった。例えば、マスタープラン一つをとっても、昔は優秀な多数の専門家が一年半もかけてマスタープランを作成していたが、今はウェブ上のデータを活用して、少人数でも短期間でマスタープランを作ることができる。その代わり、GISデータや社会・経済関連データを駆使して、何をどう分析し、具体的にどのような案件を形成するか、構想力や知恵の勝負になる。ただ、こうした作業は長年にわたり構想力や知恵を磨いてきた者だけができる。経験豊かな社員がいるうちに、時代に即したマスタープランの作り方を確立して継承しなければいけない。SDGsのための開発パラダイムの構想、先進技術への精通および社会・文化面から見た適用性の判断、よい案件を形成する構想力・知恵など、人材を育成する材料はいくらでもある。開発コンサルタントはサラリーマンではない。若手が日々不断の努力をして優秀な開発コンサルタントに育っていくよう、環境を整えることが重要と認識している。社内環境に留まらず、ODA実施体制についても改革を求めていく必要がある。
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