米国シリコンバレーでのインターンシップの様子
会津大学 コンピュータ理工学部/
会津大学大学院 コンピュータ理工学研究科
理工系単科大学の国際化のモデルに
福島県会津若松市に建つ会津大学は、日本初のコンピューター理工学に特化した公立の単科大学だ。同県会津地方における初の4年制大学である。
1993年の開学当時、日本では情報通信技術(ICT)の高度化が進む一方、コンピューターの研究者や技術者は不足していた。そうした中で同学は、海外から優秀な研究者を教員として積極的に採用してきた。現在も在籍教員110人のうち、約4割は外国人材だ。学生(総数1,300人)も海外からの留学生が全体の1割を超えている。中国やベトナム、ナイジェリア、ルワンダ、スペイン、ロシア、米国、コロンビアなど多様な国から学生が集まっている。特に大学院では、その割合が半分ほどまで上がり、日本語と英語が学内公用語となっている。
同学は2014年、国際化を推し進めグローバル化の牽引役を目指す大学を後押しする、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択された。全国で37大学が選ばれており、公立大学としては、同学を含め2校が採択された。「われわれには、地方の理工系単科大学でグローバルな展開ができるモデル校になることが期待されています」と、グローバル推進本部国際戦略室の川口立喜室長(上級准教授)は語る。
「オナーズプログラム」などで異才を伸ばす
同事業の採択に伴い、会津大学は優秀な学生の能力をさらに伸ばすことを目的とした「オナーズプログラム」を導入した。その特徴は、特異な才能を早期に発掘・育成するための「異才発掘型」と、大学院進学に向けた計画的かつ円滑な修士の学位取得を支援する「学部・修士一貫型」の2種類に分かれていることだ。
異才発掘型とは、特別基礎講座の受講や海外留学・インターンシップを経て、学部生が研究室に早期に配属され、国際コンペティションや教育プログラムなどの活動費も支給されるというものである。
他方、学部・修士一貫型の場合は、学部3年次前期までに取得単位数などの条件を満たし、指導教員の推薦を経て大学側から承認されると、学部を3年で卒業(または退学)して大学院へ進むことができる上、博士課程前期に在籍中は奨学金が支給される。加えて、最長1年間のオナーズイヤーを取得することも可能となる。「オナーズイヤーは特別休学扱いとなり、社会に入る前に、長期留学やインターンシップを通して、専門技術やスキルを磨き上げる良い機会となります」と、川口室長は説明する。
全ての科目を英語で履修できるコースも
同学では、修士・博士論文のみならず、英語で卒業論文を作成し発表する。英語で講義・演習を行ったり、修士・博士論文を英語で書かせたりする大学は増えているが、学部の論文作成をするケースは数少ない。
オナーズプログラムの他にもう一つ、会津大学は2015年に新たな試みを始めた。「ICTグローバルプログラム全英語コース」だ。
同コースは当初、留学生向けに立ち上げられたが、19年度からは日本人学生も参加できるようになっている。「本コースに参加すれば、早期に最先端の技術や研究を留学生と一緒に英語で学習できます。また、海外留学やオナーズプログラムの事前準備としても最適です」と川口室長はその利点を強調する。
世界大学ランキングにも名を刻む
会津大学は、海外拠点の整備にも積極的だ。現在、米国のシリコンバレーと、「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれる中国の深セン、そして中国・大連という、世界的なICT企業の集積地に拠点を置いている。これらの拠点を活用して情報収集・発信や学生の海外インターンシップ、海外の研究者やエンジニアとの共同研究などのグローバルな活動を展開している。
こうした国際化への取り組みもあり、同学の世界的な評価は高まりつつある。英国の高等教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』(THE)が今年発表した「」で、同学は「601-800位」にランクインし、日本の大学としては旧七帝大や名門医科大学が居並ぶ中で13位(コンピュータサイエンス分野では7位)となった。同ランキング2020では16位、2021では14位だった。
このような大学のグローバル化を含む経営の戦略性向上を担当するのが、企画運営室兼グローバル推進本部の麻野篤教授(学長補佐担当)だ。同氏は都市銀行を経て国際協力機構(JICA)のセネガル事務所、チュニジア事務所などに勤務し、大阪市東成区の区長も務めた経歴を持つ。麻野教授は、「JICAでは中小企業の海外展開支援や、開発途上国におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する事業が増えています。海外経験を積んだ本学の卒業生・修了生は将来、そうした場でも活躍してくれるでしょう」と語る。
一方で、地元・福島県との連携も、同学の特徴である。「本学では留学生を、福島県の企業などにインターンとして受け入れてもらっているほか、日本の企業への就職を支援しています。本学は建学時から『Starting from Local Communities to the World (地域から世界へ)』を理念の一つに掲げており、世界および地元と自然体でつながり、協働して先進的なアイデアを生み出していくことを目指しています」と麻野教授は挙げる。
近年、中国やインド、ルワンダなどでデジタル化やDXが加速度的に進む一方、日本は出遅れているとも言われる。ICTを生かした課題解決において日本が存在感を示していけるかは、同学の今後のさらなる成長と活躍にかかっているのかもしれない。
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