若手人材を育てる制度
日本人が国際機関の職員を目指す場合の、主な方法を二通り紹介したい。一つは、国際機関で欠員が生じたときに各機関が、ホームページに掲載する「空席公募」に応募すること。国際機関では、職員の退職・転任・転出、あるいはポストの新設によって欠員が生じると、その機関のホームページに求人情報を掲載する。求職者はこの情報の中から自分に合ったポストを探してオンラインで応募する。
そしてもう一つが、ここで紹介する「ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)派遣制度」への応募だ。この制度は、各国際機関が各国からの若手人材を受け入れるために設けているもので、日本においては、外務省が主に、国際機関の正規職員を志す35歳以下の若手日本人を対象に原則2年間、国際機関で働く上で必要な知識や勤務経験を積む機会を提供する。派遣費用は日本政府が負担し、派遣先は外務省が取り決めを交わしている約40の国際機関が対象となっている。
半数近くがJPO出身
国連をはじめとする各国際機関では、人権、貧困削減、開発、人道・緊急支援、教育、保健、環境、防災、インフラ、平和構築などの分野に加え、ICT、総務、ロジスティックス、調達、法務、財務、監査、広報、人事、モニタリング評価(M&E)などのバックグラウンドを持つ人材が広く求められている。
JPOの選考に合格すれば各機関の本部の他、世界中の地域事務所や現地オフィスにおいて、国際機関職員として勤務することができる。また、勤務経験はもちろん、国際機関の中で幅広い人脈を築く機会となり、その後に国際機関でのキャリアを歩んでいく上で、大きな財産となる経験ができる。現在、国連関係機関で働く日本人の半数近くがJPO出身。是非、挑戦してほしい。
外務省と企業を経て
京都大学3年生の時、フランスへ留学したのをきっかけに、国際社会に貢献したいと考えるようになりました。卒業後、外務省に入り欧州局を経て、約2年間、在ドイツ大使館で働きました。ドイツでは地球温暖化の原因となるCO2排出削減のために交通手段を選ぶ人がいたり、気候変動問題が政治の一大争点になっていることから、環境問題への意識を深めました。そして、2014年にドイツの電機メーカー、シーメンスに入社し、数十カ国の同僚とともに風力発電ビジネスに携わりました。
日本の国益を第一に情報収集・政策立案に取り組む外務省と、多様性に溢れた職場で日々奮闘できるシーメンス、両方の経験から培った能力を生かして活躍できる場に行きたいと、30歳を過ぎてから国際機関を目指しました。10代、20代の頃から国際機関を目指してキャリアを積み重ねる人がいる中で、私は遅いほうだと思いますが、JPO制度のおかげで2021年に経済協力開発機構(OECD)に入ることができました。
地球規模の課題に挑戦
JPOで派遣されたOECDでは、統計データ局に所属し、パリ協定の下で各国が定めた温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた指標づくりや、SEEAと呼ばれる環境経済勘定システムの普及に取り組んでいます。経済活動による環境への影響を把握することを目的とするSEEAへの理解や導入が広まったり、自分が提案した指標を丁寧に説明して、関係各国からの理解が得られたとき、大きなやりがいを感じます。
国際機関は狭き門と言われますが、JPOは間口を広げてくれる制度です。2017年に国連YPPにも合格しましたが、合格=採用ではないため、同時進行で通信制の勉強をしたり、JPOを並願しました。JPO期間終了後、自動的に国際機関での就職が保証されているわけではないため、安定した職場を辞めてチャレンジするのは大きな決断でした。しかし、OECDでの仕事はとても楽しく、挑戦して本当によかったと思います。皆さんも本気でやりたいと思えることに挑戦してください。
■略歴
・【当時】独Siemens Gamesa Renewable Energy 調達部
・【現在】経済協力開発機構(OECD)統計データ局(SDD) National Accounts Division
レーゲンスブルク大学大学院修士課程を修了後、在ドイツ日本大使館二等書記官、外務省事務官を歴任。2014年より独Siemens Gamesa Renewable Energyに務める傍ら、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(通信制)でグローバル・エネルギーおよび気候政策を学ぶ。2021年よりJPOとして現職。
問い合わせ先
外務省国際機関人事センター
T:03-3580-3311(内線3343)
M:jinji-center@mofa.go.jp
対応時間 : 9:30 ~ 18:15
※外務省国際機関人事センターのホームページから、オンラインで事前登録後、応募書類を提出。書類選考、英語の筆記試験、面接試験を経て、国際機関による審査後に派遣される。応募資格や選考方法、スケジュールなどは毎年更新されるため、人事センターのホームぺージで確認しよう。
『国際協力キャリアガイド22-23』掲載
(本内容は、取材当時の情報です)