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社会基盤整備と環境保全の技術力を生かし海外展開も積極的に

 社会基盤の形成と環境保全の総合コンサルタント企業で、とくに環境分野と技術開発力に定評のある、いであ(株)が2023年、創立70周年を迎える。世界的に環境問題への関心が高まる中、同社は今後、国内外でどのような展開を見据えるのか。田畑彰久社長に聞いた。

 田畑彰久氏(代表取締役社長 東京都出身。1996年東京水産大学(現東京海洋大)院修了。いであに入社。2003年工学博士(北海道大学)、2008年経営学修士(英カーディフ大学)。13年取締役経営企画本部長を経て、19年3月から現職。)

田畑彰久氏(代表取締役社長 東京都出身。1996年東京水産大学(現東京海洋大)院修了。いであに入社。2003年工学博士(北海道大学)、2008年経営学修士(英カーディフ大学)。13年取締役経営企画本部長を経て、19年3月から現職。)

民間気象予報会社として創立

 当社は 1953年、日本初の民間気象予報会社である(株)トウジョウ・ウェザー・サービス・センターとして創立された。かつて民放テレビ局で広く放送されていた「ヤン坊マー坊天気予報」で 1979年まで天気解説を担当したのも実績のひとつだ。

 この間の1968年、環境分野のコンサルタントとして再出発し、翌1969 年には「空から海までを対象とした環境科学の総合コンサルタントを目指す」というビジョンを掲げ、新日本気象海洋(株)に社名変更した。高度経済成長に伴う公害問題が顕在化する中、環境コンサルタントの先駆者として環境の調査、解析や評価手法の開発を行い、環境問題の解決に尽力すると共に、多くの開発・整備事業の推進を支援してきた。

 2006年、建設コンサルタントの草分け、日本建設コンサルタント(株)との合併を機に、いであ(株)となり、「安全・安心で快適な社会の持続的発展と健全で恵み豊かな環境の保全と継承を支えることを通じて社会に貢献する」を経営ビジョンに事業を展開している。

 近年の売上高(連結)は、コロナ禍にあっても毎年、順調に伸び、2022 年 12 月期では 230 億円を超えた。これは 2018 年同期の約185 億円からは 25%増、2021年同期の約 206 億円からも 10%以上の伸びだ。売り上げのうち、約6割が環境関連、約3割が建設関連だ。

業界屈指の技術力・開発力

 当社の強みは、大きく2つある。1つは、社会基盤整備や環境保全に関わる「企画、調査、分析・解析、予測・評価から計画・設計、対策・管理」にいたる全ての段階において、一貫した付加価値の高いサービスを提供していること。

 もう1つは、業界屈指の技術力・開発力で、全国にある4つの研究拠点を軸に技術や人材を有機的に連携し技術開発を行い、他社との差別化を図っていることだ。

 国土環境研究所(神奈川県)では、生態系解析手法の開発や、環境調査・解析手法の開発などを行い、環境創造研究所(静岡県)では、多種多様な化学物質の高精度な分析や有害化学物質のリスク評価と対策支援、淡水・海水を用いた生物の実験・研究などを行っている。ここでは、自然界で分解されることがほとんどなく、環境や健康への懸念が高まる有機フッ素化合物(PFAS)や水銀などを微量でも検出・分析できる。

 亜熱帯環境研究所(沖縄県)では、亜熱帯の環境を生かした実験・研究を行い、希少生物・有用生物の繁殖技術の開発や高温耐性サンゴに関する研究開発、藻場再生・創出のための海草の種苗生産などを行っている。

 食品・生命科学研究所(大阪)では、コロナワクチンで注目されたメッセンジャー RNA(mRNA)をはじめとする、タンパク質・DNA・RNA に関する先端的な解析技術の開発や、大阪大学と共同で先進的がん診断法の研究開発などを行っている。

 技術開発では、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)など先端技術の利活用にも注力しており、河川氾濫の予測、融雪による流量変化の予測、ダム操作の判断支援、漁場の予測支援、海洋ロボットによる深海底も含む高精度な 3D マッピングによる海底生物の自動検出、植生の概略把握の自動化などが実際の業務へ展開されている。また、2020年に本格運用を開始した水深 2,000m まで潜れる水中ドローン「YOUZAN」による深海調査技術は、数々の実績を上げている。

風力発電などのアセスも展開

 今後、事業の拡大が考えられるものを2つ挙げたい。

 1つ目は、風力発電所の設置のための環境アセスメントに関する取り組みだ。当社は、環境調査、予測評価など環境アセスメントに必要な技術、知見を有することから、風力発電を計画している事業者から調査の依頼を受けることも多くなっている。また立地可能地域に関する情報を環境省などに提供することも行っている。

 2つ目は、海洋資源開発のための環境アセスメントだ。日本近海を含む海底に堆積する、天然ガスの主成分でエネルギー資源であるメタンガスが水分子と結びつくことでできた、氷状の物質「メタンハイドレート」は採掘の際、海の生態系を乱す可能性や、メタンを大気に放出することで温暖化を加速させるリスクが想定される。環境を守りつつ、メタンハイドレートなどを採掘する技術を開発できれば、その意義は大きい。

2年後に海外売上を10億円に

 創立以来、当社が培ってきた技術力を生かした海外展開にも力を入れ、数年前に海外事業の幅広い経験と実績のある、組織の中核人材を採用した。その効果もあり、大型案件をプライムで実施する体制が整備され、当社の海洋環境保全技術を生かしたモーリシャス国統合的沿岸域生態系管理システム構築プロジェクトを受注するなど、着実な成果が上がっている。

 また、防災分野では、衛星データ解析技術を生かした東ティモール国ディリ洪水対策情報収集・確認調査を皮切りに、同国で、2 件の関連無償案件を連続受注。同無償案件では、技術力の高さ、復興への貢献が認められ、東ティモール政府から感謝状をいただいた。さらに、アジア開発銀行(ADB)発注の道路防災案件を受注するなど活動の場を広げている。

 当社グループにおける海外事業売上は全社売上(連結)の3%程度でまだ小規模だが、これらのプロジェクトの経験や実績を生かすと共に、保有する技術をフルに活用し、中期経営計画の最終年である2024年に売上(連結)の5%(約 10 億円)を目標としている。

強みを生かして世界に貢献

 海洋プラスチック問題など、一カ国では解決できない課題が多くなっている。当社は東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局やメコン川委員会など国際機関とも契約し、ASEAN 地域全体の課題解決に資する活動を行っている。昨今の米中対立の激化やウクライナ危機など混とんとした世界情勢の中で、こうした地域間連携の活動はますます重要になると考えている。

 さらに、気候変動や環境問題などさまざまなパートナーが一体となって取り組むべき複雑な課題が増加し、複数のセクターにまたがる案件も多くなっている。そのため、クロス・セクトラルなアプローチが必要となり、いくつもの専門性のあるコンサルタントとの協働作業と協調性が重要だ。

 地球規模の課題を的確に把握・分析し、持ち前の技術力で解決に立ち向かうのはコンサルタントの使命であり、当社はこれまでに培ってきた社会基盤整備や環境保全に関わる技術力や経験を生かし、課題を解決することで、海外事業をより一層拡大していきたい。

いであ(株)の会社トピックス

研究開発

 遺伝子解析と人の健康に関する化学物質のリスク評価を柱として、生命科学分野における技術開発と事業展開を推進

応用生命科学研究センターの紹介
(左)環境創造研究所(右)応用生命科学研究センター

(左)環境創造研究所(右)応用生命科学研究センター

 2023年6月に当社の環境創造研究所(静岡県焼津市)の敷地内に、「応用生命科学研究センター」を開設した。同センターでは、「遺伝子解析」と「人の健康に関する化学物質のリスク評価」の 2 本を柱に、主に生命科学分野における技術開発、事業展開を推進していく。

 「遺伝子解析」では環境DNA技術の効率化・高度化と共に、マイクロRNAのメチル化測定による早期がん診断技術などの深化を計画している。「人の健康に関する化学物質のリスク評価」では子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)や有機フッ素化合物(PFAS)への対応などのヒューマンバイオモニタリングの分野において中心的な役割を担っていく。

水中ロボティクス事業

 無人で海底環境を調査する水中ロボット「YOUZAN」を開発・運用し、海底生態系や海底資源開発に係る環境調査を推進

YOUZAN の紹介
自律型無人潜水機(AUV)「YOUZAN」

自律型無人潜水機(AUV)「YOUZAN」

 当社が開発した自律型無人潜水機(AUV)「YOUZAN」は、水深 2,000m まで潜ることが可能であり、ホバリング機能により海底環境の詳細な調査を実現している。2020 年度より本格運用を開始し、主な実績はオーストラリア南西部ブレマーベイでの深海生態系調査(NHK エンタープライズとの共同研究)や、沿岸域の海底ごみ分布調査、海洋資源や海洋保全区域の調査業務など多くの実績を上げている。今後も、海洋資源開発に伴う環境調査や洋上風力に関連した海域調査、海洋ごみ把握などの分野にて活用が期待され、さらには特殊 AUVの設計製作(ものづくり分野)の展開も推進し、水中ロボティクス事業分野の事業拡大を図る。

いであ(株)の海外プロジェクト紹介

海外事業(河川・防災分野)

 東ティモールにおける2021年4月の洪水によるインフラ被害復旧調査から気候変動適応策による災害リスク削減への取組支援

東ティモールにおける洪水・災害リスク軽減への支援
首都ディリを流れるコモロ川の河岸侵食による国道 2 号線バイパスの被災状況

首都ディリを流れるコモロ川の河岸侵食による国道 2 号線バイパスの被災状況

 東南アジアの島嶼国、東ティモールでは 2021 年 4 月、サイクロンによる大規模な洪水被害が発生した。国際協力機構(JICA)は東ティモール政府の要請を受け、洪水被害に対する日本の支援を検討するための基礎調査団を派遣した。当社は本基礎調査を共同企業体の代表として受注し、災害の実態把握、原因の究明、重要インフラの復旧計画立案を行うと共に、同調査から形成された、無償資金協力による洪水被害インフラ緊急復旧事業並びに災害リスク軽減・復旧のための機材整備事業を実施している。さらにアジア開発銀行(ADB)による同国の主要国道を対象とする道路セクター気候変動適応策調査にも取り組んでいる。

海外事業(環境管理分野)

 ASEAN諸国での陸域・海域の統合的なアプローチによる海洋プラスチックごみ対策と資源循環社会構築の実施支援

ASEAN 諸国の海洋プラスチックごみ管理と資源循環社会構築支援
メコン川での河川プラスチックごみモニタリングの研修(ラオス)

メコン川での河川プラスチックごみモニタリングの研修(ラオス)

 世界全体の海洋プラスチックごみ排出量の約 30% を占める ASEAN 地域において、多様な対策事業に取り組んでいる。「メコン川委員会の委託による河川プラスチックのモニタリングプロトコル策定とモニタリング実施に向けた行政官能力強化計画の策定」 「日 ASEAN 統合基金(JAIF)による、ミャンマー及びカンボジアにおける海洋ごみ対策の国家行動計画策定支援」を国際機関や政府機関との連携により実施している。また、「JAIF を活用したクリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)による、インドネシアのプラスチック資源循環構築支援」などでも活動している。

 

『国際開発ジャーナル2023年7月号いであ(株)70周年スペシャルインタビュー』に掲載

(本内容は、取材当時の情報です)

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