<技術協力プロジェクト>
農家の意思決定に基づく農業用水の管理
イラクは国土の大半が砂漠気候となっており、河川からの取水により小麦や大麦を生産してきた。しかし近年、河川流量の減少、灌漑(かんがい)施設の老朽化などによって水資源は以前よりも減少している。作物の生産量と農家の生計を維持するためには、農家が協力し合って水資源を管理する必要があった。
このため本プロジェクトは、農家の自助グループとしての水利組合を育成し、持続的な水管理モデルの構築を目指した。プロジェクトは2017年4月に開始され、まず2カ所のモデルサイトを選定し、水管理についての課題の把握が行われた。次に水利組合の活動計画が作られ、普及員(イラク水資源局・農業局の職員)の支援の下、「組合運営」「メンテナンス」「水配分」「灌漑スケジューリング」「節水灌漑」などの課題に取り組んだ。
その結果、モデルサイトでは期待を上回る成果が出ている。例えば農家による総会が定期的に開かれ、水の配分や水利料金などの問題と解決策が具体的に話し合われるようになった。皆で議論して改善策を実施する活動が定着しただけでなく、総会に参加できない女性の組合員も女性部会を通じて意思決定に関わる仕組みができた。
また、水利組合は維持管理委員会を設けて共同ポンプなど灌漑施設の定期点検を行い、必要なメンテナンスを実施するようになった。灌漑のタイミングや水の量についても科学的知見を取り入れたところ、収穫量の18 ~20%増と、14~17%の節水を同時に実現できることが実証された。研修講師の育成、研修教材の開発も同時に進み、全国の普及員に対して研修も行われた。本事業終了までに13地区で水利組合の活動が始まるなど、全国展開への道を着実に歩んでいる。
■コンサルティング
・NTCインターナショナル株式会社
(国際開発ジャーナル21年10月号掲載)