<技術協力>
薬剤耐性真菌感染症の診断や国際研究ネットワークの構築に貢献
アスペルギルス症はコウジカビによる感染症で、肺結核後遺症や肺気腫などの慢性呼吸器疾患にしばしば合併する。世界各地で症例数が増加傾向にあり、原因菌の薬剤耐性化も進んでいる。
ブラジルでは慢性呼吸器疾患のうち肺結核症の患者発生率が日本の2倍だ。肺結核患者の1割が予後(治療後の経過・状態)不良の慢性アスペルギルス症を発症すると言われ、発症後、5年間以上生存している患者は全体の5割以下と推計される。アスペルギルスの薬剤耐性化の仕組みも十分に解明されておらず、薬剤耐性アスペルギルスの検出頻度を示すデータ公表もほとんどなかった。こうした状況を受け、国際協力機構(JICA)と日本医療研究開発機構(AMED)の共同事業として実施されたのが本案件である。地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の案件だ。
協力期間は 2017 年9月から5年間。千葉大学真菌医学研究センターとサンパウロ州立カンピーナス大学感染症科の共同研究が行われた。千葉大学の渡邉哲准教授によると、①ブラジルでの薬剤耐性真菌の疫学と耐性機構の解明、②薬剤耐性真菌の迅速簡易検出法の開発、③ブラジルでの研究ネットワークの構築に重点が置かれた。
栄研化学(株)の技術支援の下、多くの研究成果が得られている。ブラジルの貴重な生物資源である国内採取真菌の保存施設(真菌バンク)も整備され、国内外の研究者の真菌研究に活用可能なシステムが確立された。また、多施設参画の真菌感染症症例データベースも構築され、症例登録のため毎週1回多施設・多職種参加の検討会を開催。若手医療スタッフの教育の場になっている。渡邉氏は「案件終了後も国際共同研究継続の意欲は保たれている」と語る。
■共同研究
・千葉大学真菌医学研究センター
・サンパウロ州立カンピーナス大学感染症科
(国際開発ジャーナル2023年3月号掲載)