課題解決に向けた共創ネットワーク
大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)は、2050年を視野に入れた諸課題の解決策を提案するシンクタンク。同学の人文学・社会科学系研究者を中心として、2018年に設置された。
これまで、大阪大学の3つの大きなミッションは教育・研究・社会貢献だったが、さらに一歩踏み込み「大学が多様なステークホルダーとともに社会を創造していくこと」を新たなミッションとしている。そうした活動においてSSIは理念の源であり、大阪大学での先導的な取り組みを担う。誰一人取り残さない社会を構想する上での日本における唯一の拠点として、全国の大学を対象にワークショップなどの場づくりを進める。
SSIは研究者、学生、企業、政府や自治体、市民・NPOなどさまざまなアクターとつながり、多様な社会課題の解決策を探求する。その内容は医療、環境、食品ロス、教育、平和教育、アフリカ、防災、多文化共生、超高齢社会、人材育成、生物多様性など多岐に渡る。
SSIの理念は、持続可能な共生社会を「命を大切にし、一人一人が輝く社会」としてとらえ、その実現を目指すこと。2025年の万博「いのち輝く未来社会のデザイン」、2030年の持続可能な開発目標(SDGs)「誰一人取り残さない」と段階を踏み、実現に向けた共創を進めていく。その中で、災害や戦争、飢餓や貧困、伝染病などの脅威から「まもる」、自然環境の保護、教育の充実など一人一人が持つ能力を「はぐくむ」、共感によって人との絆を深め、過去・現在・未来へと「つなぐ」の3つの柱を大切にしている。
2021年には関西SDGsプラットフォーム・大学分科会を設立。おもな活動としてはSDGsに関する情報交換、産官学民での協働や具体的プロジェクトの形成、教育や研究における連携や万博などへの提言など、大学の持つ機能を総動員した社会貢献を推進する。すでにワーキンググループ、プロジェクトを組成し、活発な活動が始まっている。
同学が「生きがいを育む社会の創造」を目指すうえで、SSIはなくてはならない存在だ。社会の羅針盤として、今後もより活動の範囲を広げ深めていく。
関西だけでなく、日本全国にネットワークを広げたい
「誰一人取り残さない」の理念の下、SDGsの諸問題について教育・研究・社会貢献を行う、関西SDGsプラットフォーム・大学分科会では、産官学民のアクターが集い、すでに活発な活動が始まっています。「SDGs万博」とも呼ばれる2025年大阪・関西万博は、国際的プロジェクト。関西に留まらず日本全国や世界にネットワークに広げ、若者を含めた各アクターが議論と発信を行う場にしたいと考えています。SDGs +Beyond、ポストコロナ、ウクライナ情勢を踏まえ、各アクターがどのような役割を果たしていけるのかについても考えていきたいと思います。大阪大学はこのような「場」を支える足のひとつになれればと思います。
2025年大阪・関西万博とSDGs
多くの大学が関わる参加型プログラム「TEAM EXPO 2025」
関西のアカデミアが協働する「TEAM EXPO 2025」は、多様な人々が多彩なチームを構成して活動し、万博とその先の未来に挑む参加型プログラム。共創パートナーとして大阪大学以外に、大阪経済大学、大阪経済法科大学、関西大学、関西学院大学、京都光華女子大学、京都精華大学、近畿大学、神戸大学、武庫川女子大学、立命館大学など多くの大学が関わっている。
小中学校の教育プログラム「ジュニアEXPO」
2020年に始まった、若い世代の課題解決力を育む「ジュニアEXPO」。2021年には関西で参加校が50校にも上った。プログラムを推進するのは博覧会協会、教育庁や教育委員会、小中学校の教員ら。大阪大学、関西大学、JICAが補助教材の監修に尽力する。大阪大学の学生が5つの中学校で子どもたちの学習を支援した。子どもたちは総合学習の時間に万博やSDGsの理念や内容を学び、ありたい社会の実現に向けたアイディアを創出する。
万博会期中、世界に発信するための「いのち会議・いのち宣言」
TEAM EXPO 2025に大阪大学が共創チャレンジとして登録する「いのち会議」では、産官学民から多様な分野の人々が集まり、SDGsの達成やその後の社会に関して広く市民が対話する。具体的な活動を通じて、どのように各目標が「いのちの輝き」につながるのかを明らかにしていく。それを万博会期中に「いのち宣言」として世界に発信。SDGs +Beyondを見据えたアジェンタ策定に関わっていく。
課題を自分事化してアクションに
貧困や飢餓の撲滅、カーボンニュートラル社会の実現を通じて「誰一人取り残さない」を目指すSDGsは国際社会における重要な目標。SDGsの達成には政府や大企業だけでなく、一人ひとりの意識を変え、行動に移していくことが必要だ。大阪大学ではこうした目標について自分事化を図り、アクションにつなげるための場である「SSI学生のつどい」をオンライトと対面のハイブリッド形式で実施している。
大阪大学の学生のみならず、全国の大学生、教職員、卒業生も参加し、SDGsに関わる様々なテーマについて話題提供をし、対話を重ねる。そこで積み上げられていく思いや意見、知識を「阪大SDGs学」として紡いでいくという試みだ。
2021年度はSDGsの主な目標をテーマとして取り上げ、最新の学術の成果を案内するとともに、海外と日本の事例から共通点や違いを見出し、地域や国際社会のために私たちが何ができるのかを考えた。
2022年度には「住み続けられる地域・まち」をテーマに、日本や途上国の地方や地域社会について議論を行い、年度末にはフィールドスタディを行う予定だ。
「SSI学生のつどい」は、本学の学生が中心的存在だが、多様な参加者がディスカッションするオープンな場。国内の事例が海外の課題解決のヒントになり、その逆になることもある。国際協力や持続可能な社会の実現に関心があるみなさんの参加を歓迎する。
わが大学が目指す2030年
カーボンニュートラルの実現のために、日本の地方や世界の途上国でこの問題がどう捉えられているのかを知る必要があるのではないでしょうか。本学SSIまどでは2010年から国内外でのフィールドワークを実施し、どのようにカーボンニュートラルを実現してくことができるのか、学生と地域住民が一緒に考える機会を設けています。
中国雲南省の山間地域や、国内では奈良県十津川村でフィールドワークを実施し、住民と交流。滋賀県高島市では琵琶湖科学研究所で共同研究を行っています。少子高齢化や深刻な人口減少により集落機能が失われる中、2050年に向けて実現可能なカーボンニュートラルへの工程表を地域住民たちと一緒に作成する取り組みを行っています。
日本の農村の課題はこの先、途上国の課題になる
東アジアや東南アジアの農村で千年以上続く棚田などの農業を支えているのは高齢者。日本の地方農村と同様に、少子高齢化による継承者不足が問題になっています。一度失われると復元できない文化の価値を社会が認識する必要があると考えています。こうした問題に対し、滋賀県高島市ですべての集落を対象に人口動態や集落の利便性や生活満足度を測る調査を実施、経済学をベースとした定量的評価を行っています。今後は学生にも参加してもらい、定量評価を参照しながらに地域住民とともに将来のビジョンづくりやカーボンニュートラルのための方策を検討していきます。
使って!この授業・この制度
中国雲南省でのフィールドスタディではプーアール学院大学、毛利学院大学がカウンターパートとなり、現地の生物多様性センターなどを拠点としたさまざまな活動が可能です。今後は中国の学生との協働プロジェクトなども行う予定です。
国内では奈良県と滋賀県に拠点があります。地域の課題を知り、その解決のために何ができるのか、地域の人々との対話や協働体験ができます。また、住民参加が必要な開発のためにカルテを作成し、住民参加を促します。人と生活が一体となった経済活動をどういう形で残せるのかを国内外のフィールドスタディを通して考えていきます。
学生(卒業生)の声
国内外のフィールドで多彩な経験ができた
大阪大学では、通常の授業だけでなく、SSIなど学内組織が提供する様々なイベントやフィールドスタディに参加し、多くのことを学びました。
奈良県十津川村ではさまざまな体験ができました。その中でも印象的なのは、地元の中学校で夏休み特別授業をしたこと。生徒が将来の夢を書いた灯篭を作り、光を灯すサポートをしましたが、若い世代に接する機会が少ない彼らにとって将来のキャリア形成や選択肢を広げるきっかけになったと思います。他にも、防災活動の一貫として立体地図を作成し、危険な地域の可視化にも取り組みました。
中国でのフィールドスタディでは松ヤニに関する研究を実施。工場での松ヤニ摂取の過程で大量のプラスチックゴミが出るのですが、洗浄する機械を導入することでリサイクルできるようになる計画を立てました。近いうちに社会実装される予定です。
大阪大学の魅力は、学びが社会や地域に還元される仕組みが整っていること。今後は海外留学を経て政治と経済、法律を学び、日本、アジアの持続可能な将来について考えていきたいです。
学校DATA
名称:大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)
所在地 〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-8
Tel:06-6105-6183
Mail:ssi@ml.office.osaka-u.ac.jp
『国際協力キャリアガイド22-23』掲載
(本内容は、取材当時の情報です)