設立10周年のTECインターナショナル(TECI)
節目の年、新体制で飛躍図る
海外の水環境分野を専門とするコンサルタント企業、(株)TECインターナショナル(TECI)が2022年7月で設立10周年を迎える。前身の(株)東京設計事務所海外事業部設立からは40周年である。海外事業開始当初から高い技術力と誠実な事業実施で評価を受けてきた同社は、さらなる高みを目指し、今変革を続けている。今期で社長就任3期目となる狩谷社長にTECIの現状と今後の展望を聞いた。
1979年、東京大学都市工学科を卒業し、4月に東京設計事務所に入社。マレーシアでの海外業務従事を契機に、1982年1月米国コーネル大学の都市地域計画学科に留学、地域計画修士を取得した。その後、国内下水道関連業務、シンガポール、バグダッド、ヤンゴンなどの海外業務に従事。2017年に(株)東京設計事務所社長に就任。その後2019年TECI社長を兼務することとなった。
TEC海外事業部からの独立
上下水道・水環境分野のパイオニア的コンサルタント企業、(株)東京設計事務所(TEC)は、1959年(昭和34年)創業である。その海外事業部が2012年7月に独立し、(株)TECインターナショナル(TECI)が設立された。
TECは創業当初から海外案件に注力し実績を積み上げ1982年に海外事業部を創設。当時は案件ごとに事業部を超えてプロジェクト・チームを編成して海外業務に対応してきたが、TECIとして独立後は、単独で事業を運営・拡大できるように体制づくりを進めてきた。
結果、アジアを中心に、中東や東欧、中南米などさまざまな地域で事業を展開、インド、ミャンマー、ウクライナなどでは、大型上下水道案件の受注に成功した。
TECグループ共通の社是は、「誠実を旨とし、優れた技術者を育て、良い作品を残す」である。これまで60カ国以上で、上下水道に関する調査や計画、設計、工事監理などを行ってきたが、この社是に沿った仕事が、評価をいただいたものと考えている。
アフリカ事業の強化とSDGs
今年は第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が開催されるが、TECIとしてもアフリカ事業を一層拡大、強化して行きたいと考える。
現在当社は南スーダンとマラウイで事業を進めている。特に南スーダンでは長年にわたりハード・ソフト両面から水道事業の復興に貢献してきた。また、今年JICAの「アフリカ地域成長する水道事業体支援におけるプラットフォーム活動情報収集確認調査」を受託し業務を開始したところだ。これはアフリカ7カ国の水道事業体の間で学び合いと連携強化に向けた基盤をつくろうというもので、JICAが今年から開始した「グローバル・アジェンダとクラスター・アプローチ」戦略にのっとった新しい取り組みである。
本業務を通してアフリカ諸国の水道事情の把握とコネクション形成が期待され、アフリカにおける事業拡大の足掛かりになると考えている。
JICAの方針として近年水道事業体の経営・成長支援や幹部・スタッフの能力強化に関する取り組みが増えている。また、環境社会配慮は従来にも増して重要となってきた。TECIは、設立当初からこれら分野を重視して、人材育成に努めてきた。それが今、会社の強みになったと実感している。
そして、持続可能な開発目標(SDGs)達成や気候変動対策、カーボンニュートラルの重要性は言うまでもない。浄水場や下水処理場は、かなりの電力を消費する。日本国内では施設内で使う電力をできる限り自家発電でまかなうために太陽光や風力、小水力発電と組み合わせることが求められてきている。TECでは、下水汚泥の処理過程で発生する消化ガス中のメタンガスを活用する消化ガス発電にも取り組んでいる。海外事業でも今後こうしたグループの知見・経験を生かした事業提案を行っていきたい。
営業戦略室の設置
激変する国際情勢の影響を受けて各国政府や国際機関の援助方針は大きく変化してきている。そういった外部環境の変化に対応し、さらなる事業拡大を目指すためには、営業力の強化が不可欠である。そのため、TECIは2020年6月に営業推進室を設置、今年4月には人員を増強し、名称を営業戦略室に変更した。開発協力案件の経験豊富な室長のもと、4名体制で活動している。
同室のミッションは主に2つある。1つは、JICA発注案件の安定受注だ。近年、JICAがコンサルタントに求める仕事は、より精緻に、より広範囲になってきている。人員増強により、顧客分析、市場分析にリソースを割くことが可能となり、受注率の顕著な向上を実現した。
2つめは、これまで十分ではなかった国際機関案件の受注拡大に向けた取り組みである。国際機関案件に強みを持つ欧米大手コンサルタント企業と提携して、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)のほか、欧州復興開発銀行(EBRD)、アフリカ開発銀行(AfDB)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などの上下水道案件にも多数応札している。
また、SDGsやグローバルイシュー、ポストコロナの分野複合的かつ高度な案件に対応するために、保健医療分野をはじめ、別分野に強みを持つ企業との連携を強化していきたい。情報コミュニケーション技術(ICT)やデジタルトランスフォーメーション(DX)も同様に重要で、これらテーマの遂行をミッションとするチームを今年4月、技術部署内に新設した。
「エンゲージメント」を重視
TECIとTECの連携は経営上重要で、例えばコロナ禍で海外渡航が大幅に制限されたが、TECI社員をTECの国内業務にアサインすることで業績への影響を最小限に抑えることができた。また、高度な技術を要する案件が多い国内業務を経験することで社員のスキルアップにもつながった。
もう1つ、今経営上重視しているのが「エンゲージメント」だ。社員の「エンゲージメント」の向上が会社の発展に大きな影響を与えると考えている。その最初の取り組みとして、昨年下半期に全社をあげて「エンゲージメント・サーベイ」を実施した。具体的には社員全員に対してエンゲージメントに関するアンケートを実施し、その後一人1時間以上をかけた個別インタビューを行った。
50人以上の社員一人ひとりと向き合い、各自が何を考え、感じているか、どうやったらより良い仕事・職場を実現できると考えているかなど、非常に有益な意見やアイデアを多数得ることができた。現在それらを踏まえた改善策を随時実施しているところだ。
また、人事評価システムにも改善を加え、単純な業績だけでなく個人目標の達成度や会社への貢献度をより重視するようにした。このように社員の声に耳を傾け、会社経営に反映することは、社員のエンゲージメントを高め、ひいては会社の業績向上にもつながるものと考えている。
われわれの一番の目標は、安全できれいな水の供給を通じて、世界の人々の生活を改善していくことだ。今後も高度な知識や技術を使って、世界の至るところで、良好な水環境の創出や維持・修復を実現していきたい。多様な変革を行ってきたが、このミッションはこれからも変わらない。われわれの総力を結集して、グローバルに貢献を継続したい。
TECインターナショナル・代表プロジェクト
■無償資金協力
南スーダン ジュバ市水供給改善計画
2012年6月~2023年2月
南スーダンの首都ジュバ市の上水道施設は内戦中に維持管理がほとんど行われておらず、浄水場が人口増加に対応できないほか、配水管網も老朽化で漏水が多発している。多くの住民が頼る給水車も浅井戸や河川水を運搬・販売するため、劣悪な水質による水因性疾病の発生といった問題も起きている。本事業では、同市で浄水施設の拡張(10,800㎥/日)および送配水管網・給水施設(給水車給水拠点、公共水栓)の新設を行い、ジュバ市の約35.5万人が新たに安全な水にアクセスできるように取り組んでいる。
■技術プロジェクト協力
南スーダン 都市水道公社水道事業管理能力強化プロジェクト
2010年10月〜2013年9月
●都市水道公社水道事業管理能力強化プロジェクトフェーズ2
(2016年2月~2022年2月)
●ジュバ市きれいな水供給プロジェクト
(2022年3月~2025年2月)
上記2つの技術協力プロジェクトにおいて、南スーダン都市水道公社(SSUWC)のジュバ支所基礎的能力開発支援を実施し、本部の監督能力強化を図った。現在は2023年2月に建設が完了する無償資金協力事業の新施設の運営維持管理能力の強化、持続可能な運営のための管理能力強化および独立採算に向けた取り組みを行っている。
■有償資金協力
アゼルバイジャン 地方都市上下水道整備計画
2011年1月~2021年12月
アゼルバイジャンの地方都市では旧ソビエト連邦当時に建設された水道施設の更新や維持管理が行われず、施設の老朽化や自然災害などにより給水サービスは質と量が著しく悪化していた。円借款事業により、地方5都市(グサール、ハチマズ、ヒジ、ゴブスタン、ナフタラン)における上下水道施設が整備され、計画給水人口の126,485人(2030年)に対し、安全な水供給を行うことができ、生活環境および水環境が改善された。
■無償資金協力
ホンジュラス コマヤグア市給水システム改善・拡張計画
2017年7月~2022年3月
本事業は、ホンジュラス国の流通の要所であるコマヤグア市において,既存浄水場に隣接する場所に浄水能力15,500㎥/日の新規浄水場建設および容量5,000㎥の配水池建設を含む上水道施設の整備・拡張、新規浄水場の運転および維持管理に係る研修実施を通じ,水質や衛生環境の改善を図り,もって同地域の地方開発に寄与する。
企業情報
名称:株式会社TECインターナショナル
所在地:〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-7-1 霞ヶ関東急ビル
連絡先:TEL:03-3580-2418(代表) FAX:03-3591-0492
『国際開発ジャーナル2022年7月号 設立60年スペシャルインタビュー』に掲載
(本内容は、取材当時の情報です)