創業55周年スペシャルインタビュー
農業開発と平和構築を両輪に一層の存在感発揮を目指す
福島・飯舘村で除去土壌の再生利用実証事業にも挑戦
農業・農村開発などで高い専門性と実績を持つNTCインターナショナル(NTCI)が創業55周年を迎えた。政府開発援助(ODA)を主体に、近年は民間連携分野などにも注力。徐々に事業領域の拡大を図っている。また、福島・飯舘村では除染土壌の再生利用を目指した実証事業を推進するなど、国内・海外の垣根を超えて挑戦的な取り組みを続けている。同社の森卓社長にNTCIの「今」と「これから」を聞いた。(聞き手:本誌・和泉隆一、野田頭真永)
70カ国・240件以上の“財産”
――NTCIは、この8月、創業55周年を迎えられました。
旧太陽コンサルタンツが創設されたのは1969年8月。その後、1978年に「海外事業部」が設置され、これが私たちの、いわば“源流”になっている。
NTCI設立までの大まかな経緯を説明すると、ダムなど水源開発に高い技術力を持っていた旧日本技研と農業水利に関するシミュレーション解析などを得意とするクラウンエンジニアリングが合併し、2005年6月に「日技クラウン」が誕生している。その後、太陽コンサルタンツと日技クラウンは両社の持株会社として「NTCホールディングス(株)」を2007年4月に設立。国内事業会社と海外事業会社に分割・統合し、海外部門を推進する中核組織として発足したのが現在のNTCIである。太陽コンサルタンツと日技クラウンは、それぞれ得意とする“持ち味”を生かし、統合・補完し合いながら、日本の政府開発援助(ODA)や開発協力事業に対しおよそ半世紀にわたり、貢献してきていると言える。
――これまでの“財産”をどう捉えられていますか。
私たちNTCIの真価は、合併・統合した3社のDNAを受け継ぎながら、発足から16年に及ぶ取り組みに発揮されていると思う。この間、手掛けたODAプロジェクトは70カ国・240件以上になる。一つのフラッグシップ的なプロジェクトをクローズアップするよりは、これだけの多様な案件を万遍なく、かつ責任を持って最後まで実施してきたことが私たちの財産だ。もちろん、そこで積み上げた経験と技術は社員に脈々と受け継がれている。
CARDへの貢献、粘り強く
――御社が得意とする農業分野も協力内容が変わってきています。
創業からこれまで、ODA予算や援助潮流の変遷を注意深く追っているが、やはり大きな変化が起きている。灌漑施設などインフラが重視された時代から、1980年代頃からはソフト型、参加型重視へと大きくシフトした。そして、気候変動や防災・災害対策など新たな角度から再びインフラ整備が脚光を浴びている。
ハード・ソフト両面が大事なのだという認識が定着する中、特に注目が集まっているのが、国際協力機構(JICA)が展開する市場志向型農業振興(SHEP)アプローチであり、アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)の取り組みである。これら「日本発」のアプローチが非常に有効だということで、その手法は世界的に広まっており、JICAは国際農業開発基金(IFAD)などに“アプローチ丸ごと”売り込むなど戦略的な展開を図っている。国際機関などの事業でもコンセプトや手法を使ってもらい、世界で小規模農家100万人が恩恵を受けられるようにすることが目標の一つだ。
もちろん、私たちも農業分野のトレンドやアプローチについては弛まなく研究を続けており、SHEPやCARD、さらにフードバリューチェーンにも注力している。特にCARDについては、無償資金協力によるインフラや機材の整備、栽培技術や水利組合強化を指導する技術協力プロジェクト、これらの前段となる開発調査、JICA筑波での稲作にかかわる行政官らの本邦研修業務にも従事した。またCARD開始10年目に実施されたマニュアル化に際し、そのとりまとめ業務なども当社が担当しており、CARDについてはほぼすべてのスキームでサービスを提供している。
――ロシアのウクライナ侵攻により、特にアフリカ諸国の食料安全保障は揺らいでいます。“地に足のついた”支援としてもCARDの一層の展開が期待されます。
ウクライナ産の安価な小麦が手に入らなくなり、より割高なカナダ産やオーストラリア産に切り替えざるを得ない国々が増えている。緊急食糧援助などはあくまでも急場しのぎであり、やはり食料自給「力」を上げていく粘り強い取り組みが重要だ。時間はかかるが、私たちとしては絶対支援していくべきだと考えている。
海外の経験を国内に
――NTCIは平和構築分野でも息の長い取り組みを続けています。
業界で初めて「平和構築部」という専門部署を設置したのは当社だ。以来、コンゴ民主共和国やウガンダ、ブルキナファソ、さらにレバノンなどで国内避難民・難民やホストコミュニティ支援の各種事業を行ってきた。近年は「復興支援」を同じ文脈に位置づけ、国内・海外の垣根を超えた取り組みを続けている。
国内では、福島第一原発の事故の影響を強く受けた飯舘(いいたて)村長泥(ながどろ)地区の除去土壌再生利用技術に関する実証事業を環境省から受託している。承知のとおり、原発事故により膨大な汚染土が発生した。いずれ最終処分されるわけだが、その容積を減らすことは必須の課題になっており、各方面で研究・実証活動が行われている。その一つとして除染土に一定の処理を施し、放射線量の安全値を下回る「再生資材化土壌」として農地の下層に敷き、非汚染土で50センチほど覆って、田畑として活用できるかどうか、その実証事業を行っている。花や水稲など実験的な作付けを行い、放射性セシウム値の測定など安全性の検証を行い、営農の対象となり得るのか、さまざまな角度からデータを収集し、5年間にわたり実証事業を続けている。
長泥地区は昨年、帰還困難区域を解除された。ただ、戻る住民もいれば、避難先で生活基盤を固め、新しい暮らしを始めた方々もいる。その一人ひとりの心情や思いに寄り添いながら、細心の注意を払い、多様なステークホルダーの間に立ち調整業務を進めている。こうしたアプローチは海外の平和構築・復興支援や開発協力事業と同じであり、「開発」コンサルタントの真髄があると考えている。
今後は飯舘村に限らず「国内の経験を海外へ。海外の経験を国内へ」の考えの下、取り組むべき課題・問題があればNTCグループ企業とも連携し、積極的にサービスを提供していく考えだ。
――事業領域の拡大と人材確保にはどう取り組まれますか。
まずは基軸を置くODAにしっかりと取り組む。その上で中小企業の海外展開支援など民間連携分野をさらに活性化させ、事業の新たな柱に育てていく。優秀な人材の確保は成長の大きな鍵であり、意欲に満ちた多様な人材を惹きつけられるように「NTCインターナショナル」というプロ集団の存在感を高め、日本社会や世界からも一層“Visible”な会社となっていきたい。
こうした努力がひいては、開発コンサルタント業界全体の発展にもつながっていくと考えている。
NTCインターナショナル(株)の主要プロジェクト紹介
■農業開発/農村開発
行政官や農家に対する営農や灌漑管理の能力強化を通じて、スーダンの市場志向型灌漑農業を推進。
スーダン|リバーナイル州における市場志向型農業および灌漑スキームの組織とその運営能力強化プロジェクト
スーダンのリバーナイル州は全世帯数の約8割が農業に従事し、同国屈指の食料供給基地だが、乾燥地帯であることから、灌漑開発を通じた灌漑農業の推進が不可欠である。この協力では、研修やパイロット活動の実施を通じて農家および灌漑管理組織の灌漑・営農技術の向上やスーダン政府の技術普及環境の整備を行うことにより、市場志向型灌漑農業の普及体制を確立させ、農家の農業所得向上を目指している。同国では2023年4月に国軍と準軍事組織の武力衝突が発生し、現在も日本人専門家の現地入りは困難な状況だが、現地スタッフや同国政府職員の協力のもと遠隔手法を用いて順調に業務は進捗している。
■水資源・灌漑開発
ため池や水路など灌漑施設の改修を通じて、ルワンダにおける水田稲作の農業生産性を向上。
ルワンダ|ルワマガナ郡灌漑施設改修計画
ルワンダにおいて農業セクターは、全就労人口の約7割が従事する主要産業である。同国では、天水農業が大部分を占め気候変化の影響を受けやすいことから、灌漑開発を開発の最優先課題に掲げている。水田稲作の適地とされる同国東部県のルワマガナ郡では、1980年代から灌漑施設を活用しているが、近年施設の老朽化による機能低下が課題であった。この協力では、既存の低湿地灌漑施設の改修を行うことで、灌漑機能の回復・改善を図り、同国の農業生産性向上に貢献した。さらに、ハード・ソフトの相乗効果を狙いとして、同サイトでは現在、灌漑水管理改善に係る技術協力を実施中である。
■農業開発/地域開発
農牧業の調査・分析やパイロット事業を踏まえて、モンゴルの農牧業バリューチェーンを振興するマスタープランを策定。
モンゴル|農牧業バリューチェーンマスタープランプロジェクト
モンゴルの農牧業は、労働人口の約3割が従事する同国の基幹産業だが、生産・加工・流通の各段階において、寒冷期の不安定な生産・供給体制、加工技術水準の低さ、物流網の未整備などの問題を抱えている。この協力では、同国の食糧・農牧業・軽工業省および経済開発省が連携し、NTCIのコンサルタントチームと協力して、同国農牧業分野の政策・制度や主要な農牧産品(野菜、果樹、食肉、獣毛、養蜂など)について調査分析を行い、さまざまなパイロット事業を計画・実施するとともに、その結果を踏まえて、農牧業バリューチェーン振興に係るマスタープランを策定した。
■復興支援/平和構築
多様な栽培実証を住民参加のもとで実施し、東日本大震災後の「農の再生」を支援。
福島県|飯舘村長泥地区除去土壌再生利用技術実証事業
福島県相馬郡にある飯舘(いいたて)村では高原地帯の冷涼な気候を生かした畜産や農業が営まれてきたが、東日本大震災による原子力発電所からの放射能汚染の影響で同村は帰還困難区域に指定された(2023年5月に指定解除)。同村の長泥(ながどろ)地区では、再生資材で盛土した農用地において資源作物、食用作物、花卉(かき)類の栽培を行い、栽培による放射線安全性の確認、放射性セシウムの植物への影響(移行係数など)を調査する実証事業を住民参加のもとで実施しており、震災後の「農の再生」を支援し発信している。
『国際開発ジャーナル2024年8月号 創業55周年スペシャルインタビュー』に掲載
(本内容は、取材当時の情報です)