<有償資金協力(本邦技術活用条件)>
インドネシア ジャカルタ都市高速鉄道南北線建設事業 フェイズ1
コンサルティング
㈱オリエンタルコンサルタンツグローバル
日本コンサルタンツ㈱
パシフィックコンサルタンツ㈱
限界に達した首都圏の交通渋滞を緩和する
工区 CP101 高架部:1.2km,高架駅:1駅プラットフォーム長130m,車両基地:8.3ha
CP102 高架部:4.7km,高架駅:2駅プラットフォーム長130m
施工企業 東急建設㈱ 所長:亀廼井寿明氏、野村泰由氏
プロジェクトの背景
インドネシアのジャカルタ首都圏では、近年の急速な経済発展に伴い、世界最悪といわれるほどの交通渋滞が昼夜を問わず発生している。感覚としては、人口が同規模の東京に地下鉄がない、という状態に近い。首都圏で登録された全ての自動車とオートバイの占有面積が道路の総面積を超えているにもかかわらず、鉄道などの公共交通機関の整備が遅れているのがその主な原因である。このような状況を打開するために、首都中心部における大量高速輸送(MRT:Mass Rapid Transit)の必要性が1980年代から議論されていたが、種々の要因で実現しなかった。日本政府とインドネシア政府は、その間も調査と交渉を重ね、2009年に本「ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)南北線建設事業」を日本の有償資金協力、本邦技術活用条件(STEP)で実施することに合意した。10年には本事業のフェイズ1の基本設計が完成し、その後の国際入札を経て、12年には受注企業が決定したが、地下や高架の土木工事、鉄道システム・軌道工事、車両製造に至るまで、すべてのパッケージを日本企業がプライムで受注した初のオールジャパンとインドネシアによる海外鉄道プロジェクトとなった。また、路線の一部に地下トンネル部分が含まれており、インドネシアにおいては初めての地下鉄となった。オリエンタルコンサルタンツグローバル(OCG)は、この事業に国際入札支援業務から施工監理まで参加しており、日本勢による初めての海外鉄道プロジェクトを成功に導くことができ関係各位には深く感謝している。
全てのパッケージを本邦企業が受注
工区 CP103 高架部:3.9km、高架駅:4駅プラットフォーム長130m受電所
施工企業 ㈱大林組 所長:加藤浩氏、中村直人氏、清水建設㈱
プロジェクトの全体像
本事業のフェイズ1では、全長15.7kmの土木工事(全13駅)と鉄道システム、車両納入などが実施された。全体は8工区で構成されているが、本稿では主に土木工事と駅舎建設を行った6工区(CP101~ CP106)を紹介している。各工区の施工内容は各ページの枠線内を参照されたい。本プロジェクトでは施工企業が設計と施工を行い、コンサルタントはその設計の照査と施工監理を行う、いわゆるデザインビルド方式が採用された。土木事業は国際コンサルティング・エンジニア連盟(FIDIC)のイエローブックを、鉄道システムと車両に関してはFIDICのシルバーブックを参照して契約書が作成されている。
困難を乗り越えて工期内に竣工
工区 CP104 トンネル部:1.9km 地下駅:2駅プラットフォーム長130m
CP105 トンネル部:2.0km 地下駅:2駅プラットフォーム長130m
施工企業 清水建設㈱ 所長:大迫一也氏、坂本雅信氏、㈱大林組
困難を極めた工期
地下工区は13 年8 月に、高架工区は13年11月に工事が着工したが、地下部は地下駅の換気塔や冷却塔の用地、高架部は車両基地や高架駅、バイアダクト(高架橋)の用地収容が完了していないことが発覚した。また、水道や電気などの主要なUtility施設は工事着工までにそれぞれのオーナーが移設するという契約の前提条件も守られていなかった。さらに、着工後に施工企業が詳細設計を開始したが、耐震基準の変更と鉄筋材料の使用制限により全土木事業者は大幅な設計変更を要求され、工事数量が約2倍になった工種も発生した。工事は非常に複雑になり、コンサルタントも施工企業もその対応に追われた。同国では19年4月に大統領選挙を控えており、施主側は同年3月の竣工を大統領から厳命されていた。しかし、用地収容の遅れにより工期が間に合わない懸念が出たため、ジャカルタ特別州政府に依頼して、14年11月から月例建設調整会議を開催し、用地収容とUtility移設のモニタリングを開始した。それにもかかわらず16年の8月の時点においても用地収容は完了しなかった。これ以上の遅れは許されないと判断し、コンサルタントの長としてジャカルタ特別州の知事に直訴した。知事は用地収容の遅延を知らず、報告をしなかった施主の経営陣を交代させて知事自ら住民と対話を行い、用地収容の解決に乗り出した。用地収容は徐々に進展し、大部分は18年3月に完了した(53カ月遅れ)。
この時点で最大21カ月の工事の遅れが発生しており、工期を取り戻すために施工企業はアクセラレーション(工事促進の突貫態勢)を要求された。それに対応して各施工企業は労務・資器材の追加投入をすることにより13か月の工期短縮を行い、19年3月の竣工を実現させた。そして、4月の大統領選挙の直前に、MRT南北線は営業運転を開始したのである。選挙ではジョコ・ウィドド大統領が再選を果たしたが、同大統領が知事時代に計画した本事業(のフェイズ1)の完成が再選を後押しした形となった。一方においては、用地収容やUtility移設の遅れに加え、膨大な設計変更によって本事業フェイズ1の全契約企業の原契約は1,100億円であったものが、約600億円(約400件)以上のクレームが発生している。工事が極めて複雑になり、コンサルタントも施工企業も工費の清算に向けて現在も対応を続けている。
効率的な地下鉄網のさらなる拡充に向けて
工区 CP106 トンネル部:2.0km,地下駅:2駅プラットフォーム長130m
施工企業 三井住友建設㈱ 所長:花木茂夫氏、諸田元孝氏
本事業の効果と今後の展望
本年4月の開業以来、地下鉄南北線の乗客は順調に増加し、現在は1日に9万人以上が利用するまでになった。早朝の5時30分から深夜の12時まで運行し、ラッシュ時は5分間隔で乗客を運ぶ。南北線の南端から北端まで車で行く場合、渋滞にあえば2時間以上かかることも珍しくない。それが地下鉄を利用すれば片道28分である。短時間で、時間通りに目的地に着く南北線の市民からの評判はうなぎのぼりである。また、駅の周辺の駐車場の整備、バスや他の鉄道との乗り換えの容易さ、駅と周辺の建物(ショッピングセンターなど)との隣接化などによっても新路線は市民から高い評価を得ている。さらに、整列乗車や電車内の静謐さの維持など、南北線では乗車マナーが格段に向上していることも注目されている。現在進行中の南北線の延伸工事(フェイズ2:約6km)が完了し、北端のブンデランハイ駅と既存鉄道のコタ駅が結ばれると、さらに交通渋滞の緩和と公共交通機関の利便性の向上に貢献できるようになる。その後には、総延長87kmのMRT東西線(バララジャ-チカラン間)の建設も計画されており、南北線のサリナ駅で交差することになる。これが実現すればジャカルタの都心部の移動の利便性向上はますます拍車がかかる。わが国の都市部における旅客の高速大量輸送の技術やノウハウがインドネシアでさらに活用されることを期待したい。
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