コンサルタントの展望 vol.3
中央開発のトップに聞く

中央開発(株) 代表取締役社長 瀨古 一郎氏
東京大学工学部反応化学科を卒業。(株)日立製作所を経て、1988年に中央開発(株)に入社。(財法)リバーフロント整備センター出向などを経て、2003年から現職

 

 
  

ボーリング調査などの独自技術で売り込み強化

  
 
連載「コンサルタントの展望」は、開発コンサルティング企業のトップに今後の戦略をはじ め、政府開発援助(ODA)への展望を語ってもらうリレー連載だ。第三回目は、地盤技術分野で強みを持つ中央開発(株)の代表取締役社長、瀨古一郎氏に今後の事業展開の方向性を聞いた(聞き手:本誌社長・末森 満)

 

社内でアイデア募り事業に生かす

―2018年の完成工事高93億円のうち、海外は9,200万円で、国内事業が大きな割合を占めています。

 国内事業、特に公共事業が好調だ。2013年から15年にかけては福島第一原子力発電所における凍土遮水壁整備事業の一部を、14年から17年には辺野古の海上調査を手がけた。国内事業に占める官民比率はおよそ6対4で、官庁が主な取引先だ。事業比率で見ると、約60%が地盤技術分野で、その他、防災や観光を含めた計画と土木設計、地盤環境の分野が各15%程度を占めている。海外事業は4%に過ぎない。

―地盤技術分野の比率は今後も維持する予定ですか。

 当面は変わらないだろう。当社は技術の質で他社との差別化を図っているし、今後もそうありたい。 2014年には斜面防災の早期警報システムが内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に選定された。同プログラムは、科学技術の発展を目指して、基礎研究から事業化まで総合的に支援するものだ。現在は中国や台湾、オーストラリア、スリランカ、インド、ブータンで社会実装を行っている。ブータンでは国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクトの一環で、国道斜面のモニタリング事業を手がけている。 社内では今年、第三回イノベーション・ソリューション・プログラム(ISP)を実施した。同プログラムは、社内でアイデアを募集し、一番良かったものに賞金を与えている。17年前に第1回を開催し、以後数年おきの頻度で実施している。ここで入賞したものの一部がSIPに生かされている。

―社員数は国内外含め約350人ですが、うち技術系社員の割合はどのくらいですか。

 7割程度だ。技術者の半分以上は技術士や地質調査技士の資格を取っている。資格を取得した人には取得手当を出している。各社員にコンサルタントとしてオンリーワンの存在を目指してほしいとの思いからだ。それが総じて会社の力につながり、企業としてもオンリーワンになれると考えている。

 

中国で海外展開を模索

―一方、海外事業の完成高は2017年の半分程度に減っています。

  JICAの資金ショートの影響で、2018年は非常に厳しかった。当社は1965年に海外技術協力室を設置した。その後、ベトナムやマレーシアなどで現地調査に携わり、85年に海外事業部を独立させた。一つの事件を契機に、90年から中南米に展開したが、収益面や訴訟事などで海外事業では苦労した。2019年5月には、政府開発援助(ODA)で実施していたブラジル・サンパウロ州の無收水削減事業が終わり、一巡した感じだ。 中南米での経験から、前社長が「遠大長」、つまり遠いところ、大きなもの、長期のものをやめると決断し、目を向けたのが中国での国際協力事業だ。当社は2008年の四川大地震の調査団に加わってから、日中技術交流を手がけてきた。この交流をきっかけに、中国の電力中央研究所や鉄道科学研究院などへのチャンネルができた。これらのつながりを軸に、SIPの斜面監視プログラムの技術開発を活用した案件を受注している。13年には成都に現地法人を設立した。中国は現地法人がないと現地の入札に参加できないので、必要にかられての判断であった。現地では社員を3人雇っており、2,000万円の売り上げで黒字になる規模だ。3年くらいで何とかなればと思っていたが、おかげさまで2年目から黒字化している。

―中国以外に、今後注力したい国はありますか。

 ブラジルでの事業展開を模索しており、ODA以外の仕事を積極的に取っていきたい。2010年以降、日本の農水省が中心となって行っている中南米日系農業者団体連携強化交流事業に当社も協力している。現在は農業用種子や資機材を販売する合弁会社の設立に向けて準備中で、斜面監視システムの営業も始めたところだ。そして、同様の形で東南アジアに進出したい。東南アジアはJICAの仕事が多く、日本にとって一大マーケットであるからだ。地盤は場所によって違いがあるため、技術者の感性や経験が必要になる。当社はボーリング調査や地震波の解析など、他社にはあまりない特殊な技術を持っていて、これらの技術を売り込む先を探しているところだ。これまで平均的に海外案件の比率は4%ほどだが、これを5%にまで高めたい。

 

現地企業とのJVで案件獲得へ

―ODA事業の展望と課題は。

 新たなODA案件を発掘していくことは、当社の課題の一つだ。今後は現地のコンサルティング会社とジョイント・ベンチャー(JV)を組み、案件を取っていきたい。サンパウロ州で手がけたODAも、欧州の大手建設コンサルティング会社の現地法人とJVを組んで行った。JVに慣れているのは、他社にはない強みだ。

―海外事業の収益確保に向けて、2018年に組織を見直しています。

 当社には、JICAや国際開発金融機関などの案件を扱う海外事業部のほかに、日中科学技術交流や国際的な共同研究を手がける技術センター、防災モニタリングや探査計測を手がけるソリューションセンター、ゼネコンからの業務委託などを手がける東京支社がある。各部門には、海外事業の獲得につながり得る人脈や技術がある。これらの部署が能動的に海外事業に参加できる仕組みが必要だ。具体的には、各部署が持っている人脈を生かしつつ、技術開発をベースに案件作りにつなげていく。オーソドックスだが、このルーティンが自然に回るよう、部署横断的な仕組みを整えていく。

―開発コンサルティング業界で生き残るのに必要なものとは。

 世界の動きを見ながら戦略を考えることが重要だ。100兆円と言われるインフラ・マーケットにおいて、世界のトップコンサルティング企業は事業規模の拡大に動いている。日本の大手コンサルティング企業も追随しているが、規模の競争は大手に任せ、当社としては持ち味と質で勝負したい。日本のコンサルティング企業の強みは、現地に密着しながら、きめ細やかに対応できる点だ。この姿勢を内部標準化して差別化を図り、グローバルなマーケットにおいて生き残りを図っていきたい。

『国際開発ジャーナル』2019年11月号掲載
#コンサルタントの展望 #中央開発

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