環境・エネルギーや食料・人口問題など地球規模の課題に挑むグローバルリーダーの輩出を目指し、2013年、京都大学に総合生存学館(通称:思修館)が設立された。
この大学院の最大の特徴は、多様なバックグラウンドを持つ学生が集まり、互いの知見を共有しながら実践的な学びを得られる点にある。理系・文系の幅広い研究分野から地球規模の課題解決を目指す学生のニーズに応えられるよう、専任教員に加え、他研究科・研究所の教員も含めた「複数指導教員制度」を採用している。学生の学問背景や専門研究分野が多岐にわたるため、学生一人一人に応じた「テーラーメイド型」のカリキュラム設計にも力点が置かれている。学生たちの対話型高等研究の実践の場として、合宿型研修施設や京都郊外の研修施設も充実している。
5年一貫博士課程の思修館では、実務経験を積みながら、学位取得を目指せる。学生は、1〜2年次に国内でのボランティア活動「サービスラーニング」を行い、3〜5年次には国際機関や国際NGOなどで実務を学ぶ「武者修行」と「プロジェクトベースリサーチ」に挑む。5年間の最終審査では、研究論文に加え、TOEFL iBT100点相当の英語力が求められる。
「熟議」と「八思」と呼ばれる授業も思修館の大きな特徴だ。「熟議」とは、世界のトップリーダーの講義と問答を通じて地球規模の課題解決に向けた力を養う特別セミナー。「八思」は総合的な学術基盤となる、人文・哲学、経済・経営、法律・政治、異文化理解、理数、医薬生命、情報・環境、芸術の8分野を指し、専門以外の領域も学ぶことで俯瞰的に社会を見通す力を育てる。
先生に聞きました!
総合生存学館(思修館)准教授
関山 健先生
国際政治経済学、環境政治学、開発政治学が研究テーマ。
思修館が設立されてから7年以上がたちますが、博士の学位を得た学生たちは現在、国際機関や政府系機関、グローバル企業のスタッフ、コンサルタント、社会起業家などとして世界を舞台に活躍しています。
「京都大学から国際協力キャリアを目指すなら思修館」。この事実をさらに多くの人に知ってほしいと思っています。日本では、5年もの期間を大学院で過ごすことに抵抗を感じる人がまだ多いかもしれません。しかし、国際機関などで国際協力キャリアを築くためには、「博士号」の取得は、いわば最低条件ともいわれます。
思修館には、大学院に在籍しながら世界で実務経験を積む「武者修行」の場があります。在学中、国際機関などで行う「最低半年間のインターンシップ」が修了の条件に含まれており、各機関で仕事を始めるための第一歩を踏み出すことが可能です。
思修館の教育プログラムには、国際機関などとの強固なネットワークをつかむ仕掛けがあります。
年数回、国際機関や政府関係機関などで活躍する先駆者を講演者として招く「国際教育セミナー」もその一つです。
社会のトップリーダーと徹底的な議論を交わす特別セミナー「熟議」も、実社会で活躍するための鍛錬の場となっています。
私が主宰するゼミには、難民や少数民族、ジェンダー、政府開発援助(ODA)と国益など国際開発の問題をテーマに研究する学生や政治経済の課題を扱う学生が多く在籍していますが、共通しているのは皆、政治と経済の複合的な問題を、既存の学問分野のアプローチにとらわれることなく分析しようとしている点です。
また、思修館には理系の研究分野に携わる教員や学生も多く在籍しています。理系、文系を問わず専門を深めらるカリキュラムを通じて、ぜひ国際協力実務で活躍する博士号取得者を目指してください。
学生さんに聞きました!
渡辺 彩加さん 博士一貫課程 3年(取材当時) 中村 彩さん
小学生の時に読んだ絵本がきっかけで、紛争で傷ついた子どもたちを減らしたいと考えました。大学生になり、5年一貫博士課程で、3-4年次に国際機関でインターンシップができる思修館のことを知り、進学を決めました。
現在、ミャンマーの国内避難民や少数民族の教育問題について研究しています。ミャンマーには、国連が運営する避難民キャンプ以外に、僧院学校に避難する子どもたちも存在します。その実態の把握は難しく、私はたびたび現地に入って調査を続けています。
思修館には、多様な国の留学生や学ぶ意欲の高い学生が多く、授業以外でも日々活発な議論が交わされています。多様な専門性や鋭い視点を持つ同じ大学院の学生との対話はとても刺激的で、時に自分の力不足を感じることもありますが、それも研究の大きな原動力になります。
現在、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日事務所でのインターンシップに挑戦中。将来は難民や避難
民を支援する仕事がしたいです。
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