―長大は 2022 年 3 月、55 周年を迎えられますが、2030 年に向けた経営戦略は。
今は変化が激しい時代で、20年、30年先がどうなるかわからない。そこで2019 年、当社の長期経営戦略として「長期経営ビジョン2030」を策定し、ダイバーシティ(多様化)の推進、持続可能な社会形成への寄与、グローバル体制の強化など8つの目標を掲げた。
その際「いずれは持株会社をつくろう」とも記して、2021年10月に人・夢・技術グループ(株)を立ち上げている。これは今後、仲間(グループ会社)を増やすためには、長大がそのまま持株会社になっているよりも、新たな持株会社を作った方がよいとの判断によるものだった。
持株会社の社名については、グループ各社の代表者で話し合い、長大の合言葉「人・夢・技術」を用いて「人・夢・技術グループ」とすることにした。
持株会社の直下に当社を含め6社の子会社がある。基礎地盤コンサルタンツ(株)や(株)長大テックのほか、2022年10月には栃木県の(株)ピーシーレールウェイコンサルタントが新たにグループに加わった。当社の海外子会社もベトナム、インドネシア、フィリピン、マダガスカルなどで展開している。
―定評のある道路インフラ整備にとどまらず、グループ会社を生かして医療関連や都市計画といった他分野にも進出しますか。
その通りだ。グループ会社にはソフト系を得意とする企業もあり、道路交通情報の提供やデマンド交通を得意とする順風路(株)もその一つだ。当社は橋梁や道路、そして、それらに付随する道路環境に関する調査、計画、設計をメインで手掛けてきた。それは今も変わらないが、そこから総合コンサルタント企業になるには、幅広い分野に関わっていく必要があるので、港湾・河川や街づくり、PFIといった案件にも参画している。
それでも、コンサルタント分野が20を超える中で、当社はまだ10数分野の参画にとどまっている。大手コンサルタント企業は、ほぼ全ての分野をカバーしているので、もっと参画分野を増やしていきたい。ピーシーレールウェイコンサルタントも、栃木県は当社が強くない地域だったため、グループ会社になったというのは大きい。
海外企業についても、買収やアライアンスを組むかという提案はいくつか来ているが、マッチングなどの条件が整わず難しい。海外の子会社は、当社の100%出資や地元のコンサルタント企業との共同出資など多様性がある。
―海外案件の展望は。
当社は創業間もないころから海外案件に参画している。つり橋など特殊な橋梁を扱えるコンサルタント企業は限られていたので、よく声がかかった。実績のある海外におけるインフラ関連事業を右肩上がりにしていきたいという思いは強い。
現在、海外案件の売上の比率は全体の8%程度だが、2030年までに 20%程度まで引き上げるのが目標だ。また「長期経営ビジョン2030」では連結の売上高600億円、営業利益50億円を目標に掲げている。600億円のうち、海外案件は100億円ほどを見込む。今期の連結の売上高は420億円ほどで、中期目標を達成している。2030年より前に600億円を達成できそうなペースだが、国内案件にはあまり伸びしろが見込めないので海外事業に力を入れる。
―海外事業で重点を置きたい地域・分野を教えてください。
当社の子会社があるベトナム・フィリピン・インドネシアに重点を置き、そこから近隣国に派生・展開を目指す。特にインドネシアはカリマンタン島に首都を移転する話があるため、それによって新たな市場ができるとの期待が大きい。
ベトナムでは日本の政府開発援助(ODA)の事業だけでなく、同国政府が発注する案件を直接受注していきたい。また、同国の子会社を当グループ全体の「BIM/CIM センター」に位置付けた。今年から、日本の国土交通省が発注するインフラ関連の全ての業務に、計画段階から3次元モデルで情報共有し建設を進める「BIM/CIM」が必須となる。そのため二次元・三次元の図面製作を BIM/CIM センターが一手に引き受ける体制にすることで、効率化を図っているのだ。
当社のメイン分野は道路・橋梁・鉄道だが、最近はアジア各国で太陽光発電、小水力発電、ごみ焼却発電など再生可能エネルギーに関する案件も、当社単独で始めた。この分野の潜在市場は大きいと思うので、これから拡げていきたい。
アフリカも、あと50年は人口増加が続くと予想できるので、当社の関われる案件が増えると見込んでいる。治安が悪化する前はモザンビークで、現在はマダガスカル、ケニアなどで ODA 案件を実施している。
国内事業では北海道・更別村のデジタル田園都市(スーパーシティ)構想や、2025 年の大阪・関西万博に向けた「空飛ぶクルマ」の社会実装にも関わっている。
―女性社員も増やしたと聞きますが、人材育成の展望は。
当社では現在、全社員の約20%が女性だが、今後5年以内に30%まで上げたい。少子化が続く中、女性の活躍は必須だし、優秀なエンジニアや留学生の確保も課題だ。留学生に選ばれる日本で在り続けなければならない。
全体の展望としては、グループ会社の強みをお互いに生かし、足りない部分は補い合って相乗効果を狙う。「人・夢・技術」のキーワードに沿って、社員一人ひとりの夢と最先端の技術で、地方や途上国の振興を図る。
また、毎年発生する世界各国の災害への対応も重要だ。当社を含めグループ会社が現地にあれば、すぐに対応が可能だし、現地のコンサルタントに動いてもらって当社やグループ会社が後方支援に回ることもできる。日本全国でも全都道府県に拠点をつくって、同様の対応ができるようにしたい。
株式会社長大 代表取締役社長 野本昌弘氏
大阪府出身。1983年、金沢大学工学部建設工学科卒業。同年4月に長大橋設計センター(現・長大)入社。2010年12月に取締役上席執行役員構造事業本部長、16年12月に海外事業本部長に就任。専務執行役員を経て21年12月から現職
国際開発ジャーナル2023年2月号掲載