大学の国際化最前線|高知大学次世代地域創造センター

インターネット活用で農業の効率化を進め、外国人向け研修も実施

農家減少やコスト増への解決策

 温暖な気候の高知県は農業が盛んで、1ヘクタールあたりの園芸作物の産出額は全国 1 位というデータもある。ナス、ショウガ、ニラ、ユズなどは国内トップの出荷量を誇る。

 高知県には「県全体の 84%が森林で覆われており、農業に適した平地が少ない」「大都市まで運ぶ輸送コストがかさむ」といった課題もあるが、その解決策として施設園芸農業に特化して生産を行っている。その施設園芸農業をさらにビッグデータ、人工知能(AI)などを活用して進化させたものが IoP(Internet of Plants)だ。「IoPは、モノのインターネット化を意味する IoT(Internetof Things)から生まれた造語です。われわれは高知県や県内の企業・農協などと協働して、IoP の研究と普及を進めています」と、高知大学次世代地域創造センターの石塚悟史センター長は語る。

 IoP とは、作物生産を決定づける光合成や成長などの生理生体情報を「見える化」して、生理生体情報に基づく合理的な営農支援情報として「使える化」を行い、それらの情報を産地で「共有化」する仕組みだ。例えば「園芸施設内の温度を1℃上げると燃料代がどれだけかかり、いつ、どれぐらい出荷できるか」がわかれば、燃料代に対して利益の出る出荷量を見積り、適切な台数のトラックを手配できる。ビニールハウス内の二酸化炭素農の量を調整して、日射量に合わせた最適な光合成を促す試みもある。「農業従事者が減っていることから『楽して儲かる』農業の仕組みをつくる必要があります。それを形にしたのが IoP ですね」(石塚センター長)

IoP の現場や農作物の6次産業化を視察

IoP 推進の取り組みは世界にも広がっている。高知大学では 2013 年から国際協力機構(JICA)の職員が出向して、開発途上国の行政職員、大学教授、NGO 職員などを対象とした研修を企画・運営したり、同学の学生に国際協力関連の講義を行ったりしてきた。同研修には、過去 10 年間で 95カ国から約 500 人が参加したという。

 昨年 11 月~12 月にも、同学と JICA は農業分野の研修を実施し、アジア、アフリカ、中東などの 17 カ国から参加者が集まった。研修参加者は農林水産省、高知県、JA 高知(農協)などから農業のアグリビジネス振興のためのフードバリューチェーンの話を聞くとともに、民間企業とのネットワーキングも行った。

 また、石塚センター長から IoP の説明を聞き、高知県四万十町のトマト生産者から実例を見学したほか、同県馬路村では特産のユズを飲料や調味料、アロマオイルに加工する現場を視察した。石塚センター長は「研修参加者は講義でも多くの質問、コメントを行い、研修から多くを学び、感謝して帰国しました」と話している。

 

※グローバル化の時代、大学・大学院など高等教育の現場でも国際化が進んでいます。このコーナーでは、アジアをはじめ世界とのさまざまな「知的交流」に向けた取り組みや国際協力を学べる大学を紹介します。情報提供お待ちしています。

 

『国際開発ジャーナル2024年3月号』掲載

(本内容は、取材当時の情報です)

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