ネパール地震の現場を視察し安価な建物補強法を研究
<東京大学>

写真:ネパールを視察中の山本さん(左)


東京大学 生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター

ハード・ソフトの両面で対応

 都市基盤安全工学国際研究センター(ICUS)は、「災害安全社会実現学」「国土環境安全情報」「成熟社会基盤適応学」を研究分野として、安全で豊かな住環境の実現に邁進している。2001年の設立時から関わっている目黒公郎教授(ICUSセンター長)は、災害安全社会実現学の根幹とも言える都市震災軽減工学の専門家として、ネパールやミャンマーなど40カ国以上で防災に関するプロジェクトに携わってきた。

 目黒教授は、「地震の影響を最小化するにはハードとソフトの両面からの戦略が必要だ」と考えている。例えばハード面では、低価格でも効果の高い耐震補強法や津波被害軽減システム、建造物の倒壊や家具の転倒シミュレーションに基づいた予防策などを研究。ソフト面では、開発途上国に適した少額の地震保険やマイクロファイナンスを通じて、建物の耐震化を促す制度の設計と導入法などを研究テーマとしている。

フットワーク力と目利き力

 目黒教授が研究において重視するのは、「フットワーク力」と「目利き力」だ。目黒教授の研究室に所属する山本憲二郎さん(博士課程3年)は、地震で被災したネパールの家屋を視察しながら、耐震性を向上させる塗料の実証実験を行っている。この塗料は、目黒教授が主催する研究会のメンバーである鈴木正臣氏が専務を務める建物修繕会社が製造しているものだ。これならレンガや石を積み上げただけの住居でも低コストで耐震補強ができると「目利き力」を発揮した山本さんは、「ネパールで塗料の効果を実証したい」と目黒教授に申し出た。今年3月の博士課程修了後には、この技術を世界に広めるため、鈴木氏と共に会社を立ち上げる予定だ。

 目黒教授は、「防災には多様な専門性が必要です」と語る。「これまで、理科三類(医学部)を除き、すべての科類から学生が研究室に来ています。医学部に関しては、病院の防災対策の研究もしているので、卒業生との共同研究は実施しています。適切な防災対策の実現には、地域特性と災害発生時の条件を踏まえ、時間経過とともに『自分の周辺で何が起こるか』を適切にイメージし、備えることが重要です。日本と諸外国を同時に見ながら、総合的な戦略を立てて、防災と復興に資する人材を育てたい」。

 教授は現在も、教育と研究の傍ら海外を飛び回り、科学技術振興機構(JST)や世界銀行などが支援する多くの防災プロジェクトに関わっている。さらに、防災ニーズが高まるアジア諸国や中南米を中心にこれまで約30人の留学生と約10人の特別研究員を研究室に受け入れるなど、途上国の人材育成も続けている。彼らが、母国で目黒教授のように活躍する日が待ち遠しい。

『国際開発ジャーナル』2019年4月号掲載
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