パプアニューギニア|ポートモレスビー下水道整備事業 水分野の円借款で初のSTEP適用案件|海外の土木・建設プロジェクト

大洋州

高い技術力で社会インフラの整備と環境保全に貢献

海中放流管

悪化するラグーンの水質

パプアニューギニアの首都ポートモレスビー市は、近年、人口が急増している。それは同時に、水需要の高まりと下水処理の必要性をもたらした。同市には、開発が進む内陸部に3つの下水処理場(簡易な処理方式)がある一方、沿岸部に処理場はなく、汚水は未処理のまま同市に面するラグーン(砂州やサンゴ礁により隔てられた水深の浅い水域)へ放流されていた。これが沿岸水域の汚染の原因となり、サンゴ礁は死滅し、地域住民の生活環境も悪化した。とりわけ、ラグーンは零細漁民の重要な漁場でありラグーンの汚染は漁民や海上生活者の健康だけでなく経済にも深刻な影響を与えていた。

同国政府は問題の抜本的解決を目指して、日本に支援を要請した。これを受けて国際協力機構(JICA)は1998年、同市沿岸部の下水道整備に関するマスタープランとフィージビリティースタディの調査を実施した。それが更新され、2010年に本事業に結実した。水分野で初めての本邦技術活用条件(STEP)適用案件として円借款契約が調印された。

汚泥ポンプ室

日本原産技術の汚水処理方式

本事業で実施されたのは、主に①下水処理場、アクセス道路(1.2km)、海中放流管(地上・水中部合わせて1.6km)の建設、②下水道の建設(幹線12.4km、枝線13.1km)、③ポンプ場の新設(4カ所)と施設の更新(9カ所)、④施設の運用及び維持管理指導(O&Mトレーニング)の4つだ。主要施設である下水処理場の処理能力は1万8,400㎥/日。対象人口は2042年に想定される同市沿岸部の人口約12万6,000人である。処理場の汚水処理方式については、エネルギー消費が少なく、窒素の効率的な除去が可能で水質保全に有効な高度処理オキシデーションディッチ(OD)法が、先方政府の要請で採用された。このOD法の技術は、STEPが要請する「本体契約総額の30%以上が日本原産技術である」という条件に該当している。

管理棟

本体事業は、大日本土木と日立製作所の共同企業体が受注した。大日本土木が土木・建築工事と機械・電気据付工事を行い、日立製作所が機械・電気設備の設計・機材納入を担当した。北九州ウォーターサービスはO&Mトレーニングを担当し、試運転指導や現地運転員のトレーニングを実施。全体の施工監理はNJSコンサルタンツが請け負った。2016年4月に着工し、2018年10月、一期工事完了と同時に施主側による運用が開始された。

汚泥処理棟

住民の健康増進と観光振興も

本事業の実施を受けて、ポートモレスビー市沿岸部に面するラグーンの水質は改善され、ラグーンの生態系が回復し、漁獲量がかつての豊漁期の水準まで戻ると見込まれている。

また、ラグーンの汚染を一因とした観光客の減少に歯止めがかかり、観光客がより長期に現地に滞在するようになる可能性も高まる。そうなれば観光産業の振興にも大きく寄与することになる。このほか、同市沿岸部では下痢などの水系疾患の罹患率が約21.7%と、内陸部の約5%に比べて極めて高い。今後は、沿岸部にで内陸部の水準まで減少すると予想されており、それに伴い住民が支払う高額な医療費が抑制される効果も期待されている。

南側から見た下水処理場

コンサルティング:(株)NJSコンサルタンツ
施設建設及び機材納入:大日本土木(株)(株)日立製作所JV
施設運用及び維持管理指導:(株)北九州ウォーターサービス

『国際開発ジャーナル2018年12月号』掲載

(本内容は、取材当時の情報です)

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