一般財団法人日本国際協力センター(JICE)|トップインタビュー

研修監理員のDNAを生かし新たな課題に挑戦する

設立45年を迎えた(一財)日本国際協力センター事業仕分けを経て新生JICEは着実に成長

一般財団法人日本国際協力センター(JICE)は、今年3月、設立45周年を迎えた。昨年6月から理事長を務める吉田耕三氏に、45年の歩みと実績、新理事長としての抱負、そしてこれからの国際協力とJICEの目指すべき方向について聞いた。

日本国際協力センター( JICE) 吉田耕三 理事長

広がる人づくり支援事業

―日本国際協力センター(JICE)吉田耕三理事長に聞広がる人づくり支援事業─設立45周年をふり返って、これまでの実績と成果をどう捉えていますか。

 JICEは、1977年に外務省と国際協力事業団(JICA、現国際協力機構)が実施する政府開発援助(ODA)に、民間機能を発揮して協力することを目的に設立された。特に、JICAの研修員受け入れ事業では、JICEの研修監理員が、関係省庁や全国の自治体、教育機関、民間組織などの協力のもと、開発途上国の国づくりに必要な人材に専門知識や技術を移転するための研修を担った。

 その後、2010年の事業仕分けによりJICEが担ってきた研修監理業務などがJICA直営で実施されるようになった。そうした経緯を経て、2013年の一般財団法人への移行を契機に、開発途上国だけでなく先進国も含めた国際社会を対象に事業を行えるよう定款を改めた。現在では、伝統ある国際研修だけでなく、途上国からの留学生受け入れ支援や国際交流、さらに日本国内における多文化共生や日本語教育など人材育成分野を中心に幅広く事業を展開している。

 近年のJICE事業の中核となっているのは、JICAの「人材育成奨学計画(通称:JDS)」の実施である。途上国の若手行政官を対象にした奨学金プログラムで、卒業生の多くが各国それぞれの所属機関に復職し、留学の成果を発揮している。JICEは、協力の枠組みを決める準備調査から、留学生の募集と選考試験、滞在中の公私にわたるサポート、帰国後のフォローアップまで総合的な留学支援を行っている。JDS事業の経験を生かして、2011年からはJICAのアフガニスタン復興支援の一つである「未来への架け橋・中核人材育成プロジェクト(通称:PEACE)」を担っている。これによって多くのアフガニスタン政府職員が日本の大学院で農業・農村開発、教育、保健分野の修士・博士号を取得して帰国し、活動している。昨年のタリバン政権成立に伴って、現地で事務を支えてくれた職員や元留学生から国外退避を希望する声が出ており、その支援も課題になっている。

 2014年からは「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(通称:ABEイニシアティブ)」を通じて、アフリカ54カ国の社会人留学生を日本の大学院に受け入れ、日本企業と現地の橋渡し役を果たしている。また、1984年からJICAの委託を受けて実施してきた「青年招へい事業」の経験は、2007年に外務省の「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)」の受注につながった。現在は東アジアに加え、「対日理解促進交流プログラム」としてアジア大洋州や北米、欧州、中南米の若い世代との相互交流を促進し、日本の外交基盤の強化と拡充につなげている。

─日本に滞在する外国人が増えるにつれ、日本語教育などJICEの事業領域も広がっていると思います。

 多文化共生促進事業は新しい分野だ。JICEはかつてJICAの技術研修の一環として「日本語講習」を行っていたが、2008年のリーマンショックの際には、この経験を基に日系人の再就職支援のための就労準備研修を行うことになった。この経験はその後、厚生労働省の「外国人就労・定着支援研修事業」の実施へと発展している。2020年には、主に企業に向けて「外国人財とともに働くための総合サポート」を展開し、外国人社員に向けた日本語講習や生活・習慣のサポート、また日本人社員に向けた外国人と協働するためのワークショップなども行っている。自治体、大学、専門学校など多様なニーズに応じた日本語教育関連の研修やセミナーも提案・実施している。

2つの国際経験を生かす

─新理事長としての抱負をお聞かせください。

 2020年4月まで約45年在籍した人事院は、中立第三者機関として国家公務員の人事管理を担当している。国内の公務員を対象とする業務が大半だったので、国際業務は少ないものの、私は幸運にも採用5年目の1980年から2年間、長期在外研究員として、ドイツのヴュルツブルク大学に留学して、冷戦下の西ドイツで生活する機会を得た。表向きは対立しながら同じ民族として“共通水脈”を持つドイツ人から平和や民族について刺激を受け、さらにはヨーロッパの歴史や文化を学ぶ機会に恵まれた。

 ドイツは戦後復興方策の一つとして自国の学術・文化・芸術を広く広報し、外国からの留学生や大学教員などを積極的に受け入れ、それらに対する支出を惜しまなかった。私のような留学生にもベルリン見学旅行など様々な理解促進プログラムが用意されていた。日本でも何かそうしたプログラムがあれば、と思っていた。

 その後、人事院では、給与勧告などの業務に携わったのち事務総長を経て、2012年から人事官を務めた。人事官時代にはJICA事業として、ベトナムのホーチミン国家政治学院の要望で、人事院研修所の討議型研修を現地で実施する機会を得た。日本の行政経験を伝えるというコンセプトで共産党の幹部職員向けの研修を行った。討議を交えた演習が好評で、JICA理事長表彰を受賞した。日本が資金を出して日本の経験を伝えるという企画に関われたのは、先に話したドイツの経験に由来するところもあったと思う。

 ドイツの国際交流戦略と日本の経験の途上国への継受という2つの経験は、私が国際交流の場で活動していく際には、忘れられない記憶であり、これを大事にし行動していきたいと思っている。

 JICEは民間の組織だが、長く公的な役割を果たし、公共性の高い事業を展開してきた。私もこうした役割を今後もいかんなく発揮できるよう健全な事業・組織運営を行い、求められる課題に応えていきたいと考えている。

コロナ禍で進んだデジタル化

─コロナ禍における取り組みについてお聞かせください。

 2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大は、国際交流や対面事業を中心とするJICE業務に大きな影響を与えている。外国人の入国規制はもちろんだが、検疫期間の長期化は、特に数日や数週間の短い交流や研修においては来日を事実上不可能とした。このため、オンラインのコンテンツ充実などに注力した結果、研修や交流について、何とか質を落とさずにオンラインで実施し続けることができている。

 昨秋は感染者数が大きく低下したので入国制限が緩和されるかと期待したが、オミクロン株によってこの期待も実現しなかった。入国規制や隔離期間が随時変化していく中、現場は苦労しながら状況に応じた対応を取ってきた。JDSをはじめとする留学生受け入れは、来日延期になりつつも中断なく実施したが、来日後の自主隔離の対応には入念な準備が必要であった。就労支援の日本語授業なども感染リスクを心配して受講者が減るなどの影響を受けた。

 一昨年の感染拡大の時から、感染リスクと隣り合わせの厳しい状況に対処するため、情報システムのクラウド化やデジタル化を急速に推進し、職員や全ての関係者の安全を確保できるようオンラインを基本にして業務を行う環境を整えた。こうした基盤整備を踏まえ、本部や支所の通常業務についても、職員の出勤を前提にしない業務遂行態勢が可能になった。オンライン業務を効率的に進めるため、職員間のコミュニケーションの工夫や職員一人一人のデジタルリテラシーを高める研修にも取り組んだ。オンライン上でのファシリテーション技術を高めていくため、社内で知識や経験をシェアする機会も設けている。

 デジタル化の取り組みは、コロナという脅威を前に受け身で始まったが、世界中で活躍している卒業生に対して、帰国後フォローアップの機会を低コストで気軽に提供できることなども分かった。他方、初対面者のオンライン会議では相互の信頼が醸成されていないため、腹を割った本音の話は期待できず、対面でのコミュニケーションの重要性も再認識された。オンラインの利便性を生かしつつ、じっくりと行う対面の研修や交流にも注力していきたい。

「外国人就労・定着支援研修事業」

実践と理論の両面アプローチ

─今後、JICEの目指すべき方向についてお聞かせください。

 JICEは人材育成のプロ集団として、持続可能な開発目標(SDGs)の達成への寄与を目標に掲げている。JICEの活動の中心として、留学生事業、国際交流、専門人材育成研修など海外との国際協力活動はこれまで以上に推進していくつもりだ。これに加えて、今後は日本国内にある「国際的課題」にも積極的に対応していきたいと考えている。少子化が進む日本では、今後ますます外国人の就労が期待されており、多文化共生社会の推進は必須と思われる。こうした中で、外国人に対する就労支援や日本語教育はもちろん、帯同している家族のケアなど様々な取り組みが欠かせない。JICEはこれまで厚生労働省の「外国人就労・定着支援研修事業」を担ってきているが、今後も関係団体と協力しながら、多文化共生社会に資する取り組みを進めていきたいと考えている。地域や環境によって異なるニーズに対応する質の高いサービスを提供していくためには、情報およびその伝達手法をマニュアル化するだけでなく、臨機応変に課題と向き合って解決していく姿勢が必要になる。その際には相手の身になってお世話してきた研修監理員のDNAが生きてくると思っている。途上国支援においては、相手方の誇りを尊重して取り組むことが重要なので、手間もコストもかかるが、一方的に日本の文化や経験を押し付けるのではなく、相手方としっかりコミュニケーションをとって、自ら良い事例を積極的に取り入れて活用したいと思えるような場の雰囲気を醸成する研修や交流にしていきたい。その蓄積によって国と国との信頼関係ができていく。これこそが真の国際交流であり、その場を提供できるのがJICEだと言われるようになりたい。研修や交流プログラムを実際に動かす“実践部隊”からスタートしたJICEは、今も実践部隊的な色合いを強く持っている。他方、JDS事業などを通して人材育成部門では、調査や開発企画というコンサルタント的業務の実績も積んできている。つまり、実践と理論の両方を兼ね備えた組織として成長してきているのだ。今後は組織が一体となって得意分野において、より良い企画を生み、より良い実践をしていく好循環を生み出していきたい。そのために、部内の体制強化を図り、機動的で、職員満足度の高い組織を目指し内部改革にも取り組んでいきたいと考えている。

 

 地域や環境によって異なるニーズに対応する質の高いサービスを提供していくためには、情報およびその伝達手法をマニュアル化するだけでなく、臨機応変に課題と向き合って解決していく姿勢が必要になる。その際には相手の身になってお世話してきた研修監理員の DNA が生きてくと思っている。途上国支援においては、相手方の誇りを尊重して取り組むことが重要なので、手間もコストもかかるが、一方的に日本の文化や経験を押し付けるのではなく、相手方としっかりコミュニケーション をとって、自ら良い事例を積極的に取り入れて活用したいと思えるような場の雰囲気を醸成する研修や交流にしていきたい。その蓄積によって国と国との信頼関係ができていく。これこそが真の国際交流であり、その場を提供できるのが JICE だと言われるようになりたい。研修や交流プログラムを実際に動かす“実践部隊”からスタートした JICE は、今も実践部隊的
な色合いを強く持っている。

 他方、JDS 事業などを通して人材育成部門では、調査や開発企画というコンサルタント的業務の実績も積んできている。つまり、実践と理論の両方を兼ね備えた組織として成長してきているのだ。今後は組織が一体となって得意分野において、より良い企画を生み、より良い実践をしていく好循環を生み出していきたい。そのために、部内の体制強化を図り、機動的で、職員満足度の高い組織を目指し内部改革にも取り組んでいきたいと考えている。

 

JDSの国別・年度別受け入れ実績 (単位:人)

JICE45年の主な歩み

1977
・外務省より許可を受け、財団法人国際協力サービス・センター(ICSC)設立
・村上謙(元JICA理事)初代理事長就任

1978
・JICA技術研修員に対する日本語講習開始

1980
・JICA研修員受入事業の研修監理業務開始 

1983
・JICA研修受託開始

1984
・JICA青年招へい事業受託開始

1988
・長谷川正男(元JICA理事)理事長就任(初の常勤理事長)

1989
・財団法人日本国際協力システム(JICS)の設立に伴い無償資金協力関連業務などを移管

1991
・JICA専門家派遣諸手続業務開始

1993
・財団法人日本国際協力センター(JICE)に名称変更

1994
・外務大臣表彰受賞

2000
・JICA長期研修員受入業務受託開始
・人材育成奨学計画(JDS)受託開始

2007
・外務省「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)」の短期招へい事業受託開始

2009
・厚生労働省「日系人就労準備研修事業」受託

2010
・行政刷新会議による事業仕分け

2011
・JICA「アフガニスタン国未来の架け橋・中核人材育成プロジェクト(PEACE)」受託

2012
・研修監理業務および専門家派遣業務等の直営化に伴い過半数の職員・嘱託がJICAに転籍、国内9拠点を閉鎖

2013
・一般財団法人に移行、山野幸子理事長就任(初のプロパー理事長)

2014
・JICA「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」受託

2015
・5年ぶりに新卒採用職員が入団
・厚生労働省「外国人就労・定着支援研修事業」受託 

2020
・「外国人財とともに働くための総合サポート」立ち上げ

2021
・吉田耕三(前人事院人事官)理事長就任

2022
・JICE設立45周年

企業データ

名称:一般財団法人日本国際協力センター(JICE)
所在地:〒163-0716 東京都新宿区西新宿二丁目7番1号 新宿第一生命ビルディング16階
連絡先:大代表 TEL:03-6838-2700 FAX:03-6838-2701

『国際開発ジャーナル2022年3月号 設立45年スペシャルインタビュー』に掲載

(本内容は、取材当時の情報です)

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