300億ドルの目標達成できず
第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が8月28~30日、横浜で開催される。横浜開催は2008年、13年に続く3回目となる。16年に開かれたTICADⅥは、初のアフリカ開催となり、ケニアの首都ナイロビで開かれた。参加国はアフリカで53カ国。参加者は1万1,000人に達した。
国際会議では、外交面で、また国威発揚という点で、どのくらいのレベルの人たちがどれほど集まったのかが、重視されがちである。だが、そもそもTICADはどうしたらアフリカが発展するか、アフリカの社会・経済発展を専門的に議論し、先進ドナー国がそれにどう応じていくかが問われる会議である。だから、本来は参加者数を競ったり、トップレベルの人たちが何人集まったかなどを競ったりする会議ではない。他国に先んじてアフリカとの国際会議を立ち上げた日本としては、「中国アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)などの物量を誇る挑戦的な政治ショーに動揺することなく、日本らしい協力の道筋を示してほしいものだ。
それにしても、日本は大いに反省しなければならない。それは、前回のTICADⅥで約束した「官民合わせて総額300億ドル規模の対アフリカ投資」が、約半分の160億ドル(2018年9月時点)しか達成できていなかったことだ。その最大の理由は、民間投資が不調だったからだと言う。これで、「アフリカ協力は民間投資の時代」という触れ込みが大いに狂ったことになる。
政府はどう説明するのか判然としないが、大きな見込み違いをしたことになる。政府は民間のアフリカ投資をどう理解していたのか。国際会議での約束が果たされなかったことは、日本の国辱に値しよう。大いに反省しなければならない。ただ、商売は「水もの」と言われるくらい、常に流動的である。簡単にアフリカへの民間投資を増やすと言われても、たった3年間で投資計画が順調に進むものでもない。民間ビジネスとはそういうものである。そうしたリスクは、公約に入れた時から考えなければならない問題だろう。
世界9位のアフリカ投資日本
日系企業のアフリカへの進出状況は、外務省アフリカ部によると2017年10月時点で支店、駐在員事務所、現地法人などを含めると総計796拠点ある。なかでも、南アフリカが282拠点と群を抜いている。次いで、モロッコ(58拠点)、エジプト(50拠点)、ガーナ(44拠点)、ナイジェリア(40拠点)、モザンビーク(29拠点)、タンザニア(22拠点)、ウガンダ(22拠点)、チュニジア(19拠点)、のようである。こうした進出状況は、1960年代初期の東南アジアへの進出状況と同じくらいのレベルではないだろうか。
ところが、アフリカのビジネス環境は決して悪くないという見方もある。世界銀行によるとマダガスカル島近くの小さな島国モーリシャスが、世界ランキング12~14位に入るタイ、マレーシア、日本と同じだと言うから驚きだ。そして、モーリシャスに次ぐルワンダはブルネイ、その次のモロッコはモンゴル、ベトナム、そしてケニアはインドネシア、中国と同じレベルだと言う。
次にアフリカ投資を国際比較してみよう。少々古いデータだが、国連貿易開発会議(UNCTAD)のデータによると2012年の時点で第1位が米国、第2位が英国、第3位がフランスで他を大きく引き離している。続く4位が南アフリカ、5位が中国、6位がシンガポール、7位がイタリア、8位がインド、そして9位が日本という順位になっている。アフリカ投資の御三家である米・英・仏は、それぞれ植民地時代を含めて歴史的な関わり合いが深いせいか、他を大きく引き離している。その主な投資があらゆる地下資源開発(原油を含む)であることは明白である。だから、投資額も大きくなる。
恐らく中国も、農業や資源開発が主な投資分野であろう。シンガポールとインドは提携するケースが見られる。たとえば、水分野の開発で両国は東アフリカ一帯に水供給ネットワークを築こうとしていると聞く。東アフリカ一帯は“印僑の根拠地“であるから、インドにとっては有利な地域である。
とにかく、アフリカ投資の大宗を占めるものは資源開発のようである。日本のアフリカでの資源開発と言うと、たとえばモザンビークでのアルミ開発、マダガスカルでのニッケル開発などが知られている。今では、オフショア原油開発を含めて、日本独自の資源開発は昔に比べてめっきり少なくなり、欧米諸国やオーストラリアなどの大型資源開発に資本参加しながら出資分の資源配分を受け取る時代になっているようだ。つまり、それは資源確保に対するリスクヘッジでもある。恐らく、今後も同じ方式だとしたらアフリカへの日本単独の資源開発投資はそれほど増えないだろう。
治安が最大の投資リスク
最後に、アフリカへの最大の投資リスクを考えてみよう。企業側に立てば、それは端的に言って治安問題だと言う。ケニアでは無法地帯のソマリアからのゲリラが首都ナイロビを襲う。ナイジェリア北部でもゲリラが出没して多大の被害を与えている。貧困に根ざした強盗の類は日常茶飯事で、都市の治安を悪化させる原因になっている。こうした治安問題がアフリカへの企業進出の手かせ足かせになっているのではないだろうか。
現在、日本の企業トップが一番恐れていることは、進出先で犠牲者が出ることである。一人の犠牲者だけで株主総会において経営責任が問われる時代であるから、東京の本社経営陣はそれを恐れ、アフリカへの進出をためらっているのではないだろうか。もっとも欧米企業マンたちは身を守るために、時に拳銃の携帯も許可されていると聞く。日本ではそれは許されない。あくまでも無防備で自己責任、自社責任が問われる。
最後に一言。アフリカは地球最後の巨大市場の楽園だと言われる。ある学者は「アフリカは資本主義の生き残りを賭けた最後の砦だ」と言う。その意味でも、日本の投資家や経営者はアフリカに対するしっかりした展望を持つ必要があるだろう。
※国際開発ジャーナル2019年8月号掲載
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