急がれるビジョンの具現化 インド太平洋戦略とアフリカ開発|羅針盤 主幹 荒木光弥

米国の大盤振舞いの意図

新年おめでとうございます。

2019年は、インド太平洋をめぐる米中の対立がさらに激化することが予測される。そのことを明示したのが、昨年11月17~18日にパプアニューギニアで開催された、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議であった。あの温厚なペンス米副大統領が、中国の「一帯一路」政策をはじめ、相手国の財政能力を考慮しない強引なインフラ輸出商法を厳しく批判した。もっとも、中国とは価値観の違いこそあれ、インフラ輸出で全力疾走している日本にとっては、決して他人事とは言えない状況にあると言える。

米中の対立は、慣例になっている首脳宣言をもまとめることができずに終わった。だが、久しぶりに世界のリーダー国家としての米国の勇姿を見ることができた。米国は「自由で開かれたインド太平洋戦略」として、インド太平洋への総額投資額1兆4,000億ドル(約57兆9,500億円)、そしてインフラ支援として600憶ドル(約6兆8,000億円)という驚くべき巨額の資金投入計画を表明した。これは中国のみならず日本にも大きなインパクトを与えたのではないだろうか。中国の一帯一路政策に基づくインフラ建設に色気を見せていた日本の財界人たちも、米国の大国らしい大盤振舞いには肝をつぶされる思いだったに違いない。

太平洋の見方、考え方

太平洋島嶼国を応援している日本財団の笹川陽平会長は、日本にとって中国の言う「一帯一路」のうち、「一路」が重視されるべきだと主張する。「一路」とはアジア太平洋を意味している。そして太平洋島嶼国は小さな島国の集まりであると言えない時代になっている。広大な太平洋に点在する島々を線で結び合わせた海域は、大きな大陸に匹敵する新しい価値観を有している。もし、その中の一島でもこれまでと異なる価値観で支配されると、太平洋の伝統的な秩序が乱れることになり、太平洋の一員でもある日本、オーストラリア、ニュージーランドのみならず、ASEANの平和と安定にも大きな影響を与えることになる。

例えば、日本は中国の第2防衛ライン上にある戦略的要衝の地・パラオの自立発展にもっと親身になって支援すべきだ。聞くところによると、現大統領は親日・親米であるが、次の世代になると、間違いなく中国の巨額のマネー作戦に屈する恐れがあると言われている。決して楽観は許されない。

しかし、日本政府も財界人も、太平洋島嶼国をただ経済的・市場的な価値観だけで捉えて、多くの島嶼国を線で結んだ広大な海域空間としての政治的・経済的な潜在的価値を見出さずに、政府開発援助(ODA)の供与においても単純に人口比率で援助額を決めがちである。最近、太平洋の巨大な海域の一点が崩された。オーストラリアの面前のバヌアツやパプアニューギニアは、中国の軍事的色彩の強い港湾開発を許し、自らは巨額の借金に苦しむ破目になった。

ただ、中国側に立ってみれば、中国は社会主義政権を樹立して以来、50年代、60年代、70年代の冷戦時代に西側(欧米日)によって中国のアジア太平洋への南下を阻止する、いわば“竹のカーテン”で包囲され、太平洋、インド洋への出口がふさがれていた。

だが、中国は1970年代後半からの「改革・開放」政策の下で開かれた国になると同時に、海外への進出が可能になり、国力が増大すると、一気に南シナ海、東シナ海への軍事拠点化を推し進めることになった。これは、一種の過去の反動とも言える行動である。中国にとって、外洋展開が可能になるにつれ、一帯一路の一帯化(外洋進出)は歯止めがきかなくなっている。

ODAをインド太平洋戦略に生かせ

一方、日本では中国の動きに鋭く反応するように、安倍首相の第一次政権時代の2007年に、首相自らインド国会で「インド洋と太平洋の2つの海の交わり」と演説して以来、「自由で開かれたインド太平洋戦略」と呼ばれるようになった。特に、中国が南シナ海や東シナ海での軍事拠点化を強引に進めることに対し、航行の自由、法の支配などの価値観を強調してきた。そして、インフラ整備などを通じた連結性の強化による経済的繁栄も求めている。

この考え方は、中国の太平洋、インド洋への一帯的進出に対抗したものとは言わないまでも、日本にとってインド洋は中東からの石油輸送のシーレーンであると同時に、ヨーロッパとの交易、アフリカ東海岸諸国での経済開発、経済進出という面での海上ルートとして重要な役割を担っている。

そういう条件下で、日本はマラッカ海峡の航路整備から始まり、太平洋、インド洋、アフリカ東海岸にいたる海上ルートの拠点とも言える港湾開発を援助してきた。しかし、こうしたODA実績は広く世間に伝わっていない。非常に残念なことである。

太平洋側では、バヌアツのポートビラ港改修、サモアのアピア港改修、インドネシアの最近の例ではジャカルタ郊外のパティンバン港開発、カンボジアのシアヌークビル港整備、東部タイのレムチャバン港やサッタヒープ港、インド洋側ではミャンマーのティラワ港、スリランカのコロンボ港やトリンコマリ̶港整備、ケニアのモンバサ港開発、モザンビークのナカラ港開発、マダガスカルのトアマシナ港拡張、ジブチへのフェリー供与などをODAで支援している。日本は海洋国家、貿易立国として世界の港湾開発・整備を援助してきた。その実績は、中国の一帯一路にひけをとるものではない。ただ、残念なことであるが、ODA実績がどこまで国家ビジョンと連動していたかは判然としない。継続は力である。この際、戦略的な視点で、ODAによる各港湾開発とそのメンテナンスをもう一度再検討する必要があろう。

最後に問題提起したいことがある。それは太平洋―インド洋を連結させながら、アフリカ開発にどう結びつけるべきかである。政府にその戦略を具体化してもらいたい。横浜での第7回アフリカ開発会議(TICAD7)も間近に迫っている。これからは、カナダ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど太平洋に面する国々も、インド洋経由のアフリカ開発計画立案に参加するよう働きかける必要があろう。それはまさに、太平洋―インド洋リンケージ・プログラムである。横浜でのTICAD7はこれまでと異なるアングルから躍進させてもらいたい。

※国際開発ジャーナル2019年1月号掲載

Follow me!

コメント

PAGE TOP