BRICSに追撃される日本 ODAのあり方が問われている|羅針盤 主幹 荒木光弥

不安な日本の国際的地位

ご承知の新興グループBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の大躍進で国際政治経済における先進国の既得権益が大きく毀損されることが予想される。さらに、BRICSに追従する開発途上国も多い。私たちは目下、天下泰平を決め込んでいるようだが、未来への航海は難航が予想される。

次の3つの動向は、日本の将来に警鐘乱打する一つの指標であると言える(神田眞人著『国際金融のフロンティア―経済協力・開発・通貨競争の最先端』(財経詳報社、2015年)から)。

(1)世界経済に占める名目GDPシェアの低落。国際通貨基金(IMF)統計を用いて世界経済に占める名目のGDPシェアを計算すると、日本のシェアは1992年の時点において15.4%で、G7全体で見ると3分の2を超える67.9%だった。ところが、2014年頃になると、それが6.0%となり、G7においては半分以下の46.1%へ縮小している。

他方、日本と同じ時期に中国は2.0%から一気に13.4%へと大躍進し、日本は中国の半分以下になった。それをBRICS全体で見ると、5.6%から一気に22.0%へ大躍進を遂げている。日本が対中経済協力を始めてからほぼ35年を経ているが、中国の国造りスピードは従来の開発途上国の定義を覆す勢いである。

(2)購買力平価のGDPシェアに見る中国の存在感。実質的な購買力平価ベースのGDPシェアを見ると、日本は1992年に8.1%で、G7は約半分の46.6%だった。ところが、2014年ごろになると4.4%となり、G7は3分の1以下の32.2%へレベルダウンした。

他方、同時期に中国は4.55%から16.3%へ、インドは3.5%から6.8%へレベルアップした。これをBRICSVSG7で比べると、BRICS全体はG7に拮抗できる30.1%へ伸長している。中でも中国は米国を抜いて世界一になっている。日本にとって衝撃的なことは、中国の3割以下に落ち込んだことだろう。

(3)20年後の2035年の名目GDP。経済協力開発機構(OECD)が35年の名目GDPを試算している。それによると、中国24.3%、米国19.3%、インド11.3%、日本4.1%である。これを先進国VSBRICSで見ると、G7の35.3%に対してBRICSは43.0%で、20年後にはBRICSがG7を追い抜くという逆転現象が起こる可能性が強まっている。

これまでの世界は南北の経済格差で大きな不平等を生んでいた。その格差是正に途上国援助の意義が見出されてきたが、20年後には経済的に南北の逆転現象が起こる可能性が強まっていると言えよう。

強まる中国の援助攻勢

ただ、これらは一つの試算であって、世界にひとたび異変が起こると、今の予測がどう変化するか定かではない。しかし、こうした予測から鮮明に照らし出されたことは、これまで日本が懸命に援助してきた多くの開発途上国の大躍進である。私たちは、今ここでもっと真剣に、もっと戦略的に今の政府開発援助(ODA)のあり方を吟味する必要があろう。

今後、間違いなくBRICSの中でも援助大国としての中国の存在感が高まるに違いない。すでにアフリカ大陸での中国の物量作戦的な援助攻勢に、日本のみならず欧米も沈黙したままである。

ただ、今の中国の援助スタイルを見ていると、昔の日本を見ているようで気持ちが悪い。たとえば、アフリカでの多額の開発資金を投入して、多量の物資(鉱物、農産物など)を中国へ輸入する“開発輸入”は、日本の1950~60年代の資源確保政策そのものである。

また、タンザニア、ケニアなどに見られるように、中国は道路、鉄道などの運輸インフラに多額の資金を投入して、経済開発の誘発はもとより国威発揚を狙っていると見られているが、この場合も日本が東南アジア経済開発で見せた貿易、投資、経済協力の、いわゆる「三位一体の開発方式」をヒントにしているように見える。

さらに、中国はアフリカの各国各地に「工業団地」を造成し、そこに中国企業を誘致するアフリカ投資戦略を展開しているが、これも日本が1970年代から80年代にかけての東南アジアで繰り広げた「工業団地」戦略を踏襲している。たとえば、それはタイの巨大な東部臨海開発(イースタン・シーボード・デベロップメント)援助のそっくりさんである。1960年代には韓国の馬山輸出工業団地、台湾の高雄輸出工業団地が造成され、軽電気製品の対米輸出基地としての役割を果たしていたが、これらの日本の経験も反映されていた。

とにかく中国は日本の東南アジア援助のすべてを研究し尽くし、その成功例づくりをアフリカで実践していると言っても過言でない。

わが国ODAの比較優位

そうした状況の下で、日本は第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)でどう対処しようとしているのだろうか。これまでの援助手法では中国に勝てない。ここは日本の正念場である。日本のこれからのODA戦略は、すでに安倍総理が日本へのアフリカ留学生誘致戦略を展開しているように、一つはアフリカのジョブ(仕事)を支える実践的人材養成であり、二つは行政近代化を支えるテクノクラート(官僚)の育成であろう。

高度人材の育成では、すでに日本が20年の歳月をかけて建学したケニアのジョモケニヤッタ農工大学があるが、ここの卒業生たちはケニアの産業界で圧倒的な実力を発揮している。

さらに、この大学は今や東アフリカ圏を代表する大学へ成長している。実践的人材育成では、すでにセネガル、ウガンダ、ザンビアに職業訓練学校を早くから創設支援している。この3つの職業訓練センターは、アフリカでの現場技術者の育成に関する経験と知恵を蓄えているはずである。

日本は過去のこうした経験をもとにした現場人材、優れたテクノクラートづくり援助では比較優位に立っているはずである。アフリカ援助はその試金石になるであろう。

中国も現在、すでに多くのアフリカ人留学生を受け入れている。彼らもインフラ援助だけでは長期的国益は守れないことに気付いているはずである。いずれ教育協力の国際競争力も問われる時代になるであろう。

※国際開発ジャーナル2016年5月号掲載

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