受注拡大の課題
(一社)日本経済団体連合会(経団連)は、3月20日付で2017年度版の「戦略的なインフラシステムの海外展開に向けて」と題する提言を発表した。
第1部は、インフラ海外展開に関する政府の取り組みと官民連携。第2部はインフラ輸出先の主要国・地域の概観(制度的問題点を指摘)。全体としては、企業側から政府や関係機関へのインフラ輸出に関する要望、要請となっている。安倍晋三内閣は13年、「インフラシステム輸出戦略」を打ち出し、20年までに約30兆円のインフラ受注を実現することを目指している。提言報告書では、インフラ受注拡大への課題が次のように提示されている。
(1)政府予算の充実と制度改善。外務省のODA予算をはじめフィージビリティー・スタディー(F/S)、開発途上国からの招へいや人材育成などの各省予算、関係機関への出資、運営交付金、分担金・拠出金などのODA事業費を十分確保すること。中でもインフラ案件の自力発掘と創成のために、相手国との人的交流を推進し、計画案件に関わる相手国人材の育成や交流を重視すべきだ。
(2)国際競争力の強化。戦略的なトップセールスは重視すべきであるが、相手国のニーズを踏まえた「トータル・ソリューション」(総合的解決)を目指すべきである。まず、上流とも言うべき相手国との「政策対話」、そこから生まれる「マスタープラン」(総合開発計画)の策定、これに基づく下流とも言うべき関係企業との協業、各企業の技術・ノウハウの融合という包括的なトータルパッケージによって競争力を高める必要がある。
他方、質の高いインフラの理解を国際的に広めるためには、相手国の入札制度や体制強化をバックアップし、日本の技術への評価を高めるために相手国の関係者を招へいし、日本からは専門家を派遣するなどして相手国の実務人材の育成を支援する必要がある。これら人材群の中から双方の“橋渡し人材”(コーディネーター)が官民ともに重層的に育成されなければならない。
スペック・イン戦略
(3)国際的な枠組みを通じたルール整備、標準化の必要性。日本は質の高いインフラ整備に向けて「国際的なルールづくり」、「標準化」でイニシアティブを発揮しなければならない。17年のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で「質の高いインフラに関するガイドブック」の強化が合意されている。他方、中国も参加した経済協力開発機構(OECD)の輸出信用ルールの作業部会では非OECD諸国を含めて、輸出信用ルール策定が討議中である。
(4)第三国市場協力。日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」の下で米国、インドなどとアフリカを含むインド太平洋地域の連結に向けた協力を進めるとともに、「一帯一路」構想の中国とも協力すべきである。対象国を含めた三者がWin-Winとなる案件形成に向けてプロジェクト候補に関する情報提供や交換の窓口を設置し、官民協議の開催、企業マッチング提供などが必要だ。
(5)官民連携の推進。海外インフラ整備で、企業が成果を挙げるためには案件組成の最初の段階から官民連携を進め、案件選定、工期や予算の適正化など、関係者間の意志疎通や協議が不可欠である。企業と相手国政府、発注機関とのトラブル(現地政府負担、工事代金の支払い遅延など)で、わが国政府や関係機関の申し入れなどが期待される。
端的に言うと、どうしたら日本に有利な技術的ハイスペックをインフラ計画に盛り込むことができるかが成功への道だと言ってもよいだろう。しかし、それは容易なことではない。相手の信用を得るためには時間が必要だし、コストもかかる。ただし、もし信用が得られれば、あえて「スペック・イン」という言葉など不用となろう。
まず人間的な信用が大切で、その中で、もし技術的な師弟関係と信頼関係が生まれれば、日本のインフラ建設計画に対する信用度も上がることが考えられる。
急がば回れである。時間をかけて、まずはビジネス的な臭いのない技術的信頼を涵養し、それが人間的な信頼にまで高められると、日本のハイスペック技術の信用に連結するはずである。「スペック・イン」という作為的な発想などは不用となろう。とにかくODAは非営利という意味と意義が充満している概念である。それを最初からODA不信につながるような使い方をされては、国民にとっても悲しい限りである。
インフラ輸出企業への注文
最後に、今回の経団連提言は政府への要望であり要請でもあるが、自らこうするという自らへの提言はなされていない。なぜ、日本の質の高い技術の認知度が国際的に広がらないのか。
自ら企業技術の分析を行い、その競争力(単に技術の競争だけでなく価格競争力も含めて)を厳密に分析し、むしろ、そうした技術開発の分野での政府のバックアップを求めてはどうだろうか。
さらに、ビジネス界の国際的人材の問題にも自ら言及して、ビジネス界としてどうしたらインフラ輸出の競争力を強める人材開発の協力が可能かを提示してほしい。かつては、総合商社マンがインフラビジネスの担い手だったと思う。今では企業活動での「コンプライアンス」が求められ、開発途上国のインフラ発掘に強い商社マンは激減している。そうした中で、多くの有力なメーカーが集まった日本経団連は、自らメーカー中心のインフラビジネスに強い人材をどう育てるのかにも言及してもらいたかった。
インフラ輸出のかつてのような政府による護送船団方式は、民間のインフラ輸出の国際競争力を失うことになりかねない。したがって、政府も民間ビジネスの自主性を失わせるような強権的な要請は控えるべきだと思う。
「官民連携」というコンセプトはODA、国際協力から生まれたコンセプトである。そこでは、官側の公共性と民間の資金力と技術力をベースにしたバランスのとれた活力が求められている。しかし、政府のODAの使い方を見ていると、民間活力を引き出せるようなバランスの取れた行動方式が見えてこない。そこには、政府の短期的目的と民間の長期的目的とがスレ違いを起こしているように見える。ODAはその狭間で、理念喪失のような状況に追い込まれていると言っても過言ではない。私たちは官民連携の真の意義を見失ってはならない。
※国際開発ジャーナル24年9月号掲載
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