政府のインフラ輸出戦略 ODAはどう貢献できるのか|羅針盤 主幹 荒木光弥

DAC監視下の円借款

現在、政府開発援助(ODA)最大の政治的課題は、安倍内閣の打ち出している「質の高いインフラ輸出」戦略へどう寄与できるかである。安倍内閣のもう一つの政策「地方創生」には、すでに中小企業海外展開支援でカバーしている。

ODAが政府の政策課題にこれほど積極的に対応しているのは、歴史的に見ると、1950年代から60年代にかけての輸出振興政策への寄与以来ではないかと思う。

あの頃の日本は総力を挙げて外貨獲得に邁進していた。当時は賠償援助で多くの資機材が東南アジアに輸出され、日本の産業界の復興と活性化が図られ、こうした背景の中で電気・電子製品などの輸出市場が東南アジアで確立された。

円借款協力は賠償などの経験から生まれたもので、タイド(ヒモ付き)援助として急速に、かつてのヨーロッパ市場を広く侵食していった。ヨーロッパの危機意識は一気に高まった。

ヨーロッパ勢は、日本の円借款協力を援助というカテゴリーでなく、貿易というカテゴリーの中で議論し、最終的にはヒモ付きODAと言うことで、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)に持ち込み、日本の輸出振興の最大の武器と言われた円借款協力にアンタイド(ヒモ付き撤廃)という歯止めをかけた。その状況が今も原則として踏襲されている。

その歯止めは、今も円借款協力に付きまとっている。日本はタイド型円借款協力の緩和を図って、日本独自の技術を活用した円借款の本邦技術活用条件(STEP)制度を発案している。しかし、これもDACの監視下に入っているために中途半端なタイド型援助に仕上げられている感じだ。

円借款協力は原則、国際入札という関門をくぐらなければならない。また、最近では援助される側も一銭でも安くしようと、国際入札を求める。

インドのように、わが国首相のトップダウン外交による円借款協力でも完全ヒモ付きではない。地元のインド企業でも中身は欧米系メーカーとの技術的ジョイントが含まれているので、決して楽観は許されない。

その上、円借款協力は返済が義務付けられ、政府保証が求められているので、さきのインドネシアの高速鉄道の国際入札のように、相手に政府保証なしの合弁方式で挑戦されると太刀打ちできない。

プラス・アルファー付き協力

しかも、借款援助は相手の要請に応じる形で始まるので、相手の要請をいかに確実に取り付けるか、という難問を抱えている。昔のような世界的な開発資金不足時代はいざ知らず、今や資金の国際的流動性は異常なほど高い。だから、相手国にとって円借款を導入することによって、大きなプラス・アルファーを得ることができるかどうかが要請へのインセンティブになる。

想像するに、それらは当該国が必要とする日本独自の技術、あるいはマネジメント・システム、あるいは経済・産業の開発を促進する政策支援、さらには開発計画を立案できる人材育成などをパッケージにした提案かもしれない。日本が国際入札を有利に進めるためには、以上のような借款プラス・アルファーを用意する必要があろう。

これをODAベースで可能ならしめるには一つは政策支援、もう一つは人材育成であると言える。政策支援では全体としての国家政策もあるが、個々の産業政策もある。さらには、より具体化した産業別、地域別の国家開発計画(マスタープラン)づくり協力もある。

マスタープランづくりは、戦前の満州開発時代からの日本のお家芸でもある。ところが、マスタープランづくり協力のODA予算が年々減らされて、今では後継者を育てることもできない状況にある。ただ、マスタープランづくりはすぐに役立つことを優先して、短期的活用だけに拘るとマスタープランではなくなる。経済開発でも産業開発でも地域開発でも、一つひとつの開発計画の優位性を担保し、長期の開発戦略的ビジョンを描くのがマスタープランであろう。

日本はこういうODAの特技を持っている。マスタープランづくりでは次々と時代の要請に応じて、たとえば電力、港湾、鉄道などのインフラ事業が高いプライオリティーをもって実施される。

これは一つの仮説だが、もし日本がそうしたマスタープランを手掛けていればその開発情報が手元にあり、その計画立案に加わった人間関係も生かされて、日本に有利に働くに違いない。少なくとも、一つの国のマスタープランづくり協力を10年も継承すると、そこに関わる相手人材とのヒューマン・リレーションは間違いなく確立されるはずである。

人脈形成の協力を

これは一つの提案だが、日本が相手国のマスタープランづくりに協力する時、その作業を担当する開発コンサルタントに、マスタープランづくりを担当する相手国人材の養成も担ってもらうと、日本との長い人的関係が築かれ、将来にわたる意志疎通が確立され、将来のインフラ輸出で大きな担保効果をもたらすかもしれない。

次にODAによる人材育成協力とインフラ輸出戦略との関係を考えてみよう。ODAには人材育成のための研修事業がある。これまで産業の多分野にわたって専門的研修を実施しているが、より高度な大学院への入学協力という高度人材育成も実施している。

なかでも、開発途上国の専門分野別の官僚育成は、インフラ輸出戦略にとって重視すべきジャンルである。セクター別の計画立案官僚の研修を出前研修も含めて計画的、継続的に実施すれば、その紐帯関係は日本にとって大きな財産となり、貴重な人的パイプ役を果たすことになる。ドイツなどの研修には、そうした役割が内包されている。

もし、日本のODAが政府のインフラ輸出戦略に長期に寄与できるとしたら、ODA研修としての人材育成を通した人脈づくり、またマスタープランづくり協力による相手国プランナーの育成などを通しての貢献などが考えられる。

※国際開発ジャーナル2016年4月号掲載

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